第80話ユウシャちゃんベンチャーちゃんに助けられる・エルフちゃんの部屋にて

 すたっ


「うわ、ユウシャさんじゃないですか。なんですか、いきなり」


「ベンチャーさんにお願いがあるんです。とりあえずいっしょに来てください」


「ユウシャさんの頼みじゃ断れませんけど……」


「よかった。じゃあ、瞬間移動しますよ。せーの!」


 ひゅーん、すたっ


「お願いってなんですか、ユウシャさん……って、そこのおわしますはエルフクイーン様じゃないですか。しかもマージャン卓を囲んでらっしゃる……と言うことは」


「ベンチャーさん、エルフクイーンさんを知ってるんですか?」


「知ってるも何も、エルフクイーンさんと卓を囲んで行方知れずになった人間は数知れず。『いったいどんなハウスルールのマージャンだったらそんなことになるんだ』ってマージャン好きだったら誰でも噂くらいはしたことありますよ。で、わたしもテレビと言うメディア屋の端くれですからね。いろんな情報が集まってくるんです。その中には、けして里から出ることがないエルフクイーン様のご尊顔のイラストもあるわけでして」


「へえ、そうなんですか。その様子だと、ベンチャーさんもマージャンが好きそうですね」


「いや、お恥ずかしながら。それにしても感激だなあ。こうしてエルフクイーン様と拝謁できるなんて。知ってますか、ユウシャさん。エルフクイーンさんと卓を囲むには、それはそれは厳しい資格審査があるんですよ。お金だけじゃダメなんです。社会的地位や名誉も必要なんです。そんなエルフクイーン様の闘牌を見られるなんて、ユウシャさん、すばらしいです。わたし、テレビで一発当てたら、『エルフクイーン様と卓を囲めたら』なんて恥ずかしながら思ってまして」


「(あ、エルフクイーンさんが機嫌をなおしたみたい。やっぱりほめられると嬉しいんだ)そ、そうだったんですか。それで、ベンチャーさんへのお願いというのはですね……」


「なんですか、なんでも言ってください、ユウシャさん」


「その、ここにギャラリーがいっぱいいるでしょう。で、マージャンの勝負だと、周りに人が大勢いるのには不都合があって……だから、ベンチャーさんのテレビで中継して、ギャラリーさんたちがどこか他の場所で観戦できないかなって」


「なんだ、そんなことですか。お安いご用ですよ。少し待ってもらえますか。テレポートして中継スタッフ呼んできますから。なに、心配ありませんよ。スタッフにもマージャン好きは大勢いますからね。エルフクイーン様の一戦を中継させてもらえると知ったら飛んできますよ。では、しばし失礼をば」


 ひゅーん


「(ふう、とりあえずベンチャーさんに了解はしてもらったな。あとはうまくギャラリーさんたちに移動してもらって、中継が問題なくできればいいんだけど )皆さん、もう少しだけお待ちいただけますか」


 ひゅーん、すたっ


「(あ、ベンチャーさんが戻ってきた、ずいぶん手際がいいんだな……あれれ?)」


「お待たせしました、ユウシャさん、この通りスタッフ一同飛んできました。『エルフクイーン様のマージャンをちゅうけいできるぞ』って誘ったら、我れ先に集まってきましたよ」


「その、ずいぶん大人数なんですね」


「そうですか? マージャンていう狭い場所で行われる卓上遊戯ですからこれでも少人数で済んでるんですけどね」


「少人数なんですか! これで!」


「ええ。中継にはたくさんスタッフが必要ですからね。撮影、音響、照明、効果……動力源も要りますし、例えばアイドルさんの舞台中継となったらこんな数のスタッフじゃ済みませんよ……実況と解説は今回は省かせていただきました。なにせ、エルフクイーン様のマージャンですからね。今回に限ってはわれわれテレビ屋は映像の撮影に集中させていただきます……おっと無駄口を叩いている暇はありませんね。それでは準備を始めさせていただきます。それではユウシャさん失礼させてもらいますね」


「(ベンチャーさんの一声でこんなに人が集まって一致団結して行動するんだ。ベンチャーさんってあたしが思ってるよりもずっとすごい人だったのかも。わ、なんだかよくわからない機会が次々と卓の周りにセッティングされてる。エルフクイーンさん『邪魔だ』って怒ったりしないかなあ)」


 わあっ


「(あれ、むこうでなにか歓声が起こった。なんだろう……うわあ、何あれ。ベンチャーさんにこの前見せてもらったテレビが何台も。全部違う映像が映ってる。卓を真上から見た映像がある。あれなら捨て牌がよくわかる。あ、センシちゃん、ソウリョちゃん、マホウツカイちゃん、エルフクイーンさんの顔がそれぞれ違うテレビに映ってる。あ、それぞれの手牌も映るようになってる。すごい、こんなの見たことない)」


 どやどや


「(うわあ、ギャラリーさんたちがみんなテレビの方にいっちゃった。それもそうか。卓の周りで観戦してたら、一人の手牌しか見ることができないけど、あれだけの数のテレビがあったら全員の手牌も四人の表情も全部わかるんだもんな)」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る