第53話センシちゃんブトウカちゃんとリュウキシちゃんについて話す・センシちゃんの部屋にて
「センシちゃん、あのうわさ聞いた?」
「うわさって何? ブトウカちゃん」
「リュウキシさんがここレトロゲームセカイに来るってうわさ」
「そうなんだ。それで?」
「『そうなんだ』かあ。あれれ、おかしいなあ。たしかセンシちゃんはリュウキシさんの大ファンだったと記憶してるんだけどな。そんなセンシちゃんの憧れの的であるリュウキシさんがここレトロゲームセカイに来ると言うことを知ったら、これはさぞやセンシちゃんが大喜びするだろうと思って、いそいそと知らせに来たって言うのに」
「…………ほんとなの、ブトウカちゃん。ほんとにリュウキシさんがここレトロゲームセカイん来るの? わあ、どうしよう。おめかししなきゃ。美容室いかなきゃ。お化粧品新調しなきゃ」
「その猿芝居やめてもらってもいい? 正直言って見るに耐えないんだけど」
「そんなにわたしの芝居ひどかった? ブトウカちゃん」
「大根もいいところだったね。まあ、身近な人への恋心を隠すために、適当な有名人にあこがれてるってことにしてカモフラージュするのはよくある手だからいいとしても、それならもっと徹底しないとね。肝心のユウシャちゃんにセンシちゃんのリュウキシさんへのあこがれが偽装だって気づかれたらどうするの? まあ、ユウシャちゃんは自分のことになるとてんで鈍感だから、まずそんな心配はないだろうけれど」
「面目ないなあ」
「それにしても、思い出すなあ。センシちゃんが興味のないリュウキシさんのプロフィールを必死に暗記してた子供のころを。よくわたしがテストしたもんね。リュウキシさんの誕生日は?」
「□月△日!」
「リュウキシさんの出身地は」
「××島!」
「大正解。でも、それじゃあ、丸暗記したことをただ答えているようにしか見えないね。本当のファンならもうちょっと悩んだりしてもいいんじゃないかな。これも子供の頃にわたしがセンシちゃんに忠告したことだよね」
「ううう、あいかわらずブトウカちゃんは手厳しいなあ」
「それにしても、カモフラージュのためにリュウキシさんのファンだってユウシャちゃんに言ったら、肝心のユウシャちゃんまでリュウキシさんにハマっちゃったのは意外と言うか傑作と言うか……いやあ、今思い出しても笑いが止まらないよ。ユウシャちゃんに『センシちゃん、リュウキシちゃんのお話最高だね。あの、『自分、不器用ですから』ってセリフがもう、しびれちゃう』なんて言われて、必死に話を合わすセンシちゃんのしどろもどろっぷり」
「あの後は、二十四時間リュウキシさん本耐久読書マラソン大会で死ぬかと思ったよ。適当にリュウキシさんのプロフィール覚えていただけだったから、どんな話かまでは知らなかったんだよね。まさかユウシャちゃんまでリュウキシさんにのめり込むなんて予想外だったよ」
「そのセンシちゃんの不眠不休っぷりも笑えたなあ。目を真っ赤にして、目覚めの粉飲みまくって最後は泣きながら読んでたもんねえ。あれは感動の涙だったのかな。それとも、締め切りに追われる小説家が、真っ白の原稿を前にして流す涙的なやつだったのかな」
「それを横でゲラゲラ笑いながら見ていたブトウカちゃんも大概いい趣味してるけどね」
「それはもう。あんな原稿を落としかけている新人小説家をイライラしながらせっつく編集みたいなことはそうはできない体験だからね。『ほら、そんなんじゃあユウシャちゃんにがっかりされちゃうよ。ユウシャちゃんは『え、センシちゃんってリュウキシちゃんのファンなのにあの作品も知らないの?』とは言わないだろうねえ。でも、『そ、そうだよね、センシちゃんも見てないリュウキシ作品くらいあるよね。ごめんね。あたしに気を使って無理にこの話読まなくてもいいからね』くらいは言うだろうなあ。がっかりするだろうなあ、ユウシャちゃん。せっかくセンシちゃんとリュウキシさんの本の話をしようと思ってたのに、その本をセンシちゃんが読んでないと知ったら』なんてあおりにあおったもんね」
「その節は、たいへんご迷惑をおかけしました、ブトウカちゃん」
「その後さ、リュウキシさんが結婚したじゃない。やっぱり、ファンってその対象が結婚しちゃうと幻滅しちゃうこともあるよね。でもそんなときにセンシちゃんはこう言うのよね『たしかにショックかショックでないかと言えばショックだ。でも、わたしはリュウキシさんのファンだからリュウキシさんがしあわせならばそれでいいし、これからもリュウキシさんのファンで居続けるよ』なんてね。おかしいったらありゃしない。本当は、あたらしくユウシャちゃん以外のだれかのプロフィール覚えるのが面倒なだけなのにね」
「それで、ユウシャちゃんがわたしのことを一途に想いを貫き通すリュウキシさんのファンのかがみなんて過大評価しちゃったのよね。そりゃあ、一途は一途だけれど、わたしはずっとユウシャちゃん一筋なのにさ」
「おおよしよし。大変だったねえ、センシちゃんや」
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