第64話ユウシャちゃんマオウちゃんにダイマオウちゃんに会えと言われる・マオウちゃんの部屋にて

「(ふう、リュウキシさん関係でいろいろあったなあ。で、またマオウちゃんに呼び出されちゃった。まあ、リュウキシさんの腰が治ったって報告するつもりだったし、どのみちマオウちゃんのところに行くつもりだったんだけれどね)マオウちゃん、ユウシャです。部屋に入ってもいいですか」


「おお、ユウシャちゃんか、待ってたよ。さあ、入ってちょうだいな」


「はい、失礼します」


 ガチャリ


「その、マオウちゃん。リュウキシさんの件は……」


「ああ、そのことだったらもういいんだ。リュウキシさんもちゃっかり出てきて、ファンに囲まれているからね。この件はこれでおしまい、いいね、ユウシャちゃん」


「は、はあ、マオウちゃんがそう言うのでしたら……それで、今回は何の用ですか?」


「それはね、魔王であるこのマオウちゃんも、結局は中間管理職にすぎないってことは前にも話したよね。それで、このわたしのボスであるところのダイマオウ様が『ユウシャちゃんに会いたい』なんて言い出してね」


「マオウちゃんのボスですか」


「そう。わたしにしてみれば、『まだマオウちゃんを倒す人間はあらわれんのか。わしは早く『魔王はわしの部下にすぎん。できるものならわしを倒してみろ。魔界でわしは待ち構えておる。できるものならな』と人間たちにおどろおどろしく宣言したいんじゃ。マオウ、なんとかせい。お前のモンスター配置がまずいんじゃないのか』なんて無理難題をふっかけてくる厄介な上司なんだけどね」


「それってつまり、ラスボスてことですか、マオウちゃん」


「少なくとも、わたしはダイマオウ様より強い存在に心当たりはないね。わたしが知らないだけかもしれないけれど。それより、ユウシャちゃん聞いてよ、ダイマオウ様ったらひどいんだよ。さっきも言ったけどさ、『早く人間に倒されてね』なんてオーラをビンビンにわたしに向けてくるのに、人間界を攻めないなら攻めないで『たるんどる。貴様は魔王をなんだと思っとるんだ』とか説教してくるんだよ。ひどいと思わない?」


「そ、それは、上司としてはパワハラが過ぎると思いますし、人間であるわたしにしてみればマオウちゃんに人間を攻め立てるようせっつくと言うのもどうかと思いますが」


「そうなんだよ。ダイマオウ様ったらね、よくわからない武器や防具を作ってはわたしを実験台にするんだよ。会心の一撃が毎回出る代わりに、ターゲット指定ができない『破壊の剣』なんてものを作ってね、わたしに切りかかってくるんだ。ダイマオウ様の会心の一撃がどんなものか想像できる? ユウシャちゃん」


「いやあ、マオウちゃんの攻撃にすらワンターンキルされるあたしにはとてもじゃないけれど想像できません」


「もう、存在ごとこの世界からなくなって、蘇生不可能になるかと思ったんだから。そんなわたしを見ながら大笑いしてね、『これはいい。ひとり旅の人間がこの剣を装備したら、かならずモンスターへ会心の一撃が繰り出せるな。さて、パーティーなんてものを作って集団行動しとる人間にソロプレイするという発想ができるものがおるかのう。マオウ、人間に邪教をあがめさせてこの剣をまつらせておけ』なんて命令するんだよ。なんで魔王のわたしが宗教団体まで設立させられなきゃならないのさ」


「その、大変ですね、マオウちゃん」


「それだけじゃないんだよ。絶大な防御力があるけど素早さがゼロになるヨロイ作ってね、わたしに装備させるんだ。もう重いのなんのって。その状態で、魔界の海にわたしを飛び込ませるんだよ。ちなみに、その少し前に、マンガで溺れた人間が助け出された時におなかを水でパンパンにして、口や鼻から水を噴水みたいに噴き出しているのを見て大笑いしてた」


「すると、そのダイマオウ様の部下であるマオウちゃんとしては……」


「そんなの、わたしにそのマンガを再現させて面白がるために決まってるじゃない。マンガ的なデフォルメ表現なんだから実際にできるわけないのに。でも、断ったら何されるかわからないからさ、やりましたとも。で、わたしなりにガブガブ魔界の海を飲み込んでさ、そのあと必死になって陸に這い上がってさ、口から水を吹き出したんだよ。ピューって。そしたら、ダイマオウ様ったらなんて言ったと思う?」


「なんて言ったんですか?」


「『思ったよりつまらんな。やはりマンガと実物ではメディアが違うからな。ああ、マオウ、そのヨロイは沈没船にでも隠しておけ。そのヨロイの重さのせいで沈没したうわさも広めておくんだぞ』と、こうだよ。メディアの違いなんて初めからわかってることなのに。あまつさえ、このわたしにステルスマーケティングまでさせるんだよ」


「ひ、ひどいですね」


「そんなダイマオウ様なんだけど……ユウシャちゃん、会う? 言っておくけど、会ってから『やっぱりやーめた』なんてできないよ。大魔王からは逃げられないからね」


「ちなみに、あたしが断ると、マオウちゃんはどんな仕打ちを……あ、答えなくていいです(マオウちゃんのあの顔。さぞや厳しいおしおきをされるんだろうな。これは、断れないな)」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る