第37話モンクちゃんナイトちゃんに感謝される・モンクちゃんの部屋にて
「それにしても、わたしをナイトとしてこんなに格好良く本にしてくれた人って、どこの誰なんだろうね、モンクちゃん。そりゃあ、わたしは本にされようとしてナイトやってたわけじゃないけどさ。実際にこうして本にされると、ありがたいというか、美化されすぎてて恥ずかしいというか……」
「その、ナイトちゃん。なんかごめん。ナイトちゃんのことが本になったそもそもの原因はわたくしなんだ」
「うそだあ、だって、モンクちゃん本なんて作ってなかったじゃない」
「わたくしが製本をしたわけじゃないんだけどね。わたくしがナイトちゃんのことを、『ナイトちゃんってこんなに格好いいんだよ』って他の人に話したら、その話がどんどん広まっちゃって。本にまでなっちゃったみたいなんだ」
「ということは、モンクちゃんがいなかったら、この本は存在しなかったてことなの」
「そ、そうなるかな、ナイトちゃん」
「だ、だって、この本にはモンクちゃんの名前がクレジットされてないじゃん。モンクちゃんのおかげでこの本が世に出たって言うのなら、作者とか、編集者とかでモンクちゃんの名前が表示されるものじゃないの」
「それは、その本がうわさのそのまたうわさばなしを勝手にまとめたものだから……その本ができるってことにわたくしはノータッチだったんだ。それで、ナイトちゃんの知らないところでナイトちゃんのことが本にされちゃって、わたくし、どうナイトちゃんに謝ったらいいかって思ってて」
「なんで! モンクちゃんがわたしに謝る必要なんて全然ないじゃない。それどころか、わたしがモンクちゃんにお礼を言いたいくらいだよ。『わたしのことをこんなに格好良く本にしてくれてありがとう』って」
「そ、そうだったんだ。でも、その本ちっとも正確じゃないんだよ。ナイトちゃんがどれだけ苦労して武器の両手持ちをマスターしたかばっさりカットされちゃってるんだよ」
「そんなのエンターテイメントなんだから当たり前じゃん、モンクちゃん。読者が読みたいものを提供するのが娯楽の基本じゃん。わたしだって、両手持ちをどう実現させようか四苦八苦してるところなんて読みたくないもん。『修行シーンなんていらないよ。ナイトちゃんが天才的なひらめきで敵を格好良く倒すところが読みたいんだよ』なんていうのが読者の声だって言うのなら、それに答えるのが製作者の義務じゃん」
「だ、だけど、ナイトちゃんの活躍でお金をもうけている人がいるんだよ。だったら、ナイトちゃんも報酬が欲しくなったりしないの?」
「わたしは別に報酬なんて……ここレトロゲームセカイでなに不自由なくモンクちゃんたちと楽しく過ごせてるし、それだけで満足だよ。あ! ひょっとして、モンクちゃんが不満だったりするの? そうだよねえ。あたしのことをあれだけ面白く表現できたのはモンクちゃんのおかげなんだから、そのモンクちゃんが何一つご褒美をもらえないなんてひどい話だもんね。でも、どうしたらいいのかな。モンクちゃんが報酬を手にする方法かあ。ちょっとわたしには思いつきそうにないなあ」
「そんな、わたしもご褒美が欲しいなんてちっとも思ってないから。ナイトちゃんが頭を悩ます必要なんて全然ないんだよ。そもそもこの本はナイトちゃんの本なんだから……そんな、わたくしが対価を得るだなんて……」
「へえ、モンクちゃんは欲がないねえ。お寺で修行ばっかりしてるとそんなふうに達観できるようになるのかなあ。すごいなあ。武人ってそう言うものだよねえ。それに比べてわたしはエンターテイメントとか娯楽とか、まだまだ鍛錬が足りないなあ」
「いやいや、わたくしなんて未熟者もいいところで……あ!」
「どうしたの、モンクちゃん」
「その、実はナイトちゃん以外にもわたくしは他の人のことを話してて、それが本にもなってて」
「ええ! モンクちゃんの本が他にもあるの。読みたい。あたし、その本読みたい」
「で、でもナイトちゃん以外の人は自分のことを勝手に本にされて怒ってるかもしれないし……」
「なら、いっしょにその人に謝りに行こう。ほら、わたしもいっしょにモンクちゃんと謝りに行くから。何ぐずぐずしてるの、さあ早く」
「でも、わたくしの不始末でナイトちゃんが頭を下げるなんて……」
「何言ってるの、わたしたちパーティーメンバーなんだから、いっしょなのはあたりまえでしょう。モンクちゃんって、わたしがモンクちゃんが謝ってるところで知らんぷりしてるような人だと思ってたの。それならわたしはモンクちゃんに怒るよ。『見損なわないでよ』って」
「じゃ、じゃあ、ナイトちゃん、いっしょに謝ってくれる?」
「当然! でもその前に……ねえモンクちゃん、じゃなかった、モンク先生、この本にサインしてくれないませんか」
「え! サイン! わたくしが」
「だめかな。この本にモンク先生はなんの関わりもないんだもんね。そんな本にサインなんてできないよね」
「ううん、するする、サインしちゃう」
「よかった、あ、『ナイトちゃんに』っていれてね」
「わかった、これでいいかな」
さらさら
「へへ、わたしがモンク先生のファン一号ってことでいいのかな」
「そ、そうなるかな、ナイトちゃん」
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