第38話シロマドウシちゃんソウリョちゃんと話す・ソウリョちゃんの部屋にて

「ということで、ナイトちゃんがモンクちゃんと謝りに来たんだよ。それにしても、わたしのことがモンクちゃんの弁舌により本になってたとはねえ、ソウリョちゃん」


「その本なら僕も読みました。同じ回復魔法の使い手のシロマドウシちゃんの活躍、おおいに参考になりました」


「そうかい。でも、わたしはソウリョちゃんの活躍ちっとも知らないなあ。ソウリョちゃんはわたしのことを大変よくご存知だと言うのに。これは不公平なんじゃないかな」


「そんな……それは僕がまだまだ未熟で、僕のことを書いた本がないからで……」


「じゃあ、ソウリョちゃんが自分で説明してくれると嬉しいな。いま、この場所で、わたしに、そのソウリョちゃんの可愛らしいお口で」


「シロマドウシちゃんが聞いてくれるの? だったらいくらでも話すけど……」


「いいよ。冒険を引退したいま、時間は有り余ってるからね。むしろ退屈してたくらいだから、たっぷり話してよ」


「では失礼して……あれは初めて蘇生呪文をマスターしたときのことでした。それまで教会のシンカンちゃんに寄付をしなければ死者の蘇生ができなかったのに、僕の魔法で蘇生ができるようになったのです。感動的でした。いままで神への信仰をつらぬいてきた結果に違いありません。全て神のおぼしめしなんです」


「その『神さま』ってのがわたしにはピンとこないんだよねえ。別にわたしは神様のお力を借りて味方を回復しているわけじゃないからねえ」


「神のチカラを借りずして回復魔法をしてるんですか、シロマドウシちゃん。そんなことが可能なんですか」


「可能も何も、現にそうして冒険していたからねえ。あたしの回復魔法……というより白魔法全般が、神さまのお力どうこうのおかげってシステムじゃないからねえ」


「で、ではどのようにして治癒や蘇生をおこなっているというんですか、シロマドウシちゃん」


「それは、治癒なら体の回復力を促進させて回復させてるし、蘇生なら、フェニックスのしっぽを使えば死者蘇生が可能になるから、そのフェニックスのしっぽを研究した結果、蘇生魔法が可能になったってところかな。というわけで、わたしとしてはソウリョちゃんの言うところの神さまのチカラがどう回復につながるのか科学的に大変興味があるんだけどねえ。どう、ちょっと調べさせてくれないかな」


「シ、シロマドウシちゃん! カ、神さまを調べるなんて、なんて恐れ多いことを言うんですか。神さまは絶対なのです。疑うなんてとんでもないことです」


「おや、ソウリョちゃん。これは意外だなあ。初めて話をした時から、この女の子とは学術的な議論を楽しめると思っていたのに。ソウリョちゃんは学問に興味がない女の子だったのかな」


「い、言うに事欠いて、僕が学問に興味がないだって。今まで神学一筋に生きてきたこの僕に対して侮辱もはなはだしいよ。シロマドウシちゃん、その言葉を取り消していただきたい」


「ほう。ソウリョちゃんは学問には興味があるんだね」


「当然だ。回復魔法の体系や効能については研究に研究を重ねてきた。それに関してはシロマドウシちゃんと何度も話してきたではないか」


「そうだね。ソウリョちゃんの回復魔法についての見識の深さには正直舌を巻いたよ。だけど、その回復魔法がなぜ効果をはっきりさせるのかは興味がないみたいだね」


「そんなのあたりまえじゃないか。神さまのご加護で傷ついた体が回復する。それ以上何を追求する必要があると言うんだ」


「少なくとも、わたしは回復魔法がなぜダメージを回復させるかは気になるね。蘇生魔法と同じ効果がフェニックスのしっぽで起きるというのなら、フェニックスにも神さまのチカラがあるということになるだろう。ソウリョちゃん、ちなみにフェニックスは神さまなのかな」


「そんなことあるわけがありません。そこらの道具屋で売ってるようなアイテムが神さまのお身体の一部だなんて。神さまはそんな安っぽいものじゃありません」


「じゃあ、そこらの道具屋で売ってるような安っぽいアイテムで、ソウリョちゃんが苦労に苦労を重ねて習得した蘇生魔法と同じ効果が発揮させられちゃうのはなんでだろねえ。あれれ? 実は蘇生魔法ってそんなにたいしたことのないしろものなのかな」


「ひどいです、シロマドウシちゃん。僕が蘇生魔法を覚えた時は、それはもうパーティー全員が喜んでくれたんですよ」


「だいたい、教会にお布施をしないと生き返らないって言うのもねえ。お金を払えない貧乏人なんて神さまは相手しないよってことなのかい。ずいぶん神さまってのは厳しいと言うか、ケチと言うか……それにひきかえ、マオウちゃんのお優しいこと。なにせ、死んだソウリョちゃんをただで生き返らせてくれたんだから。どう、ソウリョちゃん。このさい魔王教に宗旨替えしたら?」


「シロマドウシちゃん、なんてことを言うんですか。僧侶である僕に信仰を捨てろと言うんですか。そんなことをしたら、火あぶりにされてしまうかもしれないんですよ」


「『異教徒には死を』か。おおこわいこわい。神さまってのは魔王よりたちが悪そうだね」


「……!」

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