第89話ユウシャちゃんベンチャーちゃんにテレビ出演を持ちかける・テレビ局にて
ひゅーん
「うわっ、ユウシャさんじゃないですか。どうしたんですか、わざわざテレビ局にお越しいただくなんて」
「それはその……ベンチャーさんにマージャン中継のお礼を言ってなかったから」
「ああ、そういうことですか。それなら、お礼を言うのはこちらの方ですよ。なにせ、あのエルフクイーン様のマージャン中継ですからね。そんなものをテレビで映すことができるなんてテレビ屋冥利につきるってものですよ。スタッフも大喜びでした」
「そうですか。その、ベンチャーさん。エルフクイーンさんのマージャンみたいなものの中継ができて嬉しかったんですか?」
「そりゃあもう。わたしも人間ですからね。スポンサー収入とか、視聴率とかを全く考えていないとなれば嘘になりますがね。やはり、これまで現地でしか見られなかったものが、テレビというものでどこでも見られるようになる。これはすごいことです。となると、良い映像を全国のお茶の間に流したいじゃないですか」
「(こうして夢を語るベンチャーさんってなんだかキラキラしてるなあ。デシユウシャちゃんが結婚したくなっちゃったのも納得かも)ベンチャーさん、あたしがベンチャーさんのテレビに出たらベンチャーさんは嬉しいですか?」
「それはこちらとしても願ったりかなったりですよ。ユウシャさんのネームバリューは絶大ですからね。そんなユウシャさんがわたしのテレビ番組に出演していただけるとなればおおいにテレビの宣伝になりますし……出ていただけるんですか?」
「ベンチャーさんにはマージャン中継でお世話になりましたし……それにデシユウシャちゃんとの結婚……はまだだったから、婚約祝いと言うことで。あの、あたしのテレビ出演がデシユウシャちゃんとベンチャーさんへのお祝いになりますか」
「それはもちろんなりますが……そのですね、ユウシャさん。テレビと言うのは生放送でして……ユウシャさん、大勢のお客さんの前で何かしたことございますか」
「う、それは……ありません。テレビって今何台くらいあるんですか?」
「生産台数が百万台突破したところですかね」
「百万台!」
「それが全部ご家庭に販売されたわけではないですし、ご家庭のテレビが全部わたしの番組を見るわけでもありませんが……そうですね、ユウシャさんの映像が十万台のテレビの映ると考えてもらってよろしいんじゃないでしょうか」
「十万台! それって、十万人があたしを見るってことですか!」
「そうなりますかねえ。一台につき一人が見るとすればですけど」
「なにせ生放送ですからねえ。いろんな放送事故がありましたよ。わたしとしては、ユウシャさんが出演していただけるのはたいへんありがたいですけれど、そこでユウシャさんが恥をかくようなことがあってはならないと思いまして……」
「ちなみに、どんな放送事故があったんですか?」
「例えば、生放送で劇をやったことがありまして、お城で宝物庫の大事な剣が盗まれるという始まりだったんですがね。もちろん盗まれると言う設定ですから、その場面に剣はないはずなんですが、スタッフの手違いで剣が置いたままになっちゃっていましてね。放送が始まりました。兵士が『剣が盗まれた』と言う報告を受けて宝物庫に駆けつけました。でも、そこに無いはずの剣がありました。と言うわけなんですよ」
「それは……」
「その兵士役の役者さんも絶句ですよ。『剣が……ある』としか言えませんでしたね。わたしもその現場にいたんですが、『ああ、これでこの放送は中止だな』と思いました。現場に『完』と書かれた紙があってですね、劇の収拾がつかなくなった時にその紙をカメラに映すんですが……開始早々に『完』と画面に映すことになるのかなんて考えちゃいました」
「それで、その『完』と書かれた紙をテレビに写したんですか?」
「ところがそうはならなくてですね。脚本ではそのあと、王女役のアイドルさんが駆けつけることになってたんです。そのアイドルさんが駆けつけてですね、剣を見るなりこう言ったんです『この剣は偽物よ』ってね。それで、劇が再開したんです。『おお、たしかにこれは偽物だ。本物は盗まれたに違いない』ってね。で、あとは脚本通りにいきました。いやあ、あの時のアイドルさんはすごかったですね。なにせアドリブであれですからね。これぞプロだって実感しましたよ」
「(アイドルちゃんがそんなことを。『あたしに会えた』って感激してたアイドルちゃんがそんなすごいことができる女の子だったなんて)」
「生放送ってのはそう言うことが起こり得るものだと言うことはわかってください、ユウシャさん。ユウシャさんがわたしの番組に出演してくださるという気持ちは大変ありがたいのですが、そのあたりも十分理解していただけたらとは思います」
「(テレビも、それに出る役者さんも、それを作り出すベンチャーさんもすごいことをしているんだなあ)」
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