第83話ユウシャちゃんセンシちゃんにガックリされる・センシちゃんの部屋にて
「(ふう、エルフクイーンさんは本当はソウリョちゃんの寿命吸ったりしてなかったのかな。多分そうなんだろうな。ソウリョちゃんにもエルフの里にエルフさんと里帰りするよう言っておかなきゃ。あれ、センシちゃん、が部屋でしょんぼりしてる)センシちゃん、どうしたの? ずいぶん疲れた顔しちゃって」
「ユ、ユウシャちゃん。これは……その……あの……」
「あのマージャンはすごかったね。あんな勝負二度とないかもしれないもんね。あ、そうか。あれだけすごい勝負に参加してたんだもん。センシちゃんが疲れちゃうのも当然よね」
「そ、そうなのよ、ユウシャちゃん。けっして、ユウシャちゃんの手の甲にキッスできなくて落ち込んでいるわけじゃないんだから」
「そうなんだ。それにしても知らなかったなあ」
「な、なにが、ユウシャちゃん?」
「センシちゃんが騎士が王女様にするみたいな手の甲にキスするのにあこがれてたなんて。それがやりたかったから、あんなに必死になってトップを取りに行ってたんでしょ」
「そ、そうなのよ。わたし、昔から騎士が忠誠の誓いとして、王女様の手の甲にキスするシチュエーションにあこがれててね。だから、マージャンに必死になっちゃった。今回はたまたま、そう、たまたま相手がユウシャちゃんだったけど、それに特別な意味はないんだから、ユウシャちゃん」
「ふうん。あたしもそのシチュエーションにはあこがれてたなあ」
「え! ユウシャちゃんって、誰かの手の甲にキスしたかったの? 誰? 誰の手の甲にユウシャちゃんはキスしたいの?」
「いや、あたしは手の甲にキスしたいんじゃなくて、されたいの。かっこいい女騎士さんに『一生お守りいたします』なんて言われながら手の甲にキスされるなんて、ロマンチックよねえ。ナイトちゃんもモンクちゃんにそんなことしてたりするのかな。今度聞いてみようっと」
「ユ、ユウシャちゃんってそんなこと思ってたんだ。は、初耳だなあ」
「あれ、言ってなかったっけ、センシちゃん。でも、センシちゃんって戦闘になるといっつもあたしを守ってくれてたよね。手の甲にキスして誓いを立てたわけでもないのに」
「そ、それはわたしは戦士で、身を呈してパーティーの仲間を庇うのが役目で、ユウシャちゃんは隊列の二番目だから、それを間近で目にしているから印象深いんだろうであって……」
「その、センシちゃん。あたしたちは冒険を辞めてレトロゲームセカイにいるんだけど、マオウちゃんは『いつでもわたしを殺しに来てね』なんて言ってるんだ。ねえ、センシちゃん、どうしたらいいのかなあ」
「ど、どうしたらって?」
「やっぱりマオウちゃんに対して殺しにいかないってのは失礼にあたるのかなあ。人間とモンスターってエチケットとかマナーが違うのかなあ。でも、あたし一人だとマオウちゃんにはとてもかなわないし……となると、センシちゃんにはまたあたしをかばってもらうことになるんだけど……いいかな、センシちゃん」
「ぜ、ぜーんぜん平気だよ、ユウシャちゃん。じ、じつは最近ちっとも戦闘してないものだから体がなまっちゃってね。だから、そろそろ戦闘訓練でも再開しようかなあなんて思ってたところなんだよ。だから、ユウシャちゃんがマオウちゃんを殺したいっていうのなら、それはとってもわたしにとってもいいことなんだよ。やっぱり目標があった方が訓練にもハリが出るしね」
「そうなんだ。なんだかごめんね、センシちゃん。あたしの都合でマオウちゃん討伐に付き合わせたり、辞めさせちゃたり、再開させちゃったり」
「だ、だからユウシャちゃんが気にする必要なんてないんだってば」
「あ、ありがとう、センシちゃん。じゃあ、誓いの儀式しちゃう?」
「ち、誓いの儀式?」
「『お守りいたします』って手の甲にキスするやつ。これからもあたしはセンシちゃんに守ってもらうわけだし、センシちゃんがキスするシチュエーションにあこがれてるなら、あたしもキスされるシチュエーションにあこがれてるわけだし……」
「今? ここで? しちゃっていいの、ユウシャちゃん?」
「センシちゃんがいいんだったら……」
「…………だめ、できない」
「え、どうして、センシちゃん」
「わたしはマージャンでトップを取れなかったから。トップを取ったらわたしがユウシャちゃんの手の甲にキスする約束だったのに……だから、少なくとも今はできない」
「そうか、そうだよね。ごめんね、センシちゃん。賭けの約束をチャラにするようなこと言いだしちゃって」
「ユ、ユウシャちゃんが謝ることはないよ」
「じゃ、じゃあ、今日はお疲れ様、センシちゃん。それじゃあね」
パタン
「ユウシャちゃん行っちゃったなあ。あのままユウシャちゃんの手の甲にキスしようと思えばできたのになあ……なんでわたしって昔っからこうなんだろう。肝心なところで一歩踏み出せないのよね。マオウちゃん討伐に行くときだって、『今日こそユウシャちゃんを魔王討伐に誘うぞ』なんて決心しては言い出せないことを何年も繰り返していたら、ユウシャちゃんに『魔王討伐に行こう!』って誘われちゃうし……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます