第71話ユウシャちゃんゴーレムちゃんに配当金を突き返される・ユウシャちゃんの部屋にて

「(うう、シンカンちゃんにああ言われたけれど、今さらどんな顔してデシユウシャちゃんとベンチャーさんに会えばいいんだろう?)」


「あの、ユウシャさん……」


「わ、ゴーレムさんじゃない。どうしたの?」


「これ、ユウシャさんにお返しします」


「『お返しします』って、これって、賭けでの配当金じゃない。え、え、『お返しします』ってどういうことなの、ゴーレムさん?」


「ユウシャさんはこのお金で自分が二十歳になったら一杯やろうと言われました。その時までこのお金はとっておこうと」


「そ、そうだったね」


「でも、自分決めました。自分はユウシャさんにたいへんよくしていただいてます。ユウシャさんのおかげであこがれのリュウキシさんにも会えました。ですから、自分が二十歳になったら、自分にユウシャさんに一杯おごらせてください」


「は、はあ、ゴーレムさんがおごってくれるって言うのなら、それは嬉しいですけれど」


「というわけで、この配当金はユウシャさんのお返しします」


「えええ、なんでそうなるの、ゴーレムさん」


「自分も事情はうかがいました。このお金は、自分たちの酒代なんかよりも、もっともっと有意義な使い方があると思います」


「(ゴーレムさんもベンチャーさんの慰謝料の件を聞いたのかあ。すっかりおおごとになっちゃたなあ)でも、悪いよ。ゴーレムさんが儲けたお金なのに、離婚の慰謝料に使っちゃうなんて」


「離婚? 慰謝料? なんのことですか。ユウシャさん。自分は、そんなベンチャーさんとか言う自分が顔もよく知らない人のためにこのお金を差し上げるわけではありませんよ」


「え、なんのことって……」


「自分が聞いた事情とは、ユウシャさんの弟子であるデシユウシャさんが大学に通われていると言うことです」


「ああ、そのこと。でも、それとこのお金となんの関係が?」


「以前にも言いましたが、自分はモンスターの少年院に入っていました。そこでは、たった一切れのパンのために盗みを働いて牢屋に入れられたモンスターが大勢いました。そんなモンスターや自分は、少年院で教育を受けました。そこで教官に指導されました。『お前ら、自分がこんなふうになったのは貧乏のせいだなんて決して思うんじゃないぞ。お前らはまだ若い。いくらでも自分たちで稼げるようになるんだ。そのためなら、俺たちはいくらでもお前たちを応援する』と」


「そ、そうなんだ」


「そして、魔王様のはからいでスネに傷を持つ身でありながら、ここレトロゲームセカイのスタッフとして働かせてもらっています。もちろんお給料もいただいております。恥ずかしながら、最近では通信教育もするようになり、将来の学資として、貯金もしております」


「すごい、ゴーレムさん。それってすごいですよ」


「ですが、仕事がきつくないかと言えば嘘になります。時にはやだなあと思うこともあります」


「ご、ごめんね、ゴーレムさんに迷惑かけちゃって」


「いえ、ユウシャさんが謝ることではありません。しかし、そんな自分だからこそ、お金がある。そして学びたいと言う意思があるのなら、それは果たされるべきだと思います。というわけで、このお金はデシユウシャさんの学資として使われるのがふさわしいと自分は思います。もちろん、ユウシャさんの弟子であるデシユウシャさんが学資として受け取ったこのお金を、別のことにこっそり使うなんてことはないと信じた上で」


「(ゴーレムさん、それってあれですか? 『このお金はデシユウシャちゃんの学資のためなんだからな。絶対他のことに使わせるんじゃないぞ。絶対使わせるんじゃないぞ』的なあれですか?)ゴーレムさん。ホント、何から何までありがとうね」


「いえ、これでいいんです。自分がいた少年院では、親の遺産やらなにやらで突然転がり込んできた大金に目がくらんで身を滅ぼしたモンスターも大勢いました。酒、女、ドラッグ、理由は様々ですが……だから、こんなあぶく銭はパッと使ってしまったほうがいいんです」


「(すごいなあ、ゴーレムさん。少年院にに入ってたって言うけど、そこで……ううん、きっと少年院に入る前からあたしよりずっと濃い人生を送ってきたんだなあ。『あぶく銭はパッと使ったほうがいい』なんて、とてもあたしより年下のゴーレムさんが言うようなセリフとは思えないよ)じゃあ、ゴーレムさん。本当にもらっちゃうよ。後で返せって言ってもダメなんだからね」


「そんなことは言いません。『ユウシャさんにあんまりデシユウシャさんを困らせないでくださいよ』くらいは言うかもしれませんが……」


「う……」


「どっちかと言うと、自分は世代としてはユウシャさんよりもデシユウシャさんに近いですからね。デシユウシャさんがユウシャさんに怒られている姿を見るのはしのびありません」


「(そうかあ、ゴーレムさんって、小さい頃はいろいろあったみたいだし、両親に関しても思うところがあるんだろうなあ。それなのに、デシユウシャちゃんの親代わりでもあるあたしのあんな姿を見せちゃって)ゴーレムさん、どうもありがとう」


「いえ、では自分はこのあたりで失礼します」

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