第50話ユウシャちゃんアイドルちゃんとマオウちゃんについて話す・マオウちゃんの部屋の前にて

 ガチャ


「(あ、アイドルさんが部屋から出てきた)どうでした、アイドルさん」


「普通の人って感じでしたね。なんだか拍子抜けした感じです。あのくらいなら、もっとエキセントリックな方がわたしのファンにはいらっしゃいますよ」


「そ、そうですか。それは良かったですねえ


「魔王っていうくらいですから、わたしみたいな人間を目にした途端に『人間め、貴様のはらわたを喰らい尽くしてくれる』なんて言われるかと思っていましたが、全然そんなことありませんでした。たいへん紳士淑女的な方でしたよ」


「(いくらマオウちゃんでも、アイドルさん相手に『はらわたを喰らい尽くしてやる』なんて言うのがエチケットではないと考えてくれたみたい。よかった)そ、そりゃあ、マオウちゃんはここレトロゲームセカイの管理人だからね。ただの乱暴ものじゃあありませんよ。」


「そうですね、ユウシャさん。そうですね、わたしの印象では、いっしょに仕事をすることになったわたしの大ファンさんの新人裏方さんが、『うわあ、あこがれのアイドルさんとご一緒させていただけるなんて感激だなあ。いけないいけない。これは仕事なんだぞ。仕事中に仕事相手のアイドルさんにきゃあきゃあ言うなんてとんでもない。ましてや、握手やサインをお願いするなんてとんでもない。冷静に、クールに、ビジネスライクにいかなきゃ』なんて内心思ってるパターンかなと思いました」


「(マオウちゃんがアイドルさんの大ファンなのは見ればわかったし、アイドルさんへの対応が丁寧なんだったら、内心はばくばくしていても外見では平静を装っていると言うアイドルさんのお見立て通りなんだろうな)ア、アイドルさんの仕事相手にはそんな方もいらっしゃるんですか。それにしても、そこまで人の内心を見透かすなんてさすがですねえ」


「これでも演技をなりわいとしていますからね。それくらいはわかります。それに、芸能の世界でいろんな人とお仕事してきましたからね。まあ、そういう礼儀をわきまえている方は、仕事でも有能ですからね。仕事の後の打ち上げで、『今日はどうもありがとうございました。○○さんのおかげでわたしも気持ちよく仕事ができました。○○さんがプロの仕事をしていただいたから、わたしも気持ちよくプロとしての演技ができました』なんて言って握手をすれば、お互い幸せになれるんですよ」


「(すごいなあ。アイドルさんってこんなに若いのにそんなに社交辞令で愛想振りまけるんだ。あたしがアイドルさんくらいの年頃の時は、とてもそんなことできなかったよ)あこがれのアイドルさんにそんなこと言われたら、そりゃあその○○さんは感激しちゃいますよねえ」


「少なくとも、嫌な顔はしませんね。そう言う方は礼儀も心得ていて仕事でも有能ですからね。たいてい出世するんですよ。そうしてわたしのファンさんが偉くなると、その方が企画を立てて会議でその企画を通せる立場になるんですね。その企画でわたしが重要な役所をになうというパターンですね」


「へええ、アイドルさんが大スターになったことにはそんないきさつがあったんですか。それにしても、舞台に立つだけがアイドルさんの仕事じゃないんですねえ」


「あまり人に言わないでくださいよ、ユウシャさん。これでも夢を売る商売ですから、イメージが大切なんです。お客さんはステージの上のわたしだけを見てもらえれんばいいんですよ。裏での苦労を見せて『わたしこんなに苦労したんですよ』なんてお涙ちょうだいに仕立て上げるのは、少なくともわたしは好きではありませんね」


「わ、わかりました。秘密にします」


「そもそも、さっきは裏方って言葉を使っちゃいましたけれど、わたし、裏方って言葉好きじゃないんですよね。ほら『裏』って悪い意味があるじゃないですか。裏稼業とか、裏社会とか」


「そういえばそうですね」


「わたしは、たとえスポットライトが当たらなくても、プロの仕事をする照明さんや道具係さんに音声さんと言った方々は、プロフェッショナルとして尊敬しています。逆に、ひのき舞台に立っていてもハンパな仕事しかしない方は、同じ役者と言っても距離を取りたくなりますね。共演するとなったら舞台では役を演じますけど、プライベートでも付き合いたいかと聞かれれば……それはちょっととなるんですよねえ」


「(アイドルさんもいろいろあるんだなあ)あれ、でも、初対面の時はアイドルさんはモンスターマスターちゃんのことが目に入らない様子であたしに話しかけてきませんでした。役作りのためのインタビューってことならそれも仕事になるんじゃないんですか。おかげであんなことになりましたけれど」


「!!!」


「い、いや、あたしはぜんぜん構わないんですよ。おかげでアイドルさんとモンスターマスターちゃんの演技も楽しめましたし。その、アイドルさん、そんなにあたふたしなくても」


「た、大変失礼しました、ユウシャさん。このたびはたいへんな粗相をしてしまいました。このおわびはいずれ必ずさせていただきます。それではご無礼させていただきます」


 ひゅいーん


「あ、瞬間転移でいっちゃった。アイドルさんったら、あんなに恐縮しちゃって。あたしはちっとも気にしていないのに」

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