第90話ユウシャちゃんナイトちゃんと打ち合わせをする・ユウシャちゃんの部屋にて
「(テレビ出演って大変なことなんだなあ。それに出たいなんてあんな軽々しく言っちゃって……そうだよね。あたし、お客さんの前で演技なんてしたことないもんね……演技かあ)マオウ、カクゴ、コノユウシャガタオシテクレル」
「なにをやってるんですか、ユウシャちゃん」
「うわっ、ナイトちゃん。どうしたの、いきなり部屋に入ってきて。ノックくらいしてよ」
「いえ、ノックはしたんですが返事がなくてですね。そしたら、部屋から何か怪しげな呪文が聞こえまして。何か一大事かなと思って、無礼とは知りながらこうしてドアを開けたんですが……まずかったですか」
「(『怪しげな呪文』……自分でもひどい棒演技とは思ったけど、そこまで言われるなんて)ううん、ぜんぜんまずくないよ。それで、ナイトちゃん、何か用?」
「それがモンクちゃんが『センシちゃんに『モンクさんってナイトさんの手の甲にキスしたことある? 王女と騎士の主従の誓いみたいなやつ』なんて質問されたんだけど』なんて言ってきてね。モンクちゃんも急にそんなことを聞かれたからって目を白黒させてたよ。センシちゃんがそんな質問をする理由にユウシャちゃんはなにか心当たりがあるかと思って」
「心当たりは……あります。その、あたしがセンシちゃんに『女騎士が王女様に『一生お仕えします』なんていうシチュエーションってロマンチックよね』なんて言ったことが原因なんだと思います。ナイトちゃんは騎士で女騎士だから、そのあたり詳しいんじゃないかとセンシちゃんは思ったんじゃないかと思います」
「なるほど、そういうことか、これで合点がいったよ」
「と、ところで、ナイトちゃんはモンクちゃんの手の甲にキスしたことあるの? 誓い的な意味合いで」
「いや、ないよ。わたしとモンクちゃんは主従という間柄じゃないからね。関係としては同志という言葉が適切かな。主従という関係ならユウシャちゃんとセンシちゃんの方がそれっぽい気もするんだけど……どうなの、そのあたり。ユウシャちゃんはセンシちゃんに手の甲をキスされたの?」
「(こうして手の甲にキスって言葉にされるなんだかドキドキしてきちゃうな。なんであの時はセンシちゃんになら手の甲にキスされてもいいやみたいな気になったんだろう?)な、ないよ!」
「そうなんだ。ところで、部屋の外から聞こえてたあの呪文は何?」
「あれは呪文じゃなくて、マオウちゃんを倒す時の演技のシミュレーションと言うか……」
「へえ、ユウシャちゃんもまだマオウちゃんを倒す気でいたんだ」
「いやその、あたしがって言うよりも、マオウちゃんが『自分を殺せるものなら殺してごらん』ってけしかけてるふしがあって……あたしも? ってことはナイトちゃんもなの」
「そうなんだ。わたしの場合はマッドドクターちゃんにけしかけられてるんだけどね。『人間を滅ぼそうとしてた存在がほかならぬ人間だったんだよ。どうだい絶望しただろう。好きなだけ絶望していいんだよ。その絶望を思う存分わたしに発散してくれたまえ』なんて」
「あたしもマッドドクターちゃんに似たようなことを言われました」
「それにしても、マオウちゃんは『自分を殺せるものなら殺してごらん』かあ。戦闘狂なのかな。命がけの戦いがしたい、みたいな。それにひきかえ、マッドドクターちゃんは人間の心理分析としてわたしを絶望させたがっているように思えたんだよねえ。目的が真理の探究な気がするよ。まあ、それが心理学方面ならまだましなのかな。変な物理学の実験なんかされて、その結果が暴走でこの世が無になっちゃいますなんてシャレにならないよ」
「と、ところで、ナイトちゃんもマッドドクターちゃんとの決戦に向けて決めゼリフなんか考えちゃったりしてるの?」
「う、それは」
「あ、その感じだとあるんでしょ。ねえ、聞かせてよ。あたしのも聞いたんだからいいじゃない。ね」
「そ、それじゃあ……『マッドドクター! ワタシハケシテゼツボウシタリナンカシナイ。ナゼナラワタシハキボウノセンシダカラダ』……聞かなかったことにしてくれるかな」
「(ひどい棒読みだったな。あたしが言うのもなんだけど)そうしましょうか」
「演技って難しいんだね。決められたセリフを言うことがこんなに難しいとは思わなかったよ」
「そうなの。あたしも、子供の時から『魔王との決戦になったらこんなセリフを言っちゃうんだ』なんて妄想してたけど、いざ言葉にすると、これがまたうまくいかなくて……そういえば、アイドルちゃんが言ってたな。『自分と反対のキャラクターの方が演じやすい』って。たしかにその通りかも。モンスターマスターちゃんを悪く言うときはスラスラできた気がする」
「モンスターマスターちゃん?」
「あ、いや、こっちの話」
「でも、『自分と反対のキャラクター』かあ。わたし、つまりナイトちゃんの反対のキャラクターか……」
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