第65話ユウシャちゃんダイマオウちゃんと拝謁する・ダイマオウちゃんの部屋にて

「(ううう、緊張するなあ。あれだけ強いマオウちゃんをおもちゃ扱いするダイマオウ……どんな感じなんだろう)失礼しまーす」


「よく来たな、入りたまえ」


「は、はい」


「ほう、きみがユウシャちゃんかね。マオウちゃんから話は聞いてるよ。なにせ、マオウちゃんには魔王殺害犯人候補生の報告を義務づけているからな」


「(マオウちゃん言ってたもんなあ。『ユウシャちゃんのことはことこまかにダイマオウ様に報告してるって。それも、ところどころに笑いを混ぜないととたんにダイマオウ様が不機嫌になって暴れだすから、いろいろコミカルにしてる』って。ということは、あたしがしたあんな失敗もこんな失敗も伝わってるんだろなあ)そ、そうですか」


「マオウちゃんから話は聞いてるだろう? わしがラスボスのダイマオウだ。さて、ユウシャちゃんはわしをどう見るかね?」


「(なんて答えにくい質問を。下手な冗談を言ったら、機嫌をそこねて魔界の底まで落とされるかもしれない。『わが魔界に下品な女の子なぞ必要ない』とか言われて。かと言って、『見てるだけでおしっこ漏れちゃいそうです。さすがダイマオウ様。威厳がハンパありません』なんてへたなおべっか使っても『そんなごますりは聞き慣れとる』なんて言われるかもしれないし。どうしよう)な、なんでダイマオウ様は人間を殺すよう命令するんですかねえ」


「そんな命令をわしは出してないよ」


「え? でも、その、モンスターさんが人間を襲っているんですが……」


「正確にはそれをさせているのはわし直属の部下だね」


「そ、そうなんですか(ダイマオウさんが人間を殺されてるわけじゃないんだ。なんでだろう」


「おう、ユウシャちゃん。今『ダイマオウさんが人間を殺させてるわけじゃないんだ。なんでだろう』なんて顔をしたね。いいよ、教えてあげよう。なにせ、ユウシャちゃん達人間がちっともマオウちゃんを殺してくれないから退屈でしょうがないんだ」


「あ、ありがとうございます。そして、ちっともマオウちゃんを倒せなくてすみません」


「謝罪はいいから話を始めるよ。大前提として、わしは人間が苦しまないと生きていけないんだ。人間の苦しみからの負のエネルギーがわしのエネルギー源だからね。で、わしも『わしの存在が人間を苦しめてるんだからわしは生きていてはいけない存在なんだ』なんて思うほど人間ができていない。わしだって生きたいからね」


「『滅びこそわが喜び。さあわが腕で生き絶えるが良い』てことですか?」


「ちょっと違うかな。人間が死んじゃったら、苦しまなくなって負のエネルギーが生まれなくなっちゃうからね。生かさず殺さず、生ある限り苦しんでもらわないとわしが死んでしまう」


「(けろっとした顔ですごいえげつないこと言うなあ。さすがラスボス)はあ……」


「ところが、そんな人間の苦しみを生きる糧としているのはわしだけなんだなあ。普通のモンスターはもちろん、マオウちゃんだって人間と同じような食事で生きていけるんだよ。ユウシャちゃんもモンスターが家畜襲ってご飯にしてる話くらいは聞いたことあるでしょ」


「(そういえば、モンスターマスターちゃんがライオンさんが村を襲っていたとかなんとか話していたような)まあ、話くらいは」


「それで、わしは人間が苦しまないと生きていけない。だから人間を苦しめる。はい、ここで問題です。わしは悪かな、ユウシャちゃん。ユウシャちゃんだってお肉食べるでしょ? そのお肉はどうしてるのかな? モンスターが生きるためにほかの動物を食べるのは悪かな?」


「ええと、それはその……」


「そして、わしには忠実な部下がいる。そんな部下は『大魔王様を飢えさせるなんてとんでもない』ってことで、せっせと人間を苦しめてるんだよ。別にわしの部下はそんなことしなくても生きていけるのにねえ。ちなみに、わしが直接人間を苦しめようとすると、どうにもうまくいかないんだ。なにせ、人間ってのはか弱いからね。わしほどにもなるとちょっと力加減を間違えたらすぐに死んでしまう。やっかいなことだよ」


「か弱い存在で申し訳ありません。だからあまりいじめないでください」


「そうもいかないんだ。人間が苦しまないと、わしは死んでしまうからね。そして、したっぱの一兵卒となるとね、教育が行き届かなくて『人間だ。ヒャッハー殺せ』なんてのがゴロゴロいるんだ。おっと、わしの部下の教育不行き届きを攻めないでね、ユウシャちゃん。なにせ、人間がモンスターを自分たちを殺しかねない存在と認識して憎んでくれないと、わしのエネルギー源が減っちゃうからね。このコントロールが難しいんだ。人間が全滅したら負のエネルギーがなくなってわしも共倒れだ。でも、人間が適度に苦しんでくれないとわしが飢え死にしてしまう」


「はあ……」


「わしとしては、殺人なんて意味がないし残虐だから、人間には生ある限り最大限のありとあらゆる苦痛を味わってもらいたいんだけどね」



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