第68話ユウシャちゃんベンチャーちゃんを叩き出す・ユウシャちゃんの部屋にて
「し、失礼します、ユウシャさん。わたしはベンチャーと申します」
「話はデシユウシャちゃんから聞いたよ。結婚なさっているんですってねえ。しかも奥さんは絶対離婚したくないって言ってるそうじゃない。愛されているんですねえ」
「い、いえ、家内は私を愛してなんかはいないんです。家内の目的はお金だけだったんです」
「お金、どういうことなの?」
「その、わたしが家内に『離婚したい』と言ったら、家内は言ったんです。『いいわよ、慰謝料を払ってくれたらね』と」
「慰謝料?」
「わたしと家内は、そもそも家の都合で結婚したんです。最初はそれでもいいかと思っていたんですが、わたしはデシユウシャさんを愛してしまった。もちろん、それはこちらの勝手な都合ですから、わたしとしてもできることはしたいし、家内の希望をかなえたいんですが……」
「慰謝料ってお金のことでしょ。だったら払えばいいんじゃないですか。あたしの弟子と結婚したいと言うのなら、それくらいはしてもらわないと。社長さんなんでしょう。ならお金はたくさんあるんじゃあないですか」
「いえ、社長と申しましても、まだまだ会社を立ち上げたばかりでして、自転車操業もいいところなんです」
「(だまされないわよ。口ではそんなことを言っていても、裏では下っ端をこき使ってるに決まってるんだから。それに、奥さんと離婚するってことは、いつデシユウシャちゃんがポイ捨てされるかわかったものじゃないんだから)そうなんだ、たいへんですねえ」
「そうです、たいへんなんです。それで、今回おうかがいしたのは、お弟子さんとの結婚の申し込み以外にもありまして……」
「結婚の申し込み以外に? それはなんなの?」
「実は、ユウシャさんに借金を申し込みに来ました」
「借金! いま借金と言ったね! つまりこう言うことだね。ベンチャーさんは、妻帯者でありながら、あたしの弟子とよこしまな関係になって、それどころか結婚したいと言う。あまつさえ離婚に必要だからって、あたしのお金を無心に来たと、そういうことなんだね」
「おっしゃる通りです、ユウシャさん」
「よ、よくもまあぬけぬけと……こ、こんなことを言われたのは初めてだよ。あ、いけない、あまりのショックでめまいがしてきた」
「へ、平気ですか、ユウシャさん?」
「す、少なくともベンチャーさんに心配されたくはないよ。あたしをこんなにした張本人のくせに。い、いままでなんども全滅して、そのたびにシンカンちゃんのお世話になってきたけれど、またそうなりそうだよ。しかも同じ人間相手に」
「しっかりしてください、ユウシャさん」
「だから、ベンチャーさんにそんなことを言われたくはないんだってば。いい、シンカンちゃんだって慈善事業で蘇生をやってくれるわけじゃないんだよ。しっかりゴールドを半分持っていくんだから、あれ、ゴールドを半分持っていくのはマオウちゃんだっけ? でも、いつも全滅してもあたしだけは生き返ってるな。ということは、シンカンちゃんはあたしだけはタダで生き返らせてくれてるってこと? でも、どうして?」
「落ち着いてください、ユウシャさん。何を言っているのかさっぱりわかりません」
「誰のせいでそうなってると思ってるのよ。とにかく、ベンチャーさんにお金は貸してあげられそうにないよ。ベンチャーさんのせいであたしのゴールドが半分になっちゃうんだから。あ、そういえば、ゴーレムさんに預かったお金も半分になるのかな。だとしたらゴーレムさんごめんなさい」
「ユ、ユウシャさん」
「うるさい。やっぱりベンチャーさんはダイマオウさんが言った通りの極悪人だったんだ。ダイマオウさんは悪いかどうかよくわからなかったけど、ベンチャーさんは間違いなく極悪人だよ。したっぱをこき使わせてこの世の地獄を味わわせてるんですね。ガチャやら何やらで暴利をむさぼってるんですね」
「そ、そんなことをしてはいませんよ、ユウシャさん」
「結局いっちばん悪いのは人間だったって言うことですか、そうですか。マッドドクターちゃんがさぞ喜びそうな結論になってしまいましたね。ベンチャーさん、冥土の土産にいいことを教えてあげます。ここレトロゲームセカイにはマッドドクターちゃんという人がいます。人間でありながら人間を滅ぼそうとしたそうです。きっと話が合うと思いますよ。極悪人どうし」
「勘弁してください、ユウシャさん」
「うるさい、なにが勇者だ。いままでは人間のためにモンスターを倒せばそれでいいと思ってた。だけど、もう何が何だかわからないよ。モンスターマスターちゃんはモンスターとすごく仲よさそうにしてるし、ゴーレムさんはすっごくいい人だし、なんて思ってたらベンチャーさんにデシユウシャちゃんをかっさらわれるし……うーん」
バタっ
「大変です、デシユウシャさん、ユウシャさんが気を失ってしまいました」
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