第62話ユウシャちゃんゴーレムちゃんに配当金を差し出される・ユウシャちゃんの部屋にて
「その、ユウシャさん、ただいま戻りました。遅くなって申し訳ありません」
「あ、ゴーレムさん。いろいろ迷惑かけてごめんね」
「いえ、リュウキシさんのためですから」
「そう。そのリュウキシさんなんだけどね。もう全快してここから出ていっちゃったんだ。だからその、ゴーレムさんに頼んだリュウキシさん用のご飯は……いっしょに食べよっか」
「その、ご飯よりも先にユウシャさんに見ていただきたいものが……」
「うん、いいよ、なあに?」
「これなんですが……」
「うわあ、すっごいたくさんのお金じゃない。これ、どうしたの?」
「アソビニンさんが自分に差し出したんです。『ゴーレムさん大当たりです。これ配当金です』とかなんとか言って。自分、『どうせいたずらだろう。中身は何かな。びっくり箱かな。ブーブークッションかな』なんて思って、そしたらこの大金ですよ。配当金って言葉からすると、例のリュウキシさんの犯人当てっこギャンブルの総額なんじゃないかと」
「ずいぶんなビッグビジネスだったんだねえ。それで、あたしに見てどうしろって言うの?」
「ですから、ユウシャさん、どうぞ」
「どうぞって差し出されても……ひょっとして、あたしにくれるってこと?」
コクリ
「いやいやいや、コクリとうなづかれても……こんな大金受け取れないよ。ゴーレムさんはあたしをどんなごうつくばりだと思ってるのさ」
「で、ですがリュウキシさんはユウシャさんの部屋でかくまわれていたわけですし……」
「たしかにそうだけど。でも、配当金ってことは、リュウキシさんをかくまっていた人が誰かを当てたことに対するご褒美ってことでしょう。それなら、ゴーレムさんにももらう権利はあるんんでしょう。センシちゃんに聞いたよ。ゴーレムさんが『リュウキシさんが誰にかくまわれてたなんて言うはずがない』って言ったって。ゴーレムさんの大当たりじゃない」
「それは、自分がリュウキシさんをユウシャさんがかくまっていたことを手伝っていて真相をしていたからで……とにかく、自分はこんな大金受け取れません」
「そんなのあたしだってそうだよ。だいたい、『受け取れない』てことならアソビニンちゃんから受け取らなかったらよかったんじゃないの」
「ですから、それはアソビニンさんのいたずらだと思ったからで……」
「わかった、こうしよう、ゴーレムさん」
「どうするんですか、ユウシャさん」
「いい、ゴーレムさんがあたしをどう思ってるかは知らないけどね、あたしはそんな大層な人間じゃないんだよ。少なくとも、『リュウキシさんが腰を痛めてあたしの部屋でうんうんうなってました』って誰にも言わないでいられるほどあたしはできた人間じゃないの」
「ユウシャさん、リュウキシさんの秘密を言いふらすってことですか? いくらなんでもそれは……」
「誰も言いふらすなんて言ってないってば。つまりね、ことの真相を知ってる誰かと、たまーに『あの時のリュウキシさんっておかしかったね。いつものリュウキシさんのイメージとは大違い』なんてお酒でも飲みながら話せたらってこと」
「ことの真相を知ってる誰かですか。それって……」
「とうぜんリュウキシさんじゃないよ。いくらなんでも本人の目の前でうわさ話するわけにはいかないから」
「自分ってことですか」
「そういうこと。あたしも秘密をいつまでも隠し通せるかって言うと自信ないんだ。だから、ゴーレムさんとリュウキシさんについて話せたらなあって。このお金はその時の酒代ってことでどうかな」
「自分は入居者であるユウシャさんとはプライベートで付き合う気はなかったのですが……」
「むむう、じゃあ、こうしよう。あたしがリュウキシさんの秘密をバラしちゃったら、レトロゲームセカイがぎくしゃくしちゃうよね」
「そうなるでしょうね」
「そんなことにならないために、ゴーレムさんが仕事としてあたしの話し相手になってくれるってのはどう。ゴーレムさんも、あたしに『悩みがあるんだけど、聞いてくれる?』なんて言われて聞いた話をぺらぺら話さないでしょ。これなら、ゴーレムさんは仕事ができる。あたしは秘密を話せて嬉しい。リュウキシさんの名誉も守られる。ね、いいアイデアじゃない」
「そう言うことでしたら……」
「じゃあ決まりね。それじゃあ、このお金はその時の酒代ってことだからね。ゴーレムさんってお酒何が好き?」
「自分、未成年なんですけど……」
「そ、そうかあ、未成年の飲酒はまずいよねえ。コンプライアンス的に。ご、ごめんね、モンスターさんの年齢って見た目じゃあわからなくってさ。ゴーレムさんって牢屋に入ってたって言ってたから、てっきり酸いも甘いもかみ分けた中年さんだと思ってました。ほら、リュウキシさんが好きって言ってたから、あたしと同世代かなって」
「自分は十代のほとんどを牢屋で過ごして、今は十八です。リュウキシさんは看守さんにすすめられました」
「そ、そうなんだ、十八かあ。若いねえ」
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