第40話ユウシャちゃんマオウちゃんにアイドルちゃんの案内を頼まれる・マオウちゃんの部屋にて

「ユウシャちゃん、そのね、アイドルちゃんがモンスターマスターちゃんの若い頃の役をすることになったの」


「アイドルちゃん? 誰ですか?」


「し、知らないの、ユウシャちゃん。今や人気ナンバーワンのトップスターじゃない。アイドルちゃんが表紙を飾る本の売れ行きは天井知らずで、アイドルちゃんが舞台で主役をするなんてことになったら、そのチケットの争奪戦たるや、勇者対魔王の争いが子供のママゴト遊びに見えるレベルなのよ」


「スターですか。踊り子みたいなもんですかねえ」


「お、踊り子ですって。なんてことを言うのよユウシャちゃん。アイドルちゃんを酒場で酔っ払い相手に下着と変わらないような服着ていやらしい動きをするような人間といっしょにしないでちょうだい。アイドルちゃんはアイドルちゃんなのよ。他の何者でもないの」


「そ、それでそのアイドルちゃんがどうしたって言うんですか」


「そう、そのアイドルちゃんがね、『自分が演じるモンスターマスターさんとぜひお話しさせてください』と、こうなのよ。さすがね。やっぱりプロフェッショナルは違うわね。素晴らしい役者魂だわ」


「それがあたしとなんの関係があるんですか、マオウちゃん」


「おおありよ、ユウシャちゃん。アイドルちゃんがこのレトロゲームセカイにくることになったんだから」


「モンスターマスターちゃんがそのアイドルちゃんに会いに行けばいいんじゃないんですか。アイドルちゃんもおいそがしいでしょうし、なにより、ここレトロゲームセカイに関係のない人間をほいほい招き入れちゃうのはまずいんじゃないんですか。ここの存在って極秘じゃなかったんじゃないですか」


「だ、だめよ、そんなのだめだめ。モンスターマスターちゃんが会いに行くんじゃだめなのよ。だってそれじゃあ……だってそれじゃあ」


「マオウちゃんはアイドルちゃんに会いたいんですか?」


「そ、そんなはずないじゃない。なにを言うのかねユウシャさんや。この全てのモンスターを支配する魔王であるわたしが、たかが人間の小娘一人に会いたいだなんて……そんなことあるわけが……仮にそうだとしても、わたしはここレトロゲームセカイも管理人なのよ。そんなわたしがレトロゲームセカイの管理に私情を挟むようなことをするはずが……」


「アイドルちゃんからレトロゲームセカイに来たいって言ってきたんですか」


「そ、そうなのよ、ユウシャちゃん。きっと、年長者であるモンスターマスターちゃんに敬意を払ってるのね。トップスターなのに、その腰の低さ。すばらしいわ。最近の若いものは、やれ老害だの、懐古趣味だのわたしたち年寄りをバカにしてると思ってたけど、アイドルちゃんはそんなこと全然ないのね。だったら、その意思を尊重してアイドルちゃんに来てもらわないとね。モンスターマスターちゃんが出向いていってもアイドルちゃんの善意を踏みにじることになっちゃうもんね」


「じゃあ、アイドルちゃんがここレトロゲームセカイに来るのはいいんですが、なんであたしが今ここでマオウちゃんにその話を聞かされてるんですか。モンスターマスターちゃんとアイドルちゃんが話をするんでしょう。そこにあたしがどう関係するんですか」


「モンスターマスターちゃんとアイドルちゃんを二人きりにさせないためよ。そんなうらやましいこと許せない……じゃなかった。アイドルちゃんにスキャンダルは命取りだもの。アイドルちゃんをモンスターマスターちゃんと二人きりにさせるわけには断じていけないわ」


「考えすぎですよ、マオウちゃん。モンスターマスターちゃんとアイドルちゃんがちょっと二人で話しただけで何かが起こるなんてことは……」


「女の子が二人きりで密室にいたら、何も起こらないはずないじゃない。ましてや、トップスターのアイドルちゃんと、モンスターがしたってやまない聖母モンスターマスターちゃんなのよ。こんな二人を密室に閉じ込めるなんて、そんなはしたないこと、レトロゲームセカイの管理人として許せません」


「それで、あたしに見張り役をしろと言うんですね、マオウちゃんは」


「そうなのよ。こんな重大な任務、他の人にはとても頼めないもの。ね、ユウシャちゃん、お願い」


「マオウちゃんが自分で見張ればいいんじゃないんですか」


「そんな、わたしがアイドルちゃんを目の前にしたらとてもじゃないけど平静でいられないわ。見張りなんて無理無理……じゃなくて、ほら、わたしには管理人としていろいろ仕事があるじゃない。というわけで、見張りに時間をさけないの」


「そういうことでしたら。マオウちゃんにはここレトロゲームセカイに住まわせてもらってる恩もありますし」


「ユウシャちゃんならそういってくれると思ってたわ。それじゃあ、モンスターマスターちゃんと打ち合わせしてちょうだい。なにせアイドルちゃんがレトロゲームセカイに来るんですから、失礼なことがあってはいけないからね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る