第45話アイドルちゃんモンスターマスターちゃんと演技をする・モンスターマスターちゃんの部屋にて

「あ、大変だ、あんなところにスライムナイトが倒れてる。手当てしなきゃ……えいっ、回復魔法だ……平気ですか、回復しましたか……わ、気がつきましたか。あれ、気がつくなりどこかに走っていっちゃった。『ご主人様、平気ですか』なんて言ってるよ。主人想いの忠誠心あふれるスライムナイトだなあ。あれだけ部下にしたわれるモンスターって、どんなモンスターなんだろう……って、人間じゃないか」


「ううん、いけないいけない。わたしったら戦闘ではまるで役に立たないんだから、後ろでこそこそしていればいいのに、ついつい仲間のモンスターの応援に熱が入っちゃって、戦闘に近づきすぎて巻き添えをくっちゃったわ……あら、スライムナイトさん。どうしたの、そんなに血相を変えて……ああ、わたしだったらだいじょうぶよ。それよりも、スライムナイトさんは平気? あたしが気を失っている間に敵のモンスターさんにやられたりしなかった? え、だれかが魔法で回復してたから平気だって? 回復魔法が使える仲間のモンスターさんなんてスライムナイトさん以外にいたっけ?」


「お、お前は誰だ。なんで人間とモンスターがいっしょにいるんだ。スライムナイトのご主人様が人間ってどういうことだ」


「あら、ナーススライムさんじゃない。図鑑では見たことあったけれど、こうして実際に目にするのは初めてね。あなたがスライムナイトさんを回復させてくださったの? どうもありがとうね」


「うるさい、人間に従うモンスターなんてモンスターじゃない。そんな魔王様を裏切るようなスライムナイトと知っていたら、回復なんてするんじゃなかった」


「まあ、ナーススライムさんは人間がお嫌いなのね。そうねえ、じゃあとりあえず自己紹介から始めましょうか。やっぱり、お互いのことをよく知らないと話が始まらないものね。わたしはモンスターマスターよ。モンスターさんたちといっしょに旅をしているの」


「それがなんだ。どうせ人間にとってモンスターは敵なんだろう。どうせお前もモンスターである俺を殺す気なんだろう。いいよ、殺せよ。俺は回復呪文専門で攻撃力はからきしだからな。お前が俺を殺すのは簡単だろうさ。さあやれよ。くそっ、たまたま倒れているスライムナイトにホトケゴコロだして回復させたのがまちがってたんだ」


「おかしなことを言うのね。わたしの仲間のモンスターであるスライムナイトさんを回復してくれたナーススライムさんを殺したりはしないわ」


「うそだ。人間がそんなことを言うはずがない。人間なんてモンスターを敵としか思っていないんだ。おい、そこのスライムナイト、気をつけたほうがいいぞ。そこの人間が魔王様を倒したらお前はどうなると思う? 用済みになって殺されるに決まってるんだぞ。お前は魔王様を倒すために利用されているだけなんだからな」


「あたしがスライムナイトさんを殺すなんてできるはずがないわ。あたしは一人ではなんにもできないんだから。あたしったらね、戦闘ではまるで役に立たないのよ。そんなあたしを、モンスターさんががんばって手伝ってくれるの。それで、ナーススライムさんはこれからどうするのかしら」


「『どうする』って……モンスターと人間なんだから戦うしかないだろう。さあ、殺せよ。俺は回復魔法しか取り柄がなくて、攻撃や防御はからきしなんだから、簡単に殺せるだろうさ」


「あら、回復魔法ができるだけでもすごいじゃない、ナーススライムさん。わたしなんて、回復魔法も使えないのよ。それに、『モンスターと人間が戦う』しかないと言うのなら、わたしとスライムナイトさんはどうしてこうしていっしょにいるのかしらね」


「『回復魔法ができるからすごい』って、そんなことほかのモンスターは言ってくれなかったぞ。俺はいっつもいっつも『お前みたいな軟弱野郎は引っ込んでな』なんて言われてたんだからな」


「それは、きっとそのモンスターさんがナーススライムさんを心配してくださっていたからじゃあないかしら。そのモンスターさんはこう言いたかったんじゃあないかしら。『お前は俺が守る。お前は回復に専念していな』って」


「そ、そうなのか?」


「わたしにはわからないわ。ナーススライムさんが自分でそのモンスターさんにお聞きななったらよろしいんじゃない?」


「俺が聞きに言ってお前はいいのか。『仲間にならないモンスターさんなんて悪いモンスターさんね。死んでおしまいなさい』なんて言うんじゃあないのか」


「そんなことわたしは言いはしないわ。ナーススライムさんの好きにしたらいいのよ」


「そ、そんなこと言って俺が後ろを向いたらそのすきに攻撃する気なんだろう」


「疑ぐり深いのね、ナーススライムさんったら。それなら、わたしたちが先においとまさせてもらうわ。スライムナイトさん、いきましょう」


「ま、待てよ」


「何かしら、ナーススライムさん」


「も、もうお前と会うことはないのか?」


「縁があればまた会うこともあるでしょうね。とりあえずは、その『お前みたいな軟弱野郎は引っ込んでな』なんておっしゃってたモンスターさんと話してきたらよろしいんじゃない」

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