第39話マホウツカイちゃんクロマドウシちゃんと話す・マホウツカイちゃんの部屋にて
「と言うことがあってね、マホウツカイちゃん。ナイトちゃんとモンクちゃんがわたしのところに謝りに来たんだよ。『かってにマホウツカイちゃんのことが本になっちゃってごめんなさい』って。わたしとしてはそんな細かいことどうでもいいし、なにより同じパーティーのメンバーがやったことだしね」
「そないなことがあったんか、クロマドウシちゃん。そういや、うちもクロマドウシちゃんの本読んだことがあったわ。あれはケッサクな話だったなあ」
「へえ、どんな話だい、教えてよ、マホウツカイちゃん」
「それは、クロマドウシちゃんが即死呪文を編みだそうとして、呪いやら何やら研究しだして、五寸釘とか、わら人形とかいじくりまわしてた話や。さんざん研究しといて、結局即死呪文がモノにならんかったちゅうオチはなかなか笑えたで。結局のところくさった死体をああだこうだしてたら、死体から発生したガスが引火しての爆発オチやもんな。古典的やが王道をゆくよくできた笑い話やで、ほんま」
「ああ、あれか。いや、お恥ずかしい。自分の失敗話が大勢に広まると言うのは、なかなかからだがむずがゆくなっちゃうね」
「まあまあ、クロマドウシちゃん。若い頃の失敗は誰にでもあるもんや。せやけど、ナイトちゃんパーティーの攻撃魔法担当のクロマドウシちゃんともあろうお人が、呪いなんて迷信に入れ込むとはな。おかしな話やな」
「ん? わたしは呪いが迷信だなんて言ってないよ。たしかに失敗したけど、それはわたしの技術が未熟だったせいで、呪いが嘘っぱちなんてことじゃないから」
「またまたあ、いくらうちが面白い話が大好物だからって、そんな冗談言わへんでもいいで、クロマドウシちゃん」
「別に冗談を言っているつもりはないよ、マホウツカイちゃん。わたしは本当のことを言っているんだから」
「な、何を言うとるんや。呪いなんてもん、この世にあるわけあらへんがな。やめてえな、うち、そういう怪談話は苦手なんや」
「おかしなことを言うねえ、マホウツカイちゃん。じゃあ、今までスケルトンやゴースト、ゾンビと言ったモンスターとは戦ったことないのかな」
「あ、あれはマオウちゃんがダークエネルギー的な何かでモンスターとして暴れさせとるもんやん。人間の敵であるマオウちゃんがモンスターをどうこうするのはなんの不思議もないことやから、うちの全体魔法でドッカーンや」
「じゃあ、マホウツカイちゃんの苦手な呪いってどんな話なの」
「それは、王位継承権のもつれで大臣に暗殺された王子様が夜な夜な幽霊となって城を徘徊しとるとか、兄が欲しくて欲しくてたまらない思春期のこじらせた女の子が、そこには誰もいない空間に向かって『オニイチャン』なんて言い続けとるとか、そう言うのが苦手なんや。人間同士のいざこざでの怨念ってのがうちはまるでダメなんや」
「一番怖いのはモンスターじゃなくて人間かあ。なかなか深いことを言うねえ。さすがはマホウツカイちゃんだ。マッドドクターちゃんが聞いたら手を叩いて喜びそうだよ」
「せやから、呪いで即死呪文なんて実現でけへんてことでええな、クロマドウシちゃん。じゃあ、この場はこれでお開きっちゅうことで」
「聞き捨てならないなあ。『呪いで即死呪文ができない』なんて。そんなことを言われちゃあマホウツカイちゃんをこのまま帰すわけにはいかないよ」
「そ、それはなんでなんや。クロマドウシちゃんは即死魔法の実験に失敗して、爆発オチでおじゃんになったんやろ?」
「そんなこともあったけどね、このクロマドウシちゃんを一回や二回の失敗でくじけるよな女の子と思ってもらっちゃ困るんだよ」
「くじけへんかったんか?」
「それはもう。失敗で心が折れるどころか、ますます研究にいそしむようになったよ。呪いの蝋人形にも手を出したし、不幸の手紙なんてのもあったね」
「そ、それで、即死魔法は実現できたんか、クロマドウシちゃん」
「試してみるかい?」
「『試す』って……」
「今この場でわたしがマホウツカイちゃんに即死呪文を使って、マホウツカイちゃんがめでたくおなくなりになったら、それは即死魔法が実現できたって何よりの証拠となるじゃないか」
「で、でも、即死魔法と言ってもピンキリやない。呪いで殺すやつもあるやろうけれど、マオウちゃんのダークエネルギー的な何かで地獄行きというのもあるんやないの?」
「それなんだよ。わたしの即死魔法が成功したあかつきには、ぜひマホウツカイちゃんにその感想を教えてもらいたいんだ。死ぬときどんな気持ちだったかを。絶頂して天国って思うくらい気持ちいいのか、呪いで苦しみ抜いて死んでも死に切れないような最期だったのかをぜひ実体験として説明して欲しいんだ」
「そ、それは……」
「心配いらないよ。仮に死んだとしても、ここレトロゲームセカイではいくらでも生き返るからね。なんなら何度でも体験してみるといい」
「勘弁してや、クロマドウシちゃん」
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