第51話マオウちゃんユウシャちゃん派になる・マオウちゃんの部屋にて
「それにしてもなんだかいろいろあったな。マオウちゃんにも一言くらい言っておかないとな。マオウちゃーん、入りますよ」
ガチャ
「おや、これはこれは勇者さんではありませんか。この魔王になにか用でも?」
「あの、マオウちゃん。なんだか妙な威圧感があるんですが。初対面時の『はらわたを喰らい尽くしてくれる』なんていうわかりやすいモンスターの親玉っぽい怖さではなくて、冷静に囚人を尋問する刑務所長みたいな不気味さを感じちゃいまして。それに、呼び方も『勇者さん』に『魔王』だなんて、あたしたちはユウシャちゃんマオウちゃんの関係じゃなかったんですか?」
「勇者さん。アイドル様となにがあったのですか。わたしのアイドル様になにかお手つきをされたというのなら、この魔王絶対に許しませんよ
「『何があった』って……アイドルさんがあたしのファンらしくって、それでモンスターマスターちゃんの話だけじゃなくてあたしの話も聞きたいってことになって、それで時間が足りないねってことになって、だからこれからもここレトロゲームセカイにきていいですかってマオウちゃん……魔王さんの許可を取ろうって話になって」
「『アイドル様が勇者さんのファン』ですって」
「らしいです。アイドルさんがそう言ってました」
「と言うことは、アイドル様がこれからもここレトロゲームセカイに来るとこのわたしにおっしゃってくださったその原因は勇者さんにあると?」
「そ、そういうことになりますかねえ」
「勇者さん。わたしは魔王で、勇者さんは人間です。わたしがレトロゲームセカイの管理人になるまでは、人間を滅ぼすべき敵と考えていました」
「そ、そうだったんですか、魔王さん」
「そして、レトロゲームセカイの管理人になってからは、入居者の間でえこひいきはしないように心がけてきました。具体的に言うと、世間的にはクエスト的な世界とファンタジー的な世界のどちらが好きかと言う派閥があるそうですが、わたしとしてはどちらの派閥にも属さないよう心がけてきたつもりです」
「そ、それはたいへんご立派な心構えですねえ」
「でもそれも今日限りです。ただいま現時点をもって、このマオウちゃんは勇者……ユウシャ様派になります」
「いやそんな、ユウシャ様派だなんて、魔王さん」
「魔王さんなんて他人行儀な呼び方はやめてください。わたしのことはマオウと呼び捨てにしていただいてけっこうです」
「そんなことをいきなり言われても」
「さあ、ユウシャ様。このマオウめになんなりとお命じください」
「じゃ、じゃあ、あたしのことは今まで通りユウシャちゃんって呼んでください。あたしもマオウちゃんって呼びますから」
「ですがそれでは……」
「命令です、マオウちゃん」
「わかりました、ユウシャちゃん」
「(ふう、これで落ち着いて話ができる。あたしは何をマオウちゃんに言いたかったんだっけ。いきなりなことがあったせいで頭から飛んじゃったよ。そうだ)アイドルさんがマオウちゃんのことをとてもほめていましたよ」
「ほ、本当ですか、ユウシャちゃん。それで、アイドル様はなんとおっしゃっていらしゃったんですか」
「たしか、『魔王さんはたいへん仕事において有能な人物ですね』なんて言ってました」
「まあ、アイドル様がわたしのことをそのように。なんと恐れ多い」
「それからこうも言ってました。『これからもわたしを使ってください。そうすればお互いが幸せになる』と」
「わ、わたしごときがアイドル様を使うだなんて、そんなこととてもじゃないけどできないんだから。そ、それにわたしが幸せになるのは間違いないとしても、アイドル様までが幸せになるだなんて……ユウシャちゃん、アイドル様は本当にそうおっしゃっていらしたの」
「だ、大体そんな感じだったと思います」
「か、感激だなあ。アイドル様と二人きりだった時は緊張のあまり何を話したかぜんぜん覚えていないけど、アイドル様がわたしをそんなふうに思っていてくれたなんて。あんなスポットライトまぶしい陽のあたる世界で輝いているアイドル様が、光すらささない地底深くの魔王城の最深部で人肉を喰らおうと待ち構えているわたしをそこまで評価してくださっているなんて」
「(マオウちゃんってふだんはこのレトロゲームセカイのひざしがぽかぽか暖かい快適な部屋にいるんじゃなかったっけ。それにしても、自分を裏方と卑下している人間が表舞台で活躍していると思っている人間に褒められるとこんなに感激するんだ。勉強になるなあ。やっぱりアイドルさんはすごいなあ。あれだけの人間を熱狂させるんだもの、それはそうよねえ)そ、それではマオウちゃん、今日はこのへんで失礼します」
「あ、待って、ユウシャちゃん。ユウシャちゃんに相談したいことが実はもう一つあって」
「またですか、何ですか、マオウちゃん?」
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