第75話ユウシャちゃんエルフちゃんと話す・エルフちゃんの部屋にて
「で、結婚の意志は固いんだね、エルフちゃん」
「はい、絶対にわたしはソウリョちゃんと結婚します」
「ち、ちなみに、エルフちゃんってあとどれくらい寿命があるのかな? だいたいこんなものかなあってくらいでいいんだけれど」
「エルフの寿命は平均一万年ですね。わたしがいま千歳とちょっとですから、あと九千年くらいは生きるんじゃないですかねえ」
「(一万年生きるエルフの千歳か……人間に換算すると十歳ぐらいになるのかな……だいじょうぶなのかな、コンプライアンス的に……そんな問題じゃないのかな)と言うことは、ソウリョちゃんとは……」
「せいぜいいっしょに居られるとしたら百年ってところですかねえ。でも、それでいいんです。ソウリョちゃんは『僕の最期を看取ってくれるかい』なんて言ってくれて、わたしもそれを了解しましたから」
「(人間とモンスターも結婚ってことになると、お互いの寿命が問題になるんだなあ。平均寿命が一万年のエルフちゃんにとっての、高々百歳までしか生きられない人間って……人間にしてみれば一年いっしょにいるようなもの?)まあ、お互いが満足してるならそれでいいんですけれど……」
「それで、わたしの母親の件なんですけれど、ユウシャさん」
「ソウリョさんから話は聞きました。反対されているそうですね」
「そうなんです。母が言うには、『百年も生きていない人間に娘をやれるか。せめて五百年生きてから出直してこい』だそうで……」
「それはさすがに人間には無理なんじゃ……」
「それで、ユウシャさん。ソウリョちゃんから話は聞きました。ユウシャさんたち四人パーティーは、冒険の間に相当マージャンをされていたそうで」
「いや、そんな、せいぜい仲間内での手なぐさみでして……」
「ご謙遜を。マホウツカイさんから、『行く先々の町のカジノを荒らし回って出禁になってる』と話を聞きました」
「(マホウツカイちゃんったら、また話を盛ったな。マホウツカイちゃんのことだから、話を面白くなるように転がそう転がそうと思って適当なこと言ったんだ。あたしがマージャンの達人とエルフちゃんが思ったら、きっと手を貸してくれるよう頼むはずだって。ええ、そうなってますよ、マホウツカイちゃん)そ、そんなことはないんですがね……」
「それで、エルフ一族は何かあったらマージャンで白黒つけるタチなんです」
「へ、へえ、例えばどんな?」
「何かいさかいがあったら、お互いの寿命を賭けあってマージャンしてますよ。わたしも家族マージャンで寿命を二百年ほど巻き上げられています」
「(に、二百年。さらっと桁の大きい話をするなあ)じゅ、寿命をですか……それって、負けの対価が血液を抜き取るとかの比喩じゃあないんですよねえ」
「なんですか、『血液を抜き取る』って。そんなスプラッタなことしませんよ。エルフのマジカルなチカラで、相手の寿命を自分のものにしちゃうんです」
「(相手の寿命を自分のものにできるってことは)あの、エルフさんの一族が長生きなのって……」
「おっと、そこから先は言わないでください、ユウシャさん。ユウシャさんも動物のお肉は食べるでしょう? で、わたしたちエルフ一族は食事という習慣がありません。わたしはユウシャさんのような人間の文化は尊重しますが、押し付けられる気はありません。それじゃいけませんか」
「(なんだか話が難しくなってきたな。そういえば、ダイマオウさんもこんな難しいことを言ってたような)ぜ、ぜんぜん構わないと思います、エルフさん」
「それで、まず間違いなく母はソウリョさんにマージャンをふっかけてくると思うんですが、どうしましょう、ユウシャさん」
「『どうしましょう』と質問されてもですね、その、一万年も生きるエルフさんの一族と、せいぜい百年程度しか生きられないあたしたち人間ではですね、一年の重みが違うのではないかと……その、レートはどうなるんですか?」
「そこなんですよ、問題は。わたしたちエルフ一族にとって、十年や二十年の賭けなんて子供のままごと遊びですがね、ユウシャさんやソウリョさんにとっての十年や二十年はシャレにならないレートだと思うんですが……」
「当たり前ですよ。エルフさんの時間感覚をあたしたちに押し付けないでください。ん、ちょっと待ってください、『ユウシャさんにとって』? あの、それってあたしも卓を囲むってことですか?」
「だって、マージャンは四人でやるゲームですし……」
「だってじゃないですよ、いくらなんでも冗談じゃありません。そんな、『この捨て牌で寿命が十年縮まる』なんてマージャンとてもじゃないけどできませんよ」
「そうですか……」
「(あれ、どうしたのかな。エルフさん、突然目を閉じて耳を澄ましたりなんかして)どうかしましたか、エルフさん」
「いま母からテレパシーが届きました。いまからここにテレポートしてくるそうです」
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