第88話ユウシャちゃんモンスターマスターちゃんにお礼を言う・モンスターマスターちゃんの部屋にて

「(ふう、なんだかんだで昔みたいに四人でマージャン楽しんじゃったな。モンスターマスターちゃんにはお礼を言わなきゃ。モンスターマスターちゃんの部屋に行ってと)モンスターマスターちゃん、ユウシャだけど、部屋に入っていい?」


「ええ、どうぞ、ユウシャさん」


 がちゃり


「その、モンスターマスターちゃん。どうもありがとう」


「あら、わたしはなにかユウシャさんにお礼を言われるようなことをしたかしら。わたしはただ、ユウシャさんに『マージャンやってみたいわ』って言っただけよ」


「そ、それはその通りなんだけど、とにかくありがとう」


「おかしい人ね、ユウシャさんったら。そんなふうにお礼を言われたら、わたし、困っちゃうわ」


「(これがモンスターマスターちゃんが聖母って言われる理由なのかな。自分が率先してなにかやり始めるってわけでもなく、後ろからそっと後押ししてくれる。しかもそれをひけらかしたりしない。そんなところにモンスターにしたわれる理由があったりするのかな)」


「ところで、ユウシャさん。マージャンでわからないところがあるんだけど教えてくださるかしら」


「いいですよ、なんですか、モンスターマスターちゃん」


「先ほどの南三局で八巡目にユウシャさんは二萬をお捨てになりましたけど、あの場面でのユウシャさんの手配からすると、三萬をお捨てなさった方が待ちが広がっていたと思うんですがどうなんですか?」


「え、その、あの、どういうことですか、モンスターマスターちゃん」


「ですから、南三局での八巡目のユウシャさんの手配はこうこうこうで、四人の捨て牌はああだこうだですから、他の三人の手配はこれこれと推測できて、山に残った牌がどれそれと見当がつきますから、あそこでは二萬を切らずに三萬を切った方が上がる可能性は高かったと思うんですけれども……わたし、何か変なことを言っていますか、ユウシャさん」


「その、モンスターマスターちゃん、マージャンのルール知らなかったんですよね」


「ええ、ですから、先ほどのユウシャさんたち四人のなされているマージャンを見てルールを覚えましたわ。マホウツカイさんの言うとおりね。実際のゲームを見てればルールはわかりましたわ」


「その、『上がる』とか『切る』とかの用語も……」


「はい。ユウシャさんたち四人が話していることを聞いてマージャンで使われる用語のおおよその意味はわかりました」


「それで、南三局の全員の捨て牌とあたしの手牌を覚えていたと」


「そうよ。間違ってたかしら」


「すいません、あたしにはわかりません」


「あら、そうなの。わたしの質問がトンチンカンだったのかしら」


「いえ、普通の人、少なくともあたしは一局一局の捨て牌も手牌も覚えていないものなんです」


「いやだわ。そうだったんですか。わたし、マージャンって初めてだからよくわからなくって」


「(十分理解されていると思いますが)その、モンスターマスターちゃん。記憶力がすごいんですね、他にも何か覚えているんですか?」


「他にもって……今まであったことはだいたい覚えていますけれど。これまでどこでどんなモンスターさんとどんなふうに戦闘していたかとか……」


「今までの戦闘内容全部覚えているんですか、モンスターマスターちゃん」


「ええ。一回の戦闘ごとに復習と今後の対策を練っていたわ。『さっきの戦闘ではスライムナイトさんが敵のモンスターさんの物理攻撃担当さんを攻撃しましたけど、そこは戦闘の始めにまずいやらしい状態異常魔法を使ってくるモンスターさんを攻撃されたほうがよろしかったんじゃあないかしら』みたいな感じで」


「そんなことをされていたんですか」


「そして、わたしが戦闘を文字に起こしてね。モンスターの皆さんにじっくり考えてもらっていたのよ。『あの時はああすれば良かったんじゃないかな』と言ったふうにね」


「(モンスターマスターちゃんがそんな戦闘分析をして傾向と対策を練っていたなんて。そこまでされていたんだったら、モンスターがモンスターマスターちゃんに従うのも納得だよ)」


「ところで、ユウシャさん。わたしにお礼を言う言わないはどちらでも良いとしても、ユウシャさんがお礼をしなければならない方がおられるんじゃなくて?」


「???」


「あの、テレビと言うものでマージャンの中継をしてくださった方よ。ベンチャーさんとおっしゃられましたっけ。あそこまでしてくださった方に、それっきりお礼もしないなんて……ユウシャさんがベンチャーさんとデシユウシャさんの一件でひともんちゃくあったことは知ってますけれど。それでもこういうことはきちんとなさった方がいいんじゃないかしら」


「(そう言えば……エルフクイーンさんとのマージャンの後、なんだかんだでベンチャーさんとはそれっきりになっちゃてたなあ。でも、お礼かあ。あたしに何かできることがあるのかなあ)」


「それにしても、あのテレビってのはすごい発明品ね。あれで遠くにいるアイドルちゃんのコンサートが見られたりするのかしら。だったら、ここレトロゲームセカイにいる誰かを見たいと言う人がたくさんいたら、大勢の人がその誰かをテレビで見れちゃったりするのかしらね、ユウシャさん。そうなれば、ベンチャーさんは大喜びしちゃうかもね」


「(それって、あたしがテレビに出ることがベンチャーさんへのお礼になるってことですか)」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る