第47話アイドルちゃんユウシャちゃんとモンスターマスターちゃんについて話す・マオウちゃんの部屋に向かいながら

「いやあ、ユウシャさん。なんというか、モンスターマスターさんはすごかったです。こうして実際にお目にかかれたことでそのすごさがよくわかりました。それにしても悪いことしてしまいました。そもそもわたしはモンスターマスターさんに会いにきたのに、ユウシャさんの方にばっかりきゃあきゃあ言っちゃって」


「それならモンスターマスターちゃんはもう気にしていないんじゃあないかな。モンスターマスターちゃんもそこまで怒ってないみたいだったし。あたし言ったでしょう。あたしもアイドルさんも怒ってないことを確認した上で、モンスターマスターちゃんがちょっとすねちゃっただけだって」


「だといいんですが」


「それよりも、アイドルさんとモンスターマスターちゃんが演技してるところすごかったですよ。アイドルさんがナーススライム役を演じているところなんか、アイドルさんがナーススライムにしか見えなくなっちゃいましたもん」


「それはどうもありがとうございます……と言いたいところですが、今回の即興劇に関してはあたしよりもモンスターマスターさんのおかげであるところが大きいですね。少なくとも、わたしはそう思います」


「そ、そうなんですか」


「ユウシャさん。本人とかけ離れた役どころを演じるのは、実はそれほど難しくないんですよ。もちろん、ある程度の演技の下地がある上での話ですけどね」


「へええ。あたしみたいな素人からすると、本人のイメージとかけ離れている方が演技しにくそうに思えちゃいますけどねえ」


「それがそうでもないんですよ。かけ離れている方が、かえって自分を全く出さずに振り切って演技できますからね。逆に、下手に本人と似かよった役をやろうとすると、これがやりにくいんですねえ。どうしても、自分が出てきちゃいますから。わたしもよく舞台監督に怒られるんですよ。『君は今、役を演じているのかい? それとも素の自分なのかい?』なんて」


「プロってのは厳しいんですねえ」


「そして、本人役となるとこれは難しいどころじゃないんですね。ちょい役でのちょろっとした出演というのならともかく、本人が本人を舞台で客の前で演じるというのは、これはもうちょっとやそっとでできることではないんですね。ユウシャさん。これはここだけの話にして欲しいんですが……」


「わかりました。秘密にします。それでなんですか」


「舞台でのわたしはね、実は台本を演じているんです」


「そ、そうなんですか。でも、客席での酔っ払いさんをうまくあしらったり、泣き出した子供を上手にあやしたりしたってアイドルさん言ってませんでしたか」


「それはですね、『こう言った場合にはこう対処しろ』って叩き込まれているんですね。『酔っ払いにはこう対応しろ』、『子供が泣いたらこう対応しろ』と。台本と言うよりは、マニュアルといった方がいいかもしれませんね」


「で、でも、それでも舞台であれだけの人を熱狂させているんだからアイドルさんはすごいと思います。あ、でも、だったらいきなりモンスターマスターちゃんがと即興劇やらせたりしてしまってすみませんでした」


「それはいいんですよ。わたしにも原因ありますし。それにうまくいったじゃないですか。正直なところ、演技に関してはしろうとなモンスターマスターさんと即興劇ですから、もっとぐだぐだになるかと心配してたんです。でも、そうはなりませんでした」


「それがモンスターマスターちゃんの手柄だって言うんですか、アイドルさん?」


「そうなんです。モンスターマスターさんはナーススライムさんやリビングアーマーさんが仲間になったときのことをこと細かに覚えていらした。わたしの役者仲間にの何人かいますがね。『いついつの舞台ではこうこうだった』って完璧に再現できる人間が。もちろんそんな人間はそうはいません。ユウシャさん、『いついつの戦闘はこうこうだった』と再現できますか?」


「それは……無理かな」


「それが普通の人間なんです。でも、モンスターマスターさんはそうではなかった。即興劇では、わたしがナーススライム役を演じましたから事実との食い違いはあったでしょうが、それでも劇を成立させましたし……その後の解説では詳細な再現をしていただきました。あんなすごい人、役者界にもそうそういませんよ。もし、モンスターマスターさんが昔から演技を修行していたらと思うと……確実にわたしは比較されますから安心といえば安心なんですが、逆に役者モンスターマスターが見れなくて残念と言う思いもありますね」


「役者モンスターマスターかあ。たしかに興味あるかも」


「でもですね、ユウシャさん。わたしがモンスターマスターさんをすごいと思ったのはそこじゃあないんですよ。いや、もちろん演技に関してもすごいんですがね、それ以上にすごいと思ったことがありまして」


「そ、それは何ですか、アイドルさん」


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