第56話ユウシャちゃんマオウちゃんに派閥から抜けられる・マオウちゃんの部屋にて
「(あれからリュウキシちゃんをあたしの部屋にかくまったのはいいけれど、マオウちゃんに呼び出されちゃったよ。リュウキシちゃんをあたしの部屋に運んでいるところを誰かに見られたのかな。こっそりリュウキシちゃんを運んだつもりだったけれど……。マオウちゃんにあたしが呼び出されたことを知ったゴーレムさんが『ここは自分に任せてください。ユウシャさんはマオウさんのところにいってください』って言ってくれたけど……マオウちゃんになんて言われるか心配だなあ)マオウちゃん、その入ります」
ガチャリ
「やあ、ユウシャちゃん。待ちわびていたよ。とりあえず、そこに座りなさいな」
「は、はい、失礼します」
「ときに、ユウシャちゃん。わたしのもとにここレトロゲームセカイの上空でドラゴンが観測されたとの報告があった」
「(やっぱり。リュウキシさんの話だ。どうしよう、とぼけなきゃ)へ、へえ、そうなんですかあ」
「前にも説明した通り、ここレトロゲームセカイの存在は極秘だからね。人間にはおいそれと近づけないような場所に建てられているし、部外者のモンスターにはこのあたりは立ち入り禁止だと魔王であるこのわたしがにらみを利かせている。それなのにドラゴンが飛行していたと言うんだ。なんでだろうねえ、ユウシャちゃん」
「(そもそもなんでリュウキシちゃんはドラゴンから飛び降りるなんてことをやっちゃったのよ)さ、さあ、ちょっとわかりかねるんですが……」
「そのドラゴンから人間らしきものが飛び降りたなんて報告も入っている。なにせ、わたしの配下のモンスターは優秀だからね。視力抜群のモンスターである大目玉がしっかり目視で確認しているからね。ちなみに、嗅覚抜群の地獄の番犬ケルベロスが警備していてね、かぎなれないにおいがしたなんて報告も入っている。さあ、ここレトロゲームセカイの管理人であるマオウちゃんに何か言うことはないのかい、ユウシャちゃん」
「(ど、どうしよう。ここでしゃべっちゃったら、リュウキシちゃんとの約束が……)な、何もありません……です、マオウちゃん」
「そして、大目玉の目視結果と、ケルベロスのにおい鑑定を総合すると、ドラゴンから飛び降りた人間らしきものがどこに着地したかもあらかた見当がついている。ところで、ユウシャちゃん。このマオウちゃんが魔王の地獄耳と千里眼で入居者の現在位置を全て把握していると言ったらどうするね。仮に、『人間らしきものの着地地点にさっきまでユウシャちゃんがいたんだけどなあ』なんてあたしが言ったらユウシャちゃんはどうするかね」
「(『仮に』なんて、そんなのもう『わたしは九十九パーセント確信してるんだけどね』なんて言ってるも同然じゃないですか、マオウちゃん)ど、どうすればいいんですかねえ」
「わたしに聞いてどうするのさ、ユウシャちゃん。質問してるのはこっちなんだから。これはわたしの勝手な推測なんだけどね、リュウキシさんがケレン味を出そうと思って、ドラゴンからとびおりるなんて派手な登場方法をやっちゃって、でもよる年波には勝てずにぎっくり腰でもやらかしたんじゃないかな」
「(まったくもってその通りです、マオウちゃん)わあ、すごい発想ですねえ。マオウちゃん、小説家にでもなられたらいかがですか」
「ところで、アイドルちゃんの一件で、魔王であるわたしがユウシャちゃん派になると宣言したよね。覚えているかい」
「(あれ、とつぜん話題がかわったな。どうしたんだろう)はあ、そんなこともありましたね、マオウちゃん」
「あれね、取り消すよ。やっぱり、魔王が人間のユウシャちゃんの派閥に入るなんてとんでもないことだからね」
「それはぜんぜん構わないんですけれど」
「ところが、わたしがユウシャちゃんの派閥から抜け出したとしても、アイドルちゃんの一件でわたしがユウシャちゃんに借りを作ったことは変わらないんだ。さて、これは困ったことになったなあ」
「か、借りだなんて……あたし、そんなつもりはぜんぜん……」
「ユウシャちゃんがどう思っているかは関係ないんだよ。これは魔王であるわたしがどう思うかという問題なんだからね」
「そ、そうなんですか」
「ユウシャちゃんがこのマオウちゃんに再戦を挑んできたときに、わたしが手加減することで借りを返すということもできなくはない。一ターン二回行動を一回にするとかね。でも、それはやりたくないかな」
「どうしてですか、マオウちゃん」
「わたしは手加減なんてしたくないからだよ。わたしの手助けでユウシャちゃんたちが強くなってわたしを殺すのはいい。強いユウシャちゃんに殺されるならむしろ本望だ。でも、手加減して殺されるのはまっぴらごめんだ。わたしがしたいのは全力を出し合った上での命がけの殺し合いなんだからね。ハンディキャップ戦でのちいぱっぱなんて楽しくもなんともないね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます