第48話アイドルちゃんユウシャちゃんとモンスターマスターちゃんについて話すの続き・マオウちゃんの部屋への道すがら

「それはですね、モンスターマスターさんが自分の話をああもあっさり途中で中断したってことなんですよ。しかも、その理由がわたしのスケジュールを案じてのことなんですから。自分が話したい話を差し置いて聞き手の都合を優先するなんて、そうそうできることではありません。実を言いますとね、あの時点ではまだ時間がないわけじゃあなかったんですよ。正直言って、まだまだモンスターマスターさんの話を聞いていたいと言う思いはありましたし、そのあと瞬間転移で直帰すればギリギリだなってところだったんです」


「そうだったんですか」


「ですけど、そのおかげでこうしてユウシャさんとモンスターマスターさんの話ができるんですから、その点ではありがたいですけどね。それでですね、あたしがいる役者の世界ではですね、ただ話すだけと言うだけならいくらでも話せる人間は、それこそ掃いて捨てるほどいるんですね。で、その話が客に代金を出させるだけのものかと言うと、その数はぐっと減りますが、まあそれなりにはいます」


「(冷静に考えたら、マオウちゃんやモンスターマスターちゃんがあれだけきゃあきゃあ言ってたアイドルちゃんがあたしだけのためにこんなに話してくれてる。これってすごいことなのでは……)」


「さらに、プロなら時間制限があります。わたしも、ペーペーだったころに前座をよくやったんですが、『最後に歌うトリがもう来ちゃったからさっさと終わらして』とかはざらにありました」


「(今をときめくアイドルさんにもそんな時代が)」


「それができる人間は限られてくるんですね。わたしも師匠によく言われました。『芸を足し算できる人間は多いが、芸を引き算できる人間は少ない。お前もやりたいことはたくさんあるだろうが、それをきっちり制限時間でおさめてこそ一人前』だって。それがモンスターマスターさんはできてるんですね。わたしみたいな若僧が言うのもなんなんですが、あれは誰に習ったとかそう言うものじゃなくて、天性のものだと思います」


「(たしかにモンスターマスターちゃんはなんとなくすごいと思っていたけど、こうしてはっきり言葉にされると、さらにすごい気がしてくる)」


「きっと、モンスターさんがモンスターマスターさんを慕うのもその辺りが原因なんでしょうね。それでですね、わたし、もっとモンスターマスターさんの話もっと聞きたいんです。あんなにすてきなモンスターマスターさんを演じるには、話をたったあれだけ聞いただけでは不十分なんです。それに、ユウシャさんの話ももっと聞きたいです。と言うよりも、わたし、ユウシャさんの話ちっとも聞かせてもらってません。わたしが話しているばっかりで」


「そ、それもそうだね、アイドルさん。じゃあ、いつでも来てくれていいんじゃあないかな。わたしは引退して時間はたっぷりあるから」


「じゃ、じゃあ、瞬間転移の登録先にユウシャさんの部屋を登録させてもらってもよろしいでしょうか」


「あたしは別にかまわないけれど……あ、でも」


「でもなんですか、ユウシャさん。このアイドル、ユウシャさんの都合にどうとでも合わせますから」


「それはね……アイドルさんって人気絶頂じゃない。そんなアイドルさんがひょいひょいこのレトロゲームセカイに来ちゃったら。パニックになっちゃうかなあって」


「それもそうですね。ではどうしましょうか」


「(否定しないんだ。さすがはトップスター)だったら、このレトロゲームセカイを取り仕切ってる最高責任者のマオウちゃんがいるから、そのマオウちゃんに話を通しておけばいいんじゃないかな」


「マオウちゃんって、魔王のことですか。この世の全ての悪をつかさどる恐怖を支配すると言うあの」


「え、アイドルさんここレトロゲームセカイの管理人がマオウちゃんだって知らなかったの?」


「わたしは、ただ現役を退いたユウシャさんみたいな人がのんびりと暮らしているところだとしか聞いていませんでした」


「そうだったんだ。で、でもね、マオウちゃんは悪い人……たしかに悪い人じゃなくて、かと言って、良い魔王というのもなんだか違くて……とにかく、アイドルさんが思っているような人ではないですから。とりあえず会ってみるだけでも会ってくれないかな。アイドルさんがここに来たってことであいさつもしておいたほうがいいと思いますし」


「それはユウシャさんのいう通りですが」


「じゃあ決まりね。あたしもドアの後ろで見守っているから」


「本当ですか、ユウシャさん。何かあったら助けてくださいね」


「そ、それは無理かなあ。マオウちゃんが本気になったらあたしなんてワンターンキルだし」


「ユウシャさん!」


「だいじょうぶ、だいじょうぶだから。マオウちゃんもアイドルさんに会いたがっているはずだから」


「本当なんですね。信じていいんですね、ユウシャさん」




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