第92話ユウシャちゃんモンスターマスターちゃんに台本の書き方を教わる・ユウシャちゃんの部屋にて

「ううう、文字だけで、誰がどの会話をしているのか読者にわかってもらうことがあんなに大変だったなんて」


「ユウシャさん、モンスターマスターですけど……お話しさせてもらってもいいですか?」


「モンスターマスターちゃん! うん、いいよ。部屋に入って入って」


「じゃあ、失礼しますね……それで、お話というのはですね、ナイトさんにも聞いたんですが、なんでも文字だけで誰がどの会話をしているのか表現するのが難しいとお悩みになっていらっしゃるそうで」


「そうなの。本当にもう大変で」


「そうね。わたしも、戦闘の後に仲間のモンスターさんに今回の戦闘は『こうすれば良かったわね』なんて、今後に向けての対策をやるんだけど……その場合、さっきまでわたしたちを襲っていたモンスターさんを、誰かに演じてもらわなければならないでしょう? わたしの場合は、それを、その戦闘で戦っていなかった仲間のモンスターさんに演じてもらってたのね。だけど、これがもう、どのモンスターが何を演じるのかわかりにくくなっちゃって大変だったのよね」


「(そういえば、マージャンの捨て牌をモンスターマスターちゃんが全部覚えていた時、そんなことを言っていたなあ。戦闘の後に、その戦闘を振り返りつつこれからの対策を練るって。モンスターマスターちゃんはすごいなあ。どんな戦闘だったかを全部覚えているんだから)それは大変そうですねえ」


「それでね、わたし、台本みたいなもの描いてたのよ。その一つを持ってきたから、ユウシャさん、見てくださるかしら」


「台本ですか……じゃあ、拝見させてもらいます」




ゾンビ役・くさったしたい、スケルトン役・ガイコツ戦士、ケルベロス役・キッズドラゴン


ゾンビ、スケルトン、ケルベロスに遭遇する。


スライムナイト、スライム、魔導士が戦う


1ターン目


スライム・ブーメランを投げる。


ブーメランが飛んでいく。ゾンビに当たる。17のダメージ。スケルトンに当たる。19のダメージ。ケルベロスはひらりと身をかわす。


ゾンビ・毒の霧を吐き出す。


毒の霧が吐き出される。スライムナイトは霧を払いのける。スライムは霧を払いのける。魔導士は毒に侵される。


スライムナイト・ゾンビを攻撃する。


ゾンビがスライムナイトに斬られる。31のダメージ。ゾンビがヒットポイントがゼロになり倒れる。


スケルトン・スライムナイトを攻撃する。


スライムナイトがスケルトンに殴られる。9のダメージ。


魔導士・火炎呪文でスケルトンを攻撃する。


スケルトンが火に包まれる。37のダメージ。スケルトンがヒットポイントがゼロになれ倒れる。


ケルベロス・スライムナイトを攻撃する。


スライムナイトがケルベロスに噛みつかれる。12のダメージ。


2ターン目


スライム・ブーメランを投げる。


ブーメランが飛んでいく。ケルベロスに当たる。18のダメージ。


スライムナイト・ケルベロスを攻撃する。


ケルベロスがスライムナイトに斬られる。32のダメージ。


魔導士・ケルベロスを攻撃する。


ケルベロスが魔導士に杖で叩かれる。8のダメージ。ケルベロスがヒットポイントがゼロになり倒れる。




「(一回の戦闘を文字で説明しようと思ったら、こんなに長くなるの! しかも、読んだ限り、この戦闘って2ターンの短めのやつみたいだし。ちょっと長めの戦闘になったらどれだけ文章が長くなるんだろう)」


「その戦闘ではね、毒にかかった魔導士さんをスライムナイトさんが次のターンで解毒呪文で治してしまわれたのね。でも、それは合理的ではありませんでしょう。毒にかかっても戦闘中にダメージは減りませんわ。毒のダメージは歩いた時に減るものですからね。ですから、戦闘中に毒を治す必要はありませんのよ。そして、最後に魔導士さんが火炎呪文を使われてしまったのですね。でも、ケルベロスさんの残りヒットポイントからすると、魔導士さんの通常攻撃でも十分ヒットポイントをゼロにできる場合がありますから、マジックパワーの節約のためにも、そういう場合は通常攻撃をなさった方がよろしいでしょうね」


「(一回一回の戦闘ごとに、モンスターマスターちゃんは仲間のモンスターにそんなダメ出しをしてたんだ。そのダメ出しの結果がこの台本。たしかに、スライムナイトは解毒呪文を使ってないし、最後は魔導士が通常攻撃でフィニッシュしている。この台本で、モンスターマスターちゃんは今後の対策を仲間のモンスターにやらせてたんだ。モンスターマスターちゃんが聖母のように笑いながらの丁寧な物腰で、ここまで理詰めに説明されたら、そりゃあモンスターも逆らおうなんて気はなくすだろうなあ)」


「どうされたんですの? ユウシャさん、わたしの台本に何かおかしいところがありまして?」


「いえ、そんな、おかしいところなんてなにも……実によくお出来になった、緻密な作戦だと思います。誰がどんな行動をしているか、とってもわかりやすいです」

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