第52話マオウちゃんユウシャちゃんにリュウキシちゃんについて相談する・マオウちゃんの部屋にて
「ユウシャちゃん、リュウキシちゃんて知ってる?」
「そりゃあ、もちろん知ってますよ。人間でありながらドラゴンに育てられたため、モンスターのために人間と戦っているリュウキシちゃんでしょう。『義理と人情、はかりにかけりゃあ義理が重いが渡世の仁義』ってセリフ、しびれますよねえ。あたしもファンなんですけれど、パーティーメンバーのセンシちゃんがそれはもう大ファンでして。そもそもあたしがリュウキシちゃんのファンになったきっかけは、センシちゃんの布教がきっかけでしたんですから」
「そりゃあ話が早い。そのリュウキシちゃんがここレトロゲームセカイに来ることになったんだ」
「それって、リュウキシちゃんが現役を引退するってことですか? なにか引退せざるを得ない理由があるんですか? 大魔導士さんみたいにボケちゃったとか」
「いや、わたしもそこまで詳しくは知らないんだけどね。でも、リュウキシちゃんがここレトロゲームセカイに来るとなると、これは大変なことになっちゃうよねえ、ユウシャちゃん」
「なるでしょうねえ、マオウちゃん。なにせ、リュウキシちゃんと言ったら、人間にもモンスターにも大人気ですからねえ。アイドルさんはどちらかと言えば若い子にきゃあきゃあ言われてて、あたしたち世代には直撃ってわけじゃあないけれど、リュウキシちゃんと言ったら、もう世代ど真ん中ですもんねえ」
「で、じつはすでにうわさが広まちゃってるんだ、これが」
「そ、それってもしかして、マオウちゃんがわざと……なにかたくらんで裏でうわさを広めたりしたんですか」
「違う。ユウシャちゃんがそう疑う気持ちもわかるけど違う。リュウキシちゃんがここに来ると聞いた時はそんなことも考えたけど、アイドルちゃんが来ると聞いたら、リュウキシちゃんのことは頭からどこか遠くに飛んで行っちゃったんだから」
「それもそうですね。でも、うわさの発信源はともかく、そんなうわさが広まっちゃって大変じゃないんですか、マオウちゃん」
「大変も大変。わたしは言うに及ばず、スタッフのモンスターが入居者さん達から質問攻めなんだから。『リュウキシちゃんがレトロゲームセカイに来るって本当なの?』『いつ来るの』なんてことになってるんだから」
「まあ、リュウキシちゃんの人気を考えればねえ」
「それに、スタッフのモンスターがわたしに直訴しに来るんだから。『リュウキシさんの世話はぜひ自分にやらせてください』って。それも一人や二人じゃなく何人も。そんなモンスター全員のお願いを聞き入れたら、それこそリュウキシちゃん軍団で国の一つや二つ滅ぼせちゃうよ」
「そんなお願いに来たモンスターさんにマオウちゃんはどう対処したんですか」
「それは、こう言ってやったんだよ。『あんたたち、リュウキシさんの話を思い出しなさい。リュウキシさんと言えば、大勢の敵に一人で突っ込んでいくシーンでしょう。お供させてくださいって言う弟分を『馬鹿野郎、お前には家族がいるじゃないか。死ぬのは俺一人で十分だ』て言ってひっぱたいて置いてきぼりにして去っていくあの後ろ姿が最高なんだから。そんな孤高の存在であるリュウキシさんにぞろくたまとわりつこうって言うのかい。この魔王に恥をかかそうって言うのかい』ってね」
「なるほどお。たしかにリュウキシちゃんと言えば背中で語るシーンですよねえ。いいシーンにセリフなんて必要ないってことがよくわかるシーンですもの」
「そして、リュウキシちゃんもリュウキシちゃんでね、いつここレトロゲームセカイに来るかって言う具体的な日時は教えてくれないの。いや、そのわたしもリュウキシちゃんとは一度会ってるんだよ。いくらリュウキシちゃんと言っても、入居者として適当であるかどうかを確認するのも管理人であるわたしの大切な仕事だからね」
「その時にリュウキシちゃんのスケジュール教えてもらわなかったんですか、マオウちゃん?」
「それが、リュウキシちゃんったら『魔王さんですか。世話になります』と言って、頭を下げたっきり何も言わないのよ。なにせあの黙して語らないリュウキシちゃんだからねえ。ああやってじっと黙られると、こちらとしても何も言えないのよ。そんな感じで沈黙がずっと続いたのね。わたしも魔王城の玉座でじっとしてることはよくあるから、待つのには慣れてるつもりだったけれど、あの沈黙はきつかったなあ。実時間はどうかわからないけれど、体感時間ではそれはもう永遠に感じちゃったんだから」
「それでどうなったんですか」
「それでね、いい加減もう限界だなってわたしが感じ始めたら、リュウキシちゃんが『それでは頼みます』と、こうなんだよ、ユウシャちゃん。もう、いやも応もないわよ。まったく魔王様であるこのマオウちゃんがあの体たらく。部下のモンスターに見られなくてよかったよ」
「マオウちゃんの管理人業務も大変なんですねえ」
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