第55話リュウキシちゃんユウシャちゃんに介抱される・人気のない場所にて
「こ、腰をやってしまった。不覚。このリュウキシともあろうものが着地に失敗して腰を痛めてしまうとは……あいたたた、これは少々やっかいかもしれませんなあ」
「大丈夫ですか、リュウキシさん。えい、回復呪文です。どうですか? 治りましたか」
「いけません。ちょっぴり重症みたいです」
「そうかあ。あたしも回復魔法が得意ってわけじゃあないからなあ。そうだ。あたしの知り合いにソウリョちゃんって言う回復魔法がすっごく得意な子がいましてね。いま呼んできます」
「お待ちください、お嬢さん」
「お嬢さん? それあたしのことですか』
「そうです。お嬢さんは人間ですか?」
「そうですけれども……それがどうかしましたか」
「と言うことは、そのソウリョさんと言う方も……」
「人間ですけれど。リュウキシさん。見たところ緊急事態のようなんですが……」
「いけません。このリュウキシ、人間でありながらモンスターに味方し、人間と戦ってきました。そんな自分が人間に手助けしていただくわけにはいきません」
「あの、リュウキシさん、あたしも人間なんですが……」
「失礼ながら、お嬢さんの回復呪文ではこの腰の痛みがちっとも治りませんでした。だから自分のルールに違反してはいないと判断します。ですが、そのソウリョさんとやらに回復していただくわけには断じていけません」
「(あたしの回復呪文がたいしたことなくてよかったのかな。人間の回復呪文がダメだって言うのなら、マッドドクターちゃん……だめだめ、マッドドクターちゃんにまかせたらリュウキシさんがどんな実験モルモットにされるか分かったものじゃない。そう言えば……)あの、レトロゲームセカイにナーススライムさんがいると思うんですが」
「それもいけません、お嬢さん。恥ずかしながら、このリュウキシにもイメージがあります。腰を痛めて苦しんでいる姿を仲間である他のモンスターに見られたくありません」
「(そういえば、戦闘の後にリュウキシさんが誰よりもダメージ受けてるのに治療所にいかないって話を聞いたことがあるなあ。そこの治療所の人が『リュウキシさんが治療してもらわないとほかのモンスターが治療所に入れません』なんて言って説得したらしいけど)あの、リュウキシさん。そのナーススライムさんはモンスターマスターちゃんの仲間で……モンスターマスターちゃんって知ってますかね」
「存じております」
「だったら話は早いですね。ナーススライムさんは人間じゃないですし、モンスターマスターちゃんの仲間ですから、リュウキシさんの仲間のモンスターでもないですよ。ということでここはそれで手を打ってくれませんかねえ」
「それもなりません。このくらいの痛み、しばらくおとなしくしていればどうにでもなります。ここはひとつ、見なかったことにしていただけませんか、お嬢さん」
「そういうわけにもいきませんよ。だいたい、おとなしくしてるってどこでおとなしくしてるって言うんですか。ここはたしかにひとけはありませんが、それでも誰も来ないって保証はないんですよ。そもそも、そんなふうに苦しんでいるリュウキシさんをほっておいてはいられません」
「しかし……お嬢さん。あそこにいるのはゴーレムですか」
「そうですけれど」
「あのゴーレムさんとお嬢さんは仲がよろしいのですか?」
「まあ、仲が悪くはないと思いますけれど。なんですか、『秘密を知られたからには生かしてはおけない』とでも言う気ですか。いくらリュウキシさんでもそれはダメですよ」
「そんなことは申しません。わかりました。このリュウキシ、覚悟を決めました。お嬢さんとゴーレムさんの世話になります」
「そんな、あたしがリュウキシさんの世話だなんて……ほら、ゴーレムさんも何か言ってくださいよ……だめだ、コチコチにかたまってピクリとも動かない。あこがれのリュウキシさんに会えて緊張のあまり固まってる」
「お嬢さん。後生です。ここで腰を痛めたところを見てしまったことをなにかのご縁と思って。なにとぞ」
「まあ、あたしもリュウキシさんのファンですから、そこまで言われたら何とかせざるをえませんけれど……」
「感謝します、お嬢さん」
「あの、そのお嬢さんと言うのも、やめていただけませんか。あたしにはユウシャという名前がありまして」
「ああ、お嬢さんがあの有名な。ユウシャさんとはいつか手合わせしたいと思っておりました」
「あたしもリュウキシさんに会いたいとは思っていましたけどね、まさかこんな形で会うことになるとは……ゴーレムさん、リュウキシさんを運ぶの手伝ってください。あたし一人じゃちょっと運べそうにありません。ここは、力自慢のゴーレムさんの手を借りなければなりません。ほら、いつまで硬直してるんですか。シャキッとしてください、ゴーレムさん」
「お手数をおかけします、ユウシャさん」
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