第66話ユウシャちゃんダイマオウちゃんから解放される・ダイマオウちゃんの部屋にて

「わしもね、いろいろ試してみたんだよ、ユウシャちゃん。マオウちゃんをわしのおもちゃにしたのもその一つなんだ」


「ダイマオウさんがマオウちゃんをおもちゃにしたのって何か理由があるんですか?(マオウちゃんは理不尽な上司のパワハラとしか思ってないみたいだったけれど)」


「そうだよ。マオウちゃんの苦しみがわしのエネルギー源になるのなら、それはそれで万々歳だからね。なにせ、マオウちゃんは人間と違ってとびきり頑丈だからね。わしがちょっとおもちゃにしたくらいじゃ死にはしない。わしがマオウちゃんをからかう、マオウちゃんが悔しがる。そのマオウちゃんの負の感情でわしの腹が満たされるなら、これでライフサイクルは完結するからね」


「(マオウちゃんはそれでいいのかな? マオウちゃんの話を聞いてみると、とてもダイマオウさんに絶対の忠誠を誓っているとは思えないんだけれど)そ、そうかもしれませね。でも、だったらそうマオウちゃんに言ってあげれば良かったんじゃあないですか? マオウちゃんはダイマオウさんのことをただのパワハラ上司とか思っていないような気がするんですけど……」


「それじゃあ、だめなんだよ。わしが生きるためと納得してもらったら、わしのエネルギー源としてふさわしいマオウちゃんの苦しみが発生しないからね。シンプルに苦痛を与えて、『痛い!』と言う程度じゃあわしの腹は満たされないんだ。わしが求めるのは、もっとこう、ドロドロとした怨念うずまく鬱屈した負の感情なんだから」


「(ダイマオウさんも結構好みがうるさいんだな)だ、誰にでも好き嫌いはありますからね」


「で、マオウちゃんになんの説明もなしに理不尽な命令を出したけど、わしの腹は満たされなかったんだね。やはりモンスターがどう苦痛を感じようとわしの生きる糧にはならないことがわかった。やはり、負の感情は人間のものに限る。ま、マオウちゃんが泣き叫ぶ姿はたいへんこっけいだったんだけれどね。いやあ、けっさくだった」


「(ダイマオウさんもおもしろがってたことはおもしろがってたんだな。中間管理職のマオウちゃんも大変だなあ。あたしはきらくなマオウちゃん征伐の旅で生きていて良かった)それはなによりですねえ」


「ところが、そんなふうに悩んでいた問題が最近解決されてね。いやあ、長生きはするものだ。いままで人間を苦しめ抜いてきたかいがあったものだよ」


「(ダイマオウさんって何歳なんだろう? その間ずっと人間は苦しんできたのか)解決されたんですか? いったいどうして」


「最近は人間の世界もずいぶん様変わりしてねえ。わしもよくわからないんだけれど、例えば、個人経営の店がやっていけなくなって、チェーン店とか大手通販とかの大規模資本がはばを利かすようになったんだってね」


「(そういえばブキヤちゃんもそんなことを言っていたな)らしいですね。でも、それがどう問題解決につながるんですか」


「なんでも、大規模資本のシステムだと、一握りのトップが富を独占して、下っ端は奴隷のように働かされているらしいじゃないか。そんな奴隷労働者の苦しみによる負のエネルギーはそれはもうこの世のものとは思えないほど美味でねえ」


「(さ、最近の若い子はダイマオウさんがあんなにうっとりとした表情をするくらいにつらい労働をさせられているんだ)そ、それはなによりです」


「あるいは、ガチャとか言うものでずいぶん射幸心をあおって、じゃぶじゃぶ年端もいかぬ子供達にお金を使わせているそうじゃないか。純真な子供が悪い大人にだまされてくやしがる気持ち。さらにかわいい子供にそんなことをされた親御さんのやりきれない気持ち。いやあ、これがもうなんとも言えないほどたまらないんだ」


「(ガチャか。ブキヤちゃんに聞いたけど、百万ゴールドの剣が当たるかもしれないよと言って、子供達からお小遣いを巻き上げるえげつない商売が出てきたらしいし、あたしの子供時代にそんなものがなくて良かった。でも、今の子供はダイマオウさんが思い出しただけで舌なめずりするほど苦しんでるんだ。なんだかかわいそう)そ、そうなんですか」


「というわけで、大魔王であるこのわしが余計なことをする必要はなかったんだよ。人間たちが勝手に自分たちで苦しめ合うシステムを作ってわしの腹を満たしてくれるようになったんだからね。で、いままでの罪滅ぼしも兼ねて、ユウシャちゃんが入居したレトロゲームセカイを建てたんだ。わしが苦しめた冒険者にせめてもの償いがしたくてね。さいわい、いままで散々人間から金品を強奪してきたからね。資金には困らなかったよ」


「(レトロゲームセカイの財源ってそうだったんだ。じゃあ、あたしはモンスターに奪われた人間のお金で食っちゃ寝してたってこと?)へ、へええ」


「おっと、話が長くなったね。ユウシャちゃん。若い子が苦しんでいるからってなんとかしようなんて思わないでね。そんなことをされたら、またわしがおなかをすかしてしまう。そうなったら、どうなるかはユウシャちゃんにもわかるよね。というわけで、若い子をレトロゲームセカイで面倒見る気はないからね。若い子には人間どうしで苦しみあってもらわないと」

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