第94話乱闘
アイドル・台本を書き終えて
「とまあ、こんな感じですかねえ。テレビ用の台本って、まだパターンが確立されてないんですよねえ。舞台なら、もう台本は役者も裏方も全員に理解してもらう必要があるから、形式が決められてるんですけれど……テレビだと、カメラっていう要素がふえちゃいましたから、みんな試行錯誤してるんです」
モンスターマスター・不思議そうに
「ダメージ量は台本にはいらないんですね。わたしの台本には無駄が多かったってことなのかしら」
アイドル・慌ててモンスターマスターをフォローする
「違いますってば。あくまでこれは演劇用ですからね。実戦の稽古の台本なら、ヒットポイントの増減のダメージ表示は必要でしょうが、お客さんが演劇の立ち回りでそれを見たいかと言われると、『そんなものいちいち示してたらテンポが悪くなっちゃうよ』ということなんです」
ユウシャ・アイドルの書いた台本を読みながら悩みつつ
「最初に時間や場所、誰がどんな役をするか書いておくんだね、アイドルさん」
アイドル・ユウシャの質問に嬉しそうに答える
「気がつかれましたか、さすがです、ユウシャさん。モンスターマスターさんは、戦闘のすぐあとにされますから、いつどこでやるかは戦闘が行われた直後にその場所でとわかりきっていますが、通常の舞台演劇だと、どこの場所でどんな時間の設定なのかちゃんと明記する必要がありますからね。台本を考えた人は夕方のつもりだったのに、大道具さんが朝の背景を作ってしまうようなことを防ぐんです」
ユウシャ・アイドルの説明にふんふんと感心しつつ
「なるほどねえ。舞台ってのも難しいんだねえ。そういえば、ベンチャーさんが褒めてたよ。アイドルさんの『これは偽物の剣だ』って言ってアドリブのセリフでピンチをしのいだって話。セリフかあ。そういえば、ダメージ量がどうこうはないけど、アイドルさんの台本にはセリフがいっぱいあるね。これもお客さんを意識しているからなの?」
アイドル・ユウシャの言葉に照れながら
「いやあ、ユウシャさんにそんなふうに褒められるとむずがゆくなっちゃますよ。へへっ。それはそうと、セリフですね。ユウシャさん、モンスターマスターさん、実際の戦闘でわたしの台本みたいにペチャクチャ喋ったりしますか?」
ユウシャ・悩みながら首をひねる
「そう言われると……『痛い!』とか『やあ!』とかは言ったりするけれど、アイドルさんの台本みたいに喋りっぱなしではないかな……いやその、アイドルさんの台本が悪いとかって話じゃなくてですね」
モンスターマスター・戦闘の様子を思い出しつつアイドルの台本と比較しながら
「後ろで見てるわたしは作戦を変更を伝えたりしますけど、実際に戦っているモンスターさんは……ここまで話はなさらないわね」
アイドル・二人の答えを満足げに聞いて
「やっぱりそうですか。実戦だとそんな喋ってる余裕なんてないですよねえ。ですけど、そんな黙って戦ってるわたしたち役者をお客さんが見たがるかって話になるんです。そういうシリアスな静かに行われる劇の戦闘もあるにはあるんですが、そういうのばかりじゃあ、お客さんも飽きちゃうんですねえ」
ユウシャ・アイドルの説明に納得する
「なるほどお。これなら、誰がどのセリフを喋るかわかりやすいね。あたしが読んできた小説だとこんな書き方の小説なかったから、こんないい方法思いつかなかったよ」
アイドル。ユウシャの感想に答える
「小説と台本の書き方は違いますからね。わたしの台本が小説として読者に楽しんでもらえるかというと『いちいちセリフの頭にキャラクターの名前があってうっとおしい』なんて反応が帰ってくるかもしれませんが、台本はそれを読む全員が同じ舞台を作るための道具ですからね。読んで面白いかどうかではなく、読んで脚本家の意図が正確に伝わるかが大事なんです」
モンスターマスター・アイドルの説明に疑問をぶつける
「小説なら、読んだ方々が。『このキャラの真意はこうだ』『いやそうじゃない、このキャラはこう考えているんだ』なんておのおのの感想を持ったりするし、それはそれで素敵ことだと思いますけど、台本だとそれじゃダメなのね」
アイドル・モンスターマスターの疑問に感心する
「そういうことですよ。飲み込みが早いですね。わたし、モンスターマスターさんのことを初対面の時からいろいろ調べたんです。調べれば調べるほどモンスターマスターさんがすごいことをしてきたんだってわかって……あのときは本当に失礼しました」
モンスターマスター・アイドルの謝罪に恐縮する
「そんな、とんでもないことだわ。あこがれのアイドルさんにそんなこと言われたら……わたし、照れ臭くてどうにかなっちゃうわ」
ユウシャ・アイドルに許可を求める
「ねえ、アイドルさん。この方法をわたしが使ってもいいかな。この方法を使えば、わたしの四人パーティーと、ナイトちゃんの四人パーティーを合わせた八人の大乱闘のシナリオが書けると思うんだけども……」
アイドル・ユウシャの求めにこころよく応じる
「そんなの全然平気ですよ。この方法はわたしのオリジナルでもなんでもないんですから」
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