第4話ひとりの絶対孤高

派手にやり過ぎた。

自らの行いに軽率だったと反省はあれど後悔はない。もし、動かなかったら優衣に好きになる資格はない!

黄昏に照らされる坂道を降りながら、愛おしい人がいない家に。


(この寂寥感せきりょうかんが荒んだ僕の心を静かにさせてくれる)


一人で帰路に就くのも僕が弱者で最も弱い立場を作るための演出。

これも僕が最弱。そう思わせるために。


(手は抜かない。優衣を助けられなかった僕の罪と罰。贖罪しょくざいは過去から今がある)


目的を完遂する。それは、決して覆れない!優衣の墓前に誓った。

あの夕焼けに一人で歩くと、どうしても考えてしまう。


(優衣・・・・・)


もし、優衣が亡くならずに

こうして登校も下校も一緒に隣に並んで歩くのを・・・


(そんなこと、もう2度とない・・・んだ。そう、2度とだ)


隣に高校の制服をした幻視を、

いくら悲壮感に打ちひしがれても

戻ってもこないし、そのもしもなど絶対に訪れない。


伝えたいことややるたいこと僕も優衣もあったのをすべて失った。


「だから、もう最後にする。

この悲しみを味わうのは僕で最後だ!」


根本的な解決策は無く、なんとかしよう気持ちだけ積もる。

一人だけの道中は、思いのほかに荒んだ心を癒されていく。前は一人ではなく優衣がいたが・・・考えるのをよそう。


(この家に、入るのか)


生まれてからずっと慣れ親しんだはずの家。見上げ今の心情は絶望的な気持ちにさせる。

天涯孤独てんがいこどくを強く実感させるのは、この家だ。

深呼吸して、玄関に繋がるドアノブを掴む。


「ただいま!」


「おかえり、お兄ちゃん。

もう、今日は遅いよ!」


今でも違和感を覚えずにいられない呼び方。僕の中では特別の意味があり聖域を土足で入った、闖入者ちんにゅうしゃの認識としてある。しかし決して面を出すわけにはいかない。


「はは、ごめんよ。遅くなって」


頭を優しくなでる。目を細め、気持ち良さそうになる。

前は、警戒して近づこうとしなかったのに、随分ずいぶんと懐いたものだ。


「んっ・・・・・」


瑠香るか。今日はハンバーグだ」


「へぇー、ハンバーグなんだ」


なでた手を離し、靴を脱ぎ廊下を歩く。瑠香は後ろに歩きにこやかにしているのだろうと思った。

夕食と入浴を済ませ自室に入る。

椅子に腰を掛け、机に置かれたスマホを手にして指を動かしていく。相手は戦友で親友のライン無料通話を掛けて。


『もしもし。虎繁とらしげなにかあったか?』


相変わらずの同い年とは思えないダミ声。しかし、濁ったような声でも魂は、清く熱い男だ。

僕が唯一と心を許した山本晴幸やまもとはるゆきは、これが

友人からの駄弁りではないと解っていた。


「自意識過剰で井戸の中のカエル思考リア充を倒したから、

SNSなどフェイクが来るから頼む」


『いつもながら、端折りすぎるぞ』


むっ、指摘されて説明にもなっていないことに気づく。

まだ、情は捨てきれていない。


「そうだな。実は――」


今度こそ事情をかいつまんで説明する。


『そうか。SNSなどの噂を広まる前に、それがしが対処しろか。よかろう、任せろ』


「助かる」


『ここからは、雑談なんだが・・・』


「雑談?」


『暴力で解決する以外は無かったのか虎繁』


「・・・無かった」


僕も冷静さを欠けていた。

晴幸の言うとおり実力行使以外の方法もあったのだろうけど

器用では無い。でも反省しよう。


『それよりも、マドンナの今出川いまでがわさんを助けるなんてなぁ』


マドンナって・・・古くないかそれは。ともかく狼藉者と、その今出川と呼ばれる二人はSNSなどで噂を広めようと晴幸がなんとかするだろう。特定の友人のみライングループもどう情報をなんとか

するかは知らないが。


「気になったんだが、今出川って有名なのか?」


興味もないが、周囲や晴幸が憧憬のようなものに気になった。


『どれだけ、興味がないんだよ。

ハァー・・・いいか!学園美少女ランキング1位の今出川さん』


「そうか・・・」


気軽に訊いてみたが、学園1位ときたか。そんなランキングがあるとは、どこで開催していたやら。


『それが、きっかけで今出川さんが虎繁に惚れるかもなぁ。

マンガの展開なら―――』


「んなもん、あってたまるかよ」


悪態をついて、通話を切る。

少し強引な会話は気が置けない友人だからこそできる行為。

明日も悪意に溜まった代わり映えのない学舎に行く。


僕の扱いも評価も悪いほうで。

そして翌日。朝のホームルーム。

教室は僕の噂がなく昨日と変わりない、晴幸の裏工作の賜物たまもの。えーと、そうだ!今出川がこうして入っても昨日の再現。誰隔てもなく挨拶していき

こちらに視線を向けると口を引き締めるようなことを・・・?

そして、ゆっくり歩んでいく。


「お、おはよう」


なぜ、頬が赤い!?


「え?あ、うん。お、おはよう

今出川さん」


しどろもどろ挨拶。急な変化に今出川は不思議そうに首を傾げる。周りは信じられないと反応だ。


「えーと仁科にしなくんってそんな喋り方だったの?」


「え?いや・・・・・その、そうなんだよ今出川さん」


くっ、やめろ。昨日は教室に声を掛けるなと伝えたはずだ。


「そ、そうだったんだ。

昨日は怒り心頭にはっして別人のようになったのよねぇ。うん」


自問自答して自分で納得する今出川。疑問があれば本人の目の前にいるから尋ねればいいのだが

天然だろうか。

怒り心頭に発する。達するでよく間違われるが実は発するが正しい。そんなこと思っている場合じゃない!


「そ、その今出川さんは今日は何をしに?」


僕も混乱してよく分からない問になる。


「そうだねぇ。私きみが気になったよ。よかったら昼食は二人で食べない?」


にこやかな笑顔で一緒に、誘いの言葉だった。周りは驚愕しているが一番驚いているのは僕だよ。

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