第72話ユウシャちゃんデシユウシャちゃんに学資をあげる・ユウシャちゃんの部屋にて
「(さてと、ゴーレムさんも行ったところで)デシユウシャちゃん、それにベンチャーさん、いるんでしょ。入って来てくれないかな」
おずおず
「(デシユウシャちゃんとベンチャーさんがあたしの部屋に入って来たな。では)デシユウシャちゃん、話があります。ベンチャーさん、そちらのデシユウシャちゃんとの関係を考慮して、あたしとデシユウシャちゃんの話を聞くことは認めます。でも、これは師匠と弟子の話だから、横から口は挟まないでもらいたいな」
コクコク
「(ベンチャーさん、わかってくれたみたいだな。シンカンちゃんの言う通り悪い人ではないのかも)デシユウシャちゃん、シンカンちゃんに聞いたよ。大学に通ってるんだってね。それもあたしが決めたトレーニングをきっちりこなしながら」
「師匠、その、おいら勇者になるのが嫌になったとかそう言うことではなくて……」
「師匠の話は最後まで聞きなさい、デシユウシャちゃん。それで、大学の費用はどうしているの?」
「それは……奨学金とアルバイトでなんとか……」
「例え勇者になるつもりがなくなっても、デシユウシャちゃんはあたしの弟子なんだからね。弟子の面倒を見るのは師匠の義務だから、そう言うことで、はい、これ」
どさっ
「な、なんですか、師匠。すごい、こんな大金。百ゴールド、二百ゴールド……数えきれない」
「それだけあれば大学の費用に足りる?」
「それはもう」
「(いい、デシユウシャちゃん。あたしが何を思ってるかは察しなさいよ。あたしは戦闘だけじゃなくて、そのあたりの人間の心の機微もデシユウシャちゃんに教えたつもりなんだからね)いい、それはデシユウシャちゃんの大学の費用なんだからね。絶対ほかの変なことに使うんじゃないよ。特に、どれだけ好きな人がいて、その人がお金で困っていたとしても、その人のために使ったりなんかしたら絶対ダメなんだからね」
「し、師匠……」
「(それにしても、初めてデシユウシャちゃんにあった時のことを思い出すなあ。あたし、本格的に勇者として旅立つ前に、近所の問題解決屋さんみたいなことしてたのよね。大抵は、いなくなったペットの猫探しとか、気になるあの人に彼女がいるかどうかの確認とかだったけど……)」
「おいら、その、なんて言ったらいいか」
「(そしたら、ある日近所にモンスターが住み着いて困ってるって相談の手紙が来たのよね。『これぞユウシャちゃんにぴったりの依頼だ』なんて張り切って出かけて行ったら、『勇者さんならもう出発されましたよ。それにしても、勇者さんってずいぶん幼くて可愛らしいのねえ』なんて依頼人が言うんだもん。そりゃあ、偽物が出るのは有名になった証拠だからちょっぴり嬉しかったけど、でも、モンスターがらみだもん。ほっておけないじゃない)」
「師匠には、初対面の時から迷惑かけっぱなしで」
「(で、そのモンスターも住処にセンシちゃん、ソウリョちゃん、マホウツカイちゃんとの四人で行ったら、一人のちびっこがブルブル震えながらモンスターに宣言してたのよね。『お前がここの住民を恐れさせているモンスターだな。おいらが退治してやる』だなんて。あんなちびっこがたった一人でだもんねえ。あたしは四人でぞろぞろとしてたってのに)」
「あの時のおいら、ほんと無茶って言うか無鉄砲って言うか……」
「(まったく、勇気だけは人一倍なんだから。で、なんとかしてあたしたち四人がそのモンスターを追い返したら、デシユウシャちゃんったらワンワン泣き出すんだもんねえ。そんなに怖かったのに、よくモンスターの前では泣かなかったんだって感心しちゃったよ)」
「師匠の前で無様な泣き顔さらしちゃって……」
「(そしたら、『おいらを弟子にしてください』だもんねえ。あたしがどこの誰かも説明してないのに。ソウリョちゃんが『お前が僕たちの偽物か』とか、マホウツカイちゃんが『とうとううちらのバッタもんが出て来よったわ』なんて言ったらデシユウシャちゃんは目を白黒させてたっけ)」
「おいら、勝手に師匠の名前を名乗って依頼者さんを騙したのに、師匠は怒るどころか喜んでおいらを弟子にしてくれて」
「(あたしが返事をどうするか迷っている間、ずっとデシユウシャちゃんはあたしの後をちょろちょろついて来たんだったよねえ。そしたら、既成事実的にデシユウシャちゃんはあたしの弟子ってことになっちゃったんだよね)」
「もう、師匠のはなんて言ってお礼をすればいいのか……」
「(それにしても、あんなにちびっこかったデシユウシャちゃんが結婚かあ。まさかデシユウシャちゃんに先を越されるなんて。あーあ、あたしにも誰かステキな人がいないかなあ。やっぱり結婚って言ったら女の子のあこがれだもんね。マオウちゃんとマッドドクターちゃんもなんだかんだ言ってお似合いだし……)」
「師匠、このご恩はおいら一生忘れません』
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