第79話ユウシャちゃんセンシちゃんにかばわれる。エルフちゃんの部屋にて
「しょ、しょうがないなあ。た、たしかにキスなんて、口づけなんてそうそう気軽にやっちゃうものじゃないよね。こ、これはなんとしてもわたしがトップを取るしかないわね」
「え、なに、センシちゃん。どうしたの、急に張り切っちゃって。なんだか顔が真っ赤だよ」
「ち、違うのよ、ユウシャちゃん。これは、ユウシャちゃんのくちびるを死守するための緊急避難措置なんだからね。けっしてわたしがユウシャちゃんとキスしたいからしゃにむにトップを取りに行くんじゃあないからね」
「そ、そうなの、センシちゃん」
「で、でも、ユウシャちゃんが言い出したことを撤回させるわけにもいかないよね。なんてったってユウシャちゃんは勇者なんだから。ひょいひょい言葉をひっくり返させるわけにはいかないもんね」
「あの、センシちゃん、あたしは前言撤回なんてちっとも構わないんだけど……」
「よし、ユウシャちゃん、こうしよう。わたしがユウシャちゃんのためにトップを取っちゃう。で、ユウシャちゃんの好きな場所……そう、手の甲、手の甲がいいわ。わたしがユウシャちゃんの手の甲にキスします。騎士が王女にするみたいに。ユウシャちゃん、それくらいなら構わないでしょ?」
「う、うんそれくらいなら全然平気だけれど……」
「じゃあ、これで話は決まりね。ユウシャちゃん、待っててね。わたしが、ユウシャちゃんのために、ユウシャちゃんのくちびるを守るためにトップを取って見せるからね。そして、あくまで約束として、ユウシャちゃんが一度言ったことを反故にするような人間でないことを証明するために、わたしがユウシャちゃんの手の甲にキスするからね」
「は、はあ、がんばってね、センシちゃん」
「よしっ、ソウリョちゃん、マホウツカイちゃん、エルフクイーンさん。始めるよ」
「(えらい張り切りようだなあ、センシちゃん。それにしても、センシちゃんって真面目なんだなあ。わたしがマホウツカイちゃんに騙されて言った言葉を反故にさせないためにあそこまで張り切ってくれるなんて……そういえば、センシちゃんって昔からいろんなところできちんとしてたなあ)」
「さあ、まずは席順だ、東南西北の牌で決めるよ」
「(宿屋に泊まった翌朝、あたしがパジャマから着替え用としたら、顔を真っ赤にして『女の子がそんなはしたないことしちゃいけません』って怒って、みんな個室で着替えさせたんだよね。女の子が一つの部屋で着替えるのって、そんなにはしたないことなのかなあ)」
「次は仮の親決めだ。さあ、東家がサイを振るんだ」
「(子供の頃、家の手伝いで洗濯物を外に干してたら、センシちゃん赤鬼みたいになって怒鳴ってくるんだもんなあ。『お、女の子が外に服を、ましてや下着を干すなんて何事なの! よ、世の中には、女の子の下着を盗む変態さんがいるんだから。用心しなきゃダメじゃない』なんて……そりゃあ、あたしも下着泥棒ってのがいることくらいは知ってたけどさ、あたしのふるさとの村にそんな変態さんがいるわけないじゃない)」
「よし。仮の親が決まったな。次に本チャンの親決めだ」
「(一度露天風呂のついてる宿屋に泊まったことがあったけど大騒ぎだったな。センシちゃんったら、『のぞかれる! 乙女のやわ肌がのぞかれる!』って恥ずかしがっちゃって困っちゃったんだよね。センシちゃんったら、『戦闘ではあんなに勇ましいのに、けっこう恥ずかしがりやで女の子らしいところあるんだな』ってあの時思ったんだよね。で、可哀想になったから、あたしが『センシちゃんがそこまで自分がのぞかれるのを気にするならしょうがないね。あたしと内風呂入ろっか』って言ったら失神しちゃったんだよね。なんでかな)」
「よし、親が決まったね。それじゃあ親がサイコロを振るんだ」
「(センシちゃんそれにしても張り切ってるなあ。いつのまにか配牌まで進んでるし……あれ、なんかギャラリーがいるような)」
ざわざわ、ざわざわ
「(た、たしかにこんな面白そうな勝負を見物したいのはわかるけれど……マージャンって誰が何の牌を持っているかが重要なゲームだから……そんな周りに人が大勢いたらゲームのじゃまになっちゃうよ。誰かが大事な牌ツモった時に、後ろのギャラリーがざわついたら他のプレーヤーは『あ、なんかすごい牌ツモったんだな』ってわかっちゃうもんね。ああ、エルフクイーンさんがみるみるうちに不機嫌に……これはまずい……どうしよう……そうだ!)みなさん、少々お待ち願います。このユウシャ、しばし席を外させていただきますが、少々お待ちくださいませ」
たったった
「(ベンチャーさんがテレビで離れた場所の映像を見ることができるようになったって言ってたな。だったら、見物したいギャラリーを他の部屋に移動させられることができるかもしれない……えっと、キメラのつばさ、キメラのつばさっと)」
ひゅーん
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