第5話警戒心と敬愛的

5月ともなれば惜春せきしゅんも忘れ初夏しょかの空は眩しい。教室から屋上に僕は学園1と呼ばれる美少女と一緒に食事になった。懸念材料だった後ろに追うものはいない。


さすがに考えすぎか。


「あそこでいいか」


僕が指をさすのはベンチ。

廊下から遠い場所。


「あっ、うん。いいよ」


少し不思議そうにしながらも返答する。ベンチを座ると何故か右の近くに座る。こぶし一つ分程度の距離で。


「えーと、今日は雲一つもない。

いい天気ですよね」


「ハァー。お前、語彙力ごいりょくがないのか?こういう雲が無いのと少ないのを快晴って言うんだよ」


「そうだよね。あっははは」


「チッ、なに作り笑いを浮かべてやがるんだよ」


「ご、ごめんなさい・・・・・」


膝に置いていたお弁当を開け箸を持ったままシュンとなる。

罵詈雑言ばりぞうごんでもすれば激昂するか泣いて逃げると思ったんだが、こうしてうつむき落ち込まれると後味が悪くなる。


「いや、僕が悪かった。ごめん」


「・・・うん」


「今を言ったことは本性だけど

本気じゃねぇんだ。

僕ができる範囲があれば

なんでも言ってくれ」


下げていた顔をおもむろに上げる。やや涙目とリスのように頬を膨らませ軽く上目遣いで

睨んできた。


「でしたら、次も・・・私が満足するまでお昼に付き合ってください」


「確認だが、それは学校での中だよな?さすがに休日は無理だぞ」


悪態の一つでも吐くと決めつけた僕はその以外な言葉に用意した回答が出来ずに思ったことを素直に言葉にすることにした。


「うん。いいよ・・・えーと

仁科にしなくん・・・・・」


「・・・・・どうした。顔が赤い上に落ち着かないようだが?」


この反応に好きでは無いかとバカな発想したが、ののしられた相手に好意を抱くのは常識的に考えてあり得ない。


考えられる病状も思いつかず

直接本人に問う。

どうしたのか、質問を掛けると

肩が跳ねるように動き視線は向けたり逸らすのしどろもどろ。


「あ、あの・・・・・えーと

仁科くん休日ってなにをして

過ごしているの?

わ、私はねぇショピングとかなんだよ」


「あ、ああ・・・休日なぁ。

本を読んだり勉強ぐらいだな」


そんな当たり前の事を訊くのに

そんなに慌ててたのか。

本当に危険かもしれないなぁ。


「そ、そうなんだ・・・

私も本が好きなんだ。

以外かもしれないけどライトノベルも読むんだよ私」


「知らんな。なんだそれは?」


「えっ!?お、おかしいなぁ。

オタクしゅうがしたのに」


ライトノベルぐらい知っている。

前はけっこう読んでいた。

あの頃はラノベオタクと言っていいほどに。さて、質問は終わったようだし。


「話は終わりだ。僕は読書する」


ブレザーの懐から本を取り出し

片方は登校中コンビニで買ったコッペパンを食べる。パンのカスが落ちないよう気をつけて。


「えぇー!?仁科くんすごい

唯我独尊ゆうがどくそん


「・・・・・」


「仁科くん。聞こえている?」


「・・・・・」


「ま、マジですか」


何か隣で騒いでいるが、読書中に声を掛けるなどマナー違反にもある。シカトという失礼な返しにも不満そうにされる言われはないと思ったことが時間の浪費と判断して除外。


この読書スタンスは賛否両論あるだろう。ページが汚れる可能性があるとか

集中できないなど。それはともかく吾輩わがはいは猫であるは歴史の話をよくするなぁ。


この時代の人々だと猫の扱いが雑だったりする。現代人からすれば理解を苦しむ内容もあるが

昔の認識や行動など知り学べることもある。それを比較すると今は

改善していると実感もできる。


「・・・・・」


「・・・・・」


静謐せいひつな読書の一時ひとときに心が安らいでいく。ふむ夏目漱石なつめそうせきは探偵が嫌いじゃないだろうか。ロクでもない人のように書かれている。さて、僕の配慮が無い振る舞いに呆れていないだろう。


「・・・どうして、いるんだ?」


スマホをいじっていた。視線をスマホから僕に花を咲くような笑みを向ける。


「あー!やっと読み終わった。

信じられないんだから。

どれだけ声を掛けても無視するから!」


途中からちょっとご立腹となる。

いや、全力で怒らないのか。


「僕にまだ用があるのか?」


「あるよ!いっぱいだよ。

ねぇ、昨日どうして私を助けたの」


「お前のような美少女をカッコよく救えばれるだろう思ってなぁ。惚れたか?」


「なぁ・・・デリカシー無さすぎ!!そ、そう言うのは、もっと段取りと言うのかゆっくり愛を育んで使う言葉でしょう」


「冗談だから本気にするな。

他には?」


こういう言葉には慣れていると思ったが顔を赤くかなり戸惑っていた。うーん、リア充や昨日の告白などで余程のことじゃないと

赤くならないと思ったんだが。


「むぅ、答えてくれない・・・・・

話を促すなんてずるいよ。

ハァー、それじゃあクラスでは

しゃに構えるのどうして」


「知っているか今では使うと混乱するから指摘しない方がいいが

斜に構える意味は、改まった姿勢で意味なんだ。バカに見下すような態度を取るのは誤用ごようなんだ」


人差し指を左右に軽く振り説明する。受け流すのが、狙いで。


「残念でした。二度目は通用はしないわよ。それ嘘でしょう」


「・・・そうか。知らないのか」


斜に構えるのは真剣な態度の意味は本当なんだがなぁ。信用がないのは僕もそうだから仕方ないか。


「あ、あれ。もしかして・・・・・」


スマホを素早く操作する。

意味を知ったのだろう。ゆっくり視線を戻して苦笑を浮かべる。


「あ、あはは。語源も見たけど

剣道の中段の構えなんだね。

ななめに構えるから

しゃに構える」


「ハァー、偏差値が一気に下がりそうな会話だな」


つい大きめな嘆息がこぼれる。


「ムッ、失礼なぁ。こう見えても私テストでは90点を出すんだよ」


「へぇー、そうか。スゴイなぁ」


「ぐっぬぬ」


煽るような返事になったが、奴は

唸りながら睨んで来る。せないのは本気で恨んではいない。たずねようかと逡巡しゅんじゅんしていると予鈴よれいが鳴る。


「ほら、行くぞ」


「・・・・・」


ベンチから腰を上げる。返事がなく何があったか気になり振り返ると、ポカンと放心していた。


「どうしたんだ。ハトが豆鉄砲を食ったような顔して」


「な、なんでもないよ。行こう」


ハッと意識を取り戻したような反応を示すと立ち上がり、言葉と

僕の横へ立つ。

ニコニコして何が気に入ったのか本当に解せないなぁ。

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