第73話ユウシャちゃんベンチャーちゃんにテレビについて解説される・ユウシャちゃんの部屋にて
「で、ここからはベンチャーさんに話があります」
「は、はい、なんでしょうか、ユウシャさん」
「ベンチャーさんはテレビというものを発明したそうですねえ。でも、あたし、そのテレビってものがよくわからないの。で、ベンチャーさんが説明してくださったらたいへん嬉しいんですけれど……」
「はい、それはもう。喜んでさせていただきます。では、これをご覧ください」
どーん
「これは……四角い箱みたいだけど? 大きさは、その、みかん箱くらいかな」
「はい、これがテレビです」
「これが? テレビなの?」
「はい、こんなこともあろうかとあらかじめ準備させていただきました」
「そ、そうなの。ずいぶん用意がよろしいことで……」
「はい、ユウシャさん。お褒めいただき光栄です。それではスイッチを入れさせていただきます」
「スイッチですか……」
ポチっ
「何も起こらないようだけれど、ベンチャーさん」
「もうしばらくお待ちを、ユウシャさん。なにとぞ。ご無礼であることは重々承知しておりますが、そこをなんとかご容赦願います」
「(わかってるよ、デシユウシャちゃん。そんな目をしてあたしを見ないでよ。『このユウシャちゃんを待たせるなんて無礼千万。なんたる不届きもの』なんて言いはしないから。デシユウシャちゃんに免じて待つから。心配しなくていいってば)あれ、これは……アイドルちゃんじゃない?」
「アイドルさんをご存知ですか、ユウシャさん。ならば話は早い。では、アイドルさんは今どこにいるかおわかりでしょうか?」
「(ミニマムの魔法をかけられたアイドルちゃんがこの箱の中にいて歌ってるわけじゃあなさそうね。そのくらいあたしにもわかるわよ。でも……)わかりません。ベンチャーさん、教えてくれるかな」
「ここレトロゲームセカイから遠く離れたスタジオにおります。馬車で一週間はかかります。テレポートなら一瞬でつきますが、テレポートなんて魔法を使える人はそうそうおりません。キメラの翼だって、このご時世、動物愛護の観点から使用を控えざるを得ないんです。そんな中、遠く離れたアイドルさんの歌う姿をこうして見られることがどんなにすごいことかお分かりでしょうか?」
「このテレビってのはこれ一台きりなの?」
「そんなことはありません。今は町の万屋さんに何台か置いてある程度ですが、それでもテレビを見るために人だかりができています。ゆくゆくは一家に一台と言う時代が絶対に来ます」
「(あたしが冒険をしている間に、町はそんなことになっていたんだ。たしかにこれはすごいかも。なにより、あんなに舞台を愛しているアイドルちゃんがこうしてテレビに出てるってことが、そのすごさを証明してるってことじゃない)一家に一台ですか……」
「はい。このベンチャーがそんな時代にさせてみせます」
「(わかってるってば、デシユウシャちゃん。ベンチャーさんを怪しい大ボラ吹きだなんて思ってないってば。シンカンちゃんも『悪い人じゃなさそう』だって言ってたし……でも)絶対できるの? そんな時代に」
「…………」
「(ふうん、即答しないんだ。安易に『できます』なんて言わない点はあたしとは違うわね。あたしはついモンスター退治を安請け合いしてはパーティー四人を酷い目に合わしてるもんね……そうじゃなくて、でも、『できません』なんて自信なさげに言われたら、こっちだって不安になっちゃうもんね)ベンチャーさんが何かすごいことをしようとしているのはわかったし、それが大変な道のりであることはわかったわ。で、それをデシユウシャちゃんは支えられるのかしら?」
「???」
「(ああ、じれったいわねえ。あたしはとっくに降参ですよ。こんなもの見せられちゃあ、ベンチャーさんがすごいってこと認めないわけにはいかないじゃない)ベンチャーさんの夢を叶える手伝いをデシユウシャちゃんはできるのかって聞いてるんだけど……」
「それはもう。その、わたしも不安がないわけじゃないんです。でも、デシユウシャさんが言ってくれるんです。『トップのあなたがそんな顔を部下に見せるんじゃありません。そんな顔はおいらにだけ見せなさい』って」
「(これは……ずいぶん激しいおのろけですこと)な、なるほど。デシユウシャちゃんのカウンセラーですか……」
「そ、そういうことです、ユウシャさん」
「(だから、顔を真っ赤にするんじゃありません、ベンチャーさん。デシユウシャちゃんも赤面してるじゃないのよ。なんなのよ、この初々しいカップルは)ま、まあ、そこまで言うのなら、二人の結婚を認めてあげてもいいかな」
「ほ、本当ですか、ユウシャさん!」
「ちゃ、ちゃんと離婚をすませてからね。慰謝料とかその辺の問題をなんやかんやでクリアしてからだからね」
「は、はい、ありがとうございます、ユウシャさん。あのお金はきちんと返済させていただきますから」
「(こら、話を聞いていたのか、ベンチャーさん。あのお金はあたしがデシユウシャちゃんの学資としてあげたものなんだからな。ベンチャーさんにあげたんじゃないぞ。だいたい、『返済する』ってなんだ。あたしはデシユウシャちゃんに『あげる』って言ったんだぞ。そんな返済なんてことを考えている暇があるんだったら、あんたの夢の実現に向けて努力しなさい)」
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