第63話センシちゃんリュウキシちゃんに謝罪される
コンコン
「失礼します、ここはセンシさんのお宅でしょうか」
ガチャリ
「はい、そうですけれども……!!!リュウキシさん! リュウキシさんですか」
「自分のことをセンシさんはご存知のようですね。それならば話は早いです。とりあえず部屋に入れてもらいませんか」
「(なんでリュウキシさんがわたしの部屋に)え、ええ、もちろんです。ど、どうぞどうぞ。その、ここレトロゲームセカイでちょっとした騒ぎになってたんですよ。リュウキシさんが来るとか来ないとか。上空をドラゴンが飛んでいたとかいなかったとか」
「存じております。それも含めてのお話です」
「(なんだろう、リュウキシさんがわたしにお話って)それで、お話って何ですか」
「それはですね、センシさんは自分のことをご存知なようですが、自分がセンシさんの名前をを知っていることを不思議には思いませんか」
「(そういえば……リュウキシさんは大スターだからわたしが知っていても不思議じゃないけれど、どうしてリュウキシさんみたいな大スターがわたしのことを)ふ、不思議ですねえ」
「では、ヒントを出しましょう。一つ目。自分はここレトロゲームセカイで誰かにかくまわれていました。それはうわさになっていたようですし、自分も誰かにかくまわれたことは認めます」
「(やっぱりリュウキシさんはかくまわれていたんだ。でも誰かかあ。ゴーレムさんの言う通りだな。やっぱり、リュウキシさんは犯人を漏らすような人じゃないんだ。口が硬いんだ)そうだったんですか」
「二つ目のヒントです。自分がここで誰かにかくまわれてから、自分はセンシさんのことを知ったのです。さて、どこで自分はセンシさんがセンシさんであることを知ったのでしょうか。この部屋をのぞいたとしても、センシさんがセンシさんであることはわかるとは思えませんよ。普通の人は自分の部屋で『わたしセンシです』なんて言いませんからね。この部屋にはネームプレートもありませんしね」
「(それもそうだな。となると、誰かがわたしを『センシちゃん』なんて呼んだ時、その場所にリュウキシさんがいたってことなのかな……)まさか!!!」
「おっと、その先は言わないでもらいたいですな、センシさん。このリュウキシ、恩人を売るようなまねはしたくありません」
「そ、それもそうですね。(ユウシャちゃんがリュウキシさんをかくまっていたのかあ)」
「それでですね、自分は盗み聞きのようなまねは嫌いです。仮に不可抗力だったとしても、それならば聞いたことをはっきり相手に伝えるべきだと自分は考えております。ですが、仮にセンシさんが何か話していたことを聞いたと自分がセンシさんに伝えると、少々困ったことになってしまうのです」
「(そうかあ。リュウキシさんがユウシャちゃんの部屋でわたしとユウシャちゃんが話していたことを聞いたいたとなると、それはリュウキシさんがユウシャちゃんの部屋でかくまわれていたことを白状することになるもんね。リュウキシさんにしてみればそんなことはできないもんね)か、仮にわたしとユウシャちゃんの話をリュウキシさんがやむを得ない事情で聞いてしまったとしても、わたしはちっとも気にしません」
「そうですか、感謝します、センシさん」
「あ、頭をあげてください、リュウキシさん。あこがれのリュウキシさんにそんなことをされたら、わたし……」
「ほう、センシさんは自分にあこがれているのですか。いや、これはお恥ずかしいですあ」
「そんな、とんでもないです」
「それはいつからですか、センシさん? 子供の頃から自分にあこがれていたのですか? だとしたら、一途なことですなあ」
「(リュウキシさんにあこがれてるってことが、ユウシャちゃんへの想いのカモフラージュだってリュウキシさん本人にバレたらどうしよう。ブトウカちゃんにも言われたな。『偽装するならもっとうまくやれ』って。でも、リュウキシさん本人の前でどうすれば……)それはもう、わたしはリュウキシさん一筋ですから」
「センシさん。老婆心ながら一つ言っておきましょう。自分はこれでも、長年人間でありながらモンスターのために人間と戦ってきました。はばかりながら、それなりに人を見る目はあるつもりです。特に、『リュウキシさん、ふぁんです』なんて近づいてきて、その本心では自分を利用してやろうなんて考えている人はそう見抜くことができるつもりです」
「(どうしよう、リュウキシさん、わたしがファンだってことが偽装だって絶対気づいてるよ)そ、それはすごいですね」
「ですが、自分は嘘には良い嘘と悪い嘘があるとも思っています。例えば、身近な人への想いを隠すために、適当な有名人のファンだって言い張るなんてのは素敵な嘘ですね。その人にしてみれば、その有名人に実際に会うなんて夢にも思わなかったでしょうからね」
「(リュウキシさん、わたしがユウシャちゃんにラブラブだってことにも気づいてる! リュウキシさんはわたしがユウシャちゃんと話しているのをちょっと聞いただけなのにわかっちゃうんだ。わたしってそんなにわかりやすいの?)そ、そうですね。わたし、リュウキシさんに実際に会うなんて夢にも思ってませんでした」
「おやおや、自分はセンシさんがそうだとは言ってませんよ」
「そ、そうでした」
「とにかく、自分はセンシさんに謝罪するためにここにきました。ですが、なぜ謝るのかとセンシさんに尋ねられたらそれは答えることができません。それでもセンシさんは自分を許してもらえますか」
「とんでもありません。こちらこそ、その、誰とは言えませんが有名人を利用するようなまねをして申し訳ありませんでした」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます