第36話モンクちゃんナイトちゃんに修行について語る・モンクちゃんの部屋にて

「モンクちゃん、ねえ、見てよ、この本。わたしのことがこんなに格好良く書かれてるんだよ。外の世界ではこんな本が人気あるみたいなんだ。モンクちゃん、知ってた?」


「あ、ナイトちゃん。う、うん、知ってたよ」


「なんだ、モンクちゃん知ってたんだ。ひどいなあ、なんで教えてくれなかったの」


「『ひ、ひどい』って、ナイトちゃん。そんなに怒ってるの? そんなにその本の内容が気に食わなかったの?」


「え、別に全然怒ってないよ。本の内容もすごくいいじゃない。『ひどい』ってのはわたしが本で紹介されてることをモンクちゃんが知っていたのなら、なんでもっと早く教えてくれなかったってことだよ。いやあ。わたしがこんなに素敵に本で描かれるなんて、なんだか照れちゃうなあ。だって、本当のわたしよりずっと格好良く表現されてるんだもん。困っちゃったなあ。この本見てナイトのわたしのファンができちゃって、実際のわたしを知られてがっかりされちゃったらどうしよう」


「その……ナイトちゃん。自分のことが勝手に本にされて嫌だったりしないの?」


「嫌になる? なんで? わたしのことが世間に広まるんだよ。それって最高じゃない、モンクちゃん」


「だ、だけど、その本だとナイトちゃんが両手持ちの特訓で苦労したことがぜんぜん書かれてないじゃない。そのことについてナイトちゃんは何か思うところがあったりしないの」


「なんだ、モンクちゃんもこの本読み込んでたんだ。だったら話は早いや。いやあ、この本のナイトちゃんは格好がいいねえ。主人公の覚醒。ふとした瞬間の奥義への開眼。わたしが子供の頃に読んでいた剣豪時代小説にそっくりだよ。敵にこっぴどくやられて自分の弱さを痛感する主人公。そこでふと空を飛ぶ鳥に気がつく主人公。その鳥の飛び方にヒントを得て必殺技を習得する主人公。そんな話がわたしは好きだったんだけれど、この本のナイトちゃんはまさにそんな主人公だね。本当のわたしとは大違いだよ」


「で、でもナイトちゃんは一生懸命特訓してたじゃない。剣豪時代小説の主人公だって、鳥を見た後に鳥を斬ろうと修行してたんじゃないの。ナイトちゃんの本にはそんな描写一切ないんだよ。ナイトちゃんはそれでもいいの」


「ああ、あたし特訓で鳥を斬り殺すシーンは好きじゃないんだ。だって鳥さんがかわいそうじゃない。そうだね、特訓なら、滝の流れ落ちる水を切り裂くとかやってほしいね。それなら鳥さんもかわいそうじゃない。でも、わたしの好みとしては、負けのショックに耐えきれずに死を覚悟して一度負けた相手と再戦する主人公。そしてあわや殺されると言うところで、負けたショックで呆然としていた時にふと目にしてた鳥のイメージが急に頭によぎって、そのイメージによる技で相手に勝つパターンがいいかな。この本のナイトちゃんはそんなわたしの好みとぴったり一致してるよ」


「そ、そうなんだ。ナイトちゃんって、自分の特訓してるところ見られなくても平気なの?」


「平気というか……そもそも特訓なんて人に見せるものじゃないじゃない、モンクちゃん。わたしたちの任務って、悪いモンスターを倒すことでしょ。モンスターを倒したら、そのモンスターに困らせられていた人間が喜ぶ。そういうことじゃない。そりゃあモンスターが倒せなかったら特訓することもあるけどさ、そういうのは秘密の特訓で誰かに見てほしくなんかないよ。ナイトが人にどう見られるかなんて、『ナイト様がモンスターを倒した! すごい!』でいいじゃない」


「へ、へえ、ナイトちゃんってそんな風に思ってたんだ」


「そもそもわたしは自分のことを本にされたくてナイトやってたわけじゃないからね。わたしはモンスターに困っている人間を助けるために、ナイトとしてモンスターと戦ってたんだから。まあ、そのモンスターの元締めと思ってたマッドドクターちゃんがあんな人だったんで、その戦いがなんだったんだろうって思っちゃってるんだけどね。」


「そう言えばそうだったね。マッドドクターちゃんって、なんだか『自分をワルなんだって周りに思わせようとしてる子供って感じなんだよね。ほら、子供って、不良になりたがる時期があるじゃない。なんかこう、背伸びしたお子様が、飲めもしないきっついお酒を無理やり飲んでワルぶっているというか……」


「そうなんだよね、モンクちゃん。普通の子供なら、そのワルぶりかたがせいぜい子供のお酒ですむんだけど……マッドドクターちゃんはちょっとおませさんな子供が世界を滅ぼす能力を持っちゃったって感じなんだよね。それで世界が滅んじゃうようなら、どうにかしなきゃって思うけれど。さいわいマオウちゃんがしっかりしつけてくれてるみたいだからね。安心してわたしもナイトを引退できたよ。シロマドウシちゃんにクロマドウシちゃんも納得してくれたしね。もちろんモンクちゃんも。わたしのわがままにつきあってくれてありがとうね、モンクちゃん」


「べ、べつにナイトちゃんにあらためておれいを言われることなんかないよ」

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