第60話ユウシャちゃんリュウキシちゃんに義理に思われる・ユウシャちゃん部屋にて

「ふう、センシちゃんもいろいろ大変なんだな。でも、とりあえずリュウキシさんがいるってバレなくてよかった」


「大変迷惑をかけたようで申し訳ありません、ユウシャさん」


「そうですか……ってリュウキシさんですか! もう腰はだいじょうぶなんですか」


「おかげさまで、もうピンピンしゃっきりです。あとはこっそりここを抜け出して、マオウさんのところに一言お詫びをしにいけばこの騒ぎもおさまるでしょう」


「そうですか、それはよかったです」


「それにしても、あのゴーレムさんが自分のことをあんなふうに思っていたとは、なんだか照れ臭いですな。安心してください。このことは誰にも言いません。もちろんマオウさんにもね。ゴーレムさんにあそこまで言われたんだとしたら、その気持ちは裏切れませんからね」


「(多分マオウちゃんはなにもかもお見通しだと思うけれど、言わない方がいいだろうな)そうですか。あたしもこのことはないしょにします。マオウちゃんも、ゴーレムさんが言う通りこのことはこれっきりにすると思いますよ。マオウちゃんは、殺し合いが大好きで少しおっかないですけれど、そんなねちねち細かいところまで気にする人じゃないと思いますから」


「そうですね。わたしも一度お会いしただけですが、彼女は信頼できる人だと思います。わたしは人見知りでしてね、初対面のときは基本黙ったままになってしまうんです。ああ、ユウシャさんの場合は例外ですがね。なにせ、場合が場合でしたから」


「(こうして見ると、やっぱりリュウキシちゃんってカッコいいなあ。腰の痛みでピイピイ言ってたことがウソみたい)そ、そうでしたね」


「そんな初対面のときにわたしが口を開かないからといってぺらぺら話す人はいけません。女性というものはしとやかでなければなりません。相手が黙っているのならばこちらも黙っている。そんな慎み深さが今の女性にはありません。全く困ったものです。その点、マオウさんはいいですね。こちらの沈黙に沈黙で答えてくれました。ああいう方は信頼できます」


「(アイドルさん関係のマオウちゃんのていたらくは隠しておこう)そうですね、マオウちゃんって、強いだけじゃなくて管理人としてもしっかりしてるんですよ」


「ところで、さきほでユウシャさんがお話ししていらっしゃったセンシさんですか? あの方にもずいぶんご迷惑をおかけしたみたいですね」


「そうです、それですリュウキシさん。センシちゃんって、リュウキシさんの大ファンなんだすよ。よければ、ぜひお会いしてください。そうすればセンシちゃんも喜ぶと思います」


「センシさんは、ユウシャさんに『自分はリュウキシさんのファン』だとおっしゃってるんですか」


「ええ。もう子供の時からセンシちゃんはリュウキシさんの大ファンだったんですよ。あたしもリュウキシさんのファンなんですが、きっかけは何かと言うと、センシちゃんがリュウキシさんにのぼせあがっていたからでして……」


「ふむ。そういうことなら、そのセンシさんに会わないわけにはいかんでしょうな」


「本当ですか、ありがとうございます。きっと、センシちゃん感激しちゃいますよ」


「いえ、これは自分の問題ですから」


「自分の問題ですか。そういえば、マオウちゃんもその言葉を使っていました。あたしは気にしてないことを、自分の問題だって気にかけちゃう人なんですよ。マオウちゃんって人は」


「そうですか、やはりマオウさんは信頼できる方のようだ」


「???」


「意味がわからないという様子ですな。簡単にいうとですね、他人になんと言われようと、自分の決まったルールに従って生きる人はその人には信念があるということです。その自分のルールが他人に迷惑をかけるものであったり、そのルールがあやふやな人も少なからずいますが……ユウシャさんの話とわたしの印象を総合すると、マオウさんはそんな人ではなさそうです」


「なんだか難しいです」


「難しいですか。ユウシャさん」


「はい、でも難しいけど理解したいとは思います。その、リュウキシさん……」


「いいですよ、お引き受けします」


「え、あたしまだ何も言っていませんのに」


「ユウシャさんの表情を見れば、ユウシャさんがわたしに教えを求めていることくらいはわかります。そのくらいできなければモンスターの世界ではやっていけません。なにせ、モンスターは人間みたいにおしゃべりばかりとは限りませんからね」


「その、ご迷惑をおかけします、リュウキシさん」


「いえいえ、お互い時間はたっぷりあるでしょうし、なによりここまで迷惑をかけたユウシャさんの頼みを断るような不義理はできません」


「ぎ、義理ですか。まさかリュウキシさんの口から直接その言葉が聞けるとは思いませんでした」


「おや、そうですか。そういえば、ユウシャさんもわたしのファンだとおっしゃっていましたね。それでは、あのセリフをいっしょに言いますか」


「いいんですか、リュウキシさん」


「お安いご用です、ユウシャさん。いいですか、いきますよ、さんはい」


「「義理と人情はかりにかけりゃ義理が思いが渡世の仁義」」

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