第54話ユウシャちゃんゴーレムに詰め寄られる・人気のないどこかにて
「ユウシャさん、話があります。すこしお時間いただけませんか。できればほかに誰も居ないところで」
「はあ、いいですけれども。ゴーレムさんがそこまで言うんでしたら。じゃあ、どこがいいですかねえ」
「すこし離れたところに、海岸があります。あそこならひとけがありません。ご一緒していただけますか」
「そうですか。それじゃあいきましょうか」
すたすたテクテク
「着きましたねえ、ゴーレムさん。で、話ってなんですか」
「ユウシャさん、リュウキシさんがレトロゲームセカイに来るって本当ですか?」
「だ、だれにその話を聞いたのかな、ゴーレムさん」
「だれとかそう言う問題じゃないですよ。自分たちの仲間のモンスターはもうその話題で持ちきりなんですから」
「そ、そうなんだ。でもあたしも詳しくは知らないんだよね。べ、べつに知ってて教えないってわけじゃないんだよ。ほら、ゴーレムさんにはあたしがレトロゲームセカイに来て以来、なんやかんや世話をしてもらってるし。知っていれば教えたいんだけど、無い袖はふれないっていうか……」
「そうですよねえ。ユウシャさんの立場ならそう言いますよねえ。ユウシャさんともなれば、このリュウキシさんが来るかどうかでレトロゲームセカイが大騒ぎになってる件について、魔王様からなにか相談されているんじゃないかとも思ったんですけれど……あ、いや、言わないなら言わないでぜんぜん平気なんでしょ。逆に、ここでユウシャさんが『そうなんだよ、実はね……』なんてぺらぺら喋られたりしたらがっかりと言いますか。『ユウシャさんってけっこうお調子者なんだな』といえ感じがしまして……」
「(ゴーレムさんったら、あたしをあまり買い被らないでほしいなあ。そりゃあ、実際にマオウちゃんに相談されたけれど……あれはアイドルちゃんの話のついでって感じだったし。でも、このままだとあたしの口が滑りかねない。なんとか話をそらさないと)ゴーレムさんもリュウキシさんは好きなんですね」
「好きってものじゃありませんよ」
「(おおう、予想以上に食いついてきましたね、ゴーレムさん。これはファンが好きなものを話すときはとんでもなく早口になって長々と話すパターンかな」
「前にも言いましたよね。自分は幼い頃からモンスター用の牢屋に入れられてたから、人間に対して好きとか嫌いとか言うことはよくわからないって。でも、リュウキシさんは特別です。あの愚直なまでの一途さ。あこがれちゃいますよ。育ての親がドラゴンということはもちろん知ってますよね。でも、本当の両親とも再会するんですよ。それも、その両親もとんでもなくいい人なんですよ。リュウキシさんと離ればなれになったのも不幸ないきちがいだったんです」
「(やっぱり早口になった。さっきから思ってたけれど、ゴーレムさんって基本無口なモンスターさんなんだよね。そんなゴーレムさんにここまで熱く語らせるなんて、リュウキシちゃんの魅力はあたしみたいな人間だけじゃなくゴーレムさんみたいなモンスターさんにも伝わるんだなあ)」
「その時の生みの親へのリュウキシさんのセリフ。『自分のことは死んだものと思ってくだせえ』しかもですよ、その産みの親がとんでもない大金持ちだったんですね。リュウキシさんは人間なんだから産みの親のもとへ戻ろうと思えば戻れるし、育ての親のドラゴンさんもそれを進めるんですね。でも、リュウキシさんはそれをしないんですね。それでこそリュウキシさんなんです」
「(その話ならあたしも知ってるし、大好きだけれど、下手に口を挟むとやぶヘビになりそうだし、ここはだまっていよう)」
「そして、リュウキシさんのモンスター部隊と、産みの親がいる国が戦うことになったんですけれど、そこでリュウキシさんが言うんですよ。『自分はこの戦いには参加できません。理由は言えません。いかなる処分でも受けます』いやあ、格好いいなあ。自分も実は両親がいない孤児だったんですね。当然おきまりのコースでグレました。そりゃあ、子供の頃は『いつか大金持ちの実の両親があらわれて俺を大金持ちにしてくれないかな』なんて思ってましたよ。でも、このリュウキシさんの話を牢屋で知って立ち直れたんです。今の自分があるのはリュウキシさんのおかげなんです」
「(やっぱり長くなった。あれ……)ゴーレムさん。あそこ、空を見てください」
「なんですか、ユウシャさん。これからがこのリュウキシさんの話のクライマックスなのに……空ですか? 空になにがあるって言うんですか……あれは、ドラゴン!」
「そうですよ、ドラゴンですよ。しかも背中に誰か乗ってますよ。あ、飛び降りた。ここに落ちてくるんじゃないですか。あれはリュウキシさんですよ。間違いない。ドラゴンに乗って空から降ってくる登場なんて、くやしいけれどかっこいいなあ」
ヒューーーーン……ドサッ、グキッ!
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