第69話ユウシャちゃんシンカンちゃんに蘇生される・ユウシャちゃんの部屋にて

「おお勇者よ、死んでしまうとは情けない」


「あれ? 聞き覚えのあるセリフ……あ、シンカンちゃんだ。ということはここは教会? じゃないね、レトロゲームセカイのあたしの部屋だ。どうしてシンカンちゃんがここにいるの?」


「それはね、わたしも食いっぱぐれたからなんだよ、ユウシャちゃん。まったく、最近は世知辛いねえ。毒の治療や、呪いの解除、あるいは蘇生の代わりに寄付をいただくことで、わたしも細々と食いつないできたんだけどね。今のご時世、『寄付? と言うことは任意なんですよね。なら払いません』とか、『いいんですか、宗教法人がそんなあからさまに対価を要求して? 税務署に通報しちゃいますよ』なんて言って寄付をゴネる人間ばっかりでね」


「す、すいません、シンカンちゃん。あたしもいままでなんだかんだ教会への寄付金を値切ってきました」


「いや、いいんだよ。ユウシャちゃんはなんやかんやで寄付をきっちりしてくれてたじゃない。だけど、今時の若者ときたら、教会を慈善団体か何かと勘違いしてるんだ。こっちだって、組織への上納金とかショバ代とかでピイピイ言ってるってのにさ。と言うわけで、このままじゃわたしも首をくくって我が主へのご対面となるのかなあなんて思ってたら、ここレトロゲームセカイのマオウさんが誘ってくださってね」


「(教会って慈善団体じゃなかったんだ。宗教ってなんなんだろう)そ、それは良かったですね、シンカンちゃん」


「なんでもマオウさんが言うには、『レトロゲームセカイでも高齢化が激しくてね、このままだと入居者が大挙して天界に旅立っちゃうから、ぜひシンカンさんの蘇生の腕を借りたい』そうなんだ。で、早速わたしの能力が役に立ったわけだね。まったく。ユウシャちゃんも若くないんだから、心臓に無理がきかないんだよ。心臓停止だって、デシユウシャちゃんやベンチャーさんに、センシちゃんやソウリョちゃんにマホウツカイちゃんはもちろん、ブトウカちゃんに……ああもう全員は言い切れないけど、とにかくみーんな心配してたんだから」


「ううう、面目ありません」


「ま、ユウシャちゃんの気持ちもわかるけどね、いきなりデシユウシャちゃんに先を越されて結婚を宣言されるは、相手は人妻だはじゃあ、驚くのも無理はないからね」


「そ、そうなんですよ、シンカンちゃ……」


「おっと、待った、ユウシャちゃん。ユウシャちゃんが死んでいる間に、大体の事情は聞いたよ。ユウシャちゃんが気を動転させてろくに効かなかった分もね。そして、それを今からこのシンカンちゃんが噛み砕いて話すからね。とりあえず聞きなさいユウシャちゃん。なあに安心しなさい。また死んでもわたしが蘇生させるから。ああ、寄付金はいらないよ。わたしはここレトロゲームセカイの雇われになったからね」


「は、はあ、どうも」


「それでだね、わたしの教会はユウシャちゃんのふるさとの村にあったんだけどね、そこでデシユウシャちゃんに相談されたんだよ。『もし、ユウシャ師匠が魔王を倒しました。そのあと世界は平和になりました。戦いがなくなりました。そしたら、いままで戦闘ばっかりしてきたユウシャ師匠はどうなるんですか』って」


「(デシユウシャちゃんがそんなことを考えていたなんて)ど、どうなるんですか、シンカンちゃん」


「わたしに聞かれてもねえ。でも、『いままで戦闘に明け暮れていた人間が、日常生活に戻ろうとしてもなかなかうまくいかないことがある』とは答えたけどね。まあ、マオウさんが中間管理職でその上に大魔王なんてのがいることを知った今となっては、ユウシャちゃんがマオウさんを倒しても戦い続けるはめになったと思うけどね」


「(ダイマオウさんか。怖かったなあ。あんな人と戦うなんて、考えただけでもゾッとしちゃう)戦ってたばかりだと日常生活に戻れないんですか?」


「そりゃあ、突然のモンスターの襲撃に怯えて夜も眠れなかった人間が、家族のもとに戻りました。布団でぬくぬく寝てたら、久しぶりにお母さんがいることに喜んだ子供が眠っているお母さんに飛び乗りました。お母さんはそれをモンスターの襲撃と勘違いしてしまいました。続けるかい? ユウシャちゃん」


「け、結構です、シンカンちゃん」


「まあ、そう言うことだね。で、デシユウシャちゃんに相談されたんだ。『ユウシャ師匠が魔王を倒した後にそんなことになったら大変です。おいらに何かできることはありませんか』って。それで、わたしは教えてあげたんだ。『カウンセラーという仕事があるよ』ってね」


「カウンセラー? なんですか、それ」


「簡単に言うと、メンタルケアをする仕事だね。ユウシャちゃん、宿屋に泊まってケガがすっかり治ったら、モンスターの攻撃に怯えた記憶はどうにかなったかい?」


「そういえば……マオウちゃんとの初戦闘でワンターンキルされたあの時の気持ちは今でも思い出せる……」

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