第35話ユウシャちゃんモンスターマスターちゃんがどう怒るかを説明される・ユウシャちゃんの部屋にて
「それにしても、ひどい話よねえ、ユウシャちゃん。ナイトちゃんの修行シーンを本ではカットしちゃうなんて。モンクちゃんが怒るのももっともだし、そんなことをするから今どきの子供が『こつこつレベル上げなんてやーだ』なんて言っちゃうのよ。なんだかわたし腹が立ってきちゃったわ」
「え! モンスターマスターちゃんが腹を立てる……それは怒っているということなの?」
「あら、ユウシャちゃん。どうしたの、そんなに驚いた顔をしちゃって。わたし、なにかユウシャちゃんをびっくりさせるようなこと言ったかしら」
「だって、モンスターマスターちゃんが怒るなんて……意外だったから」
「そうだったの。でもね、ユウシャちゃん、わたしだって怒ることってあるのよ」
「そ、それってどんな時なの。ね、念のために教えてくれないかな。あたしがモンスターマスターちゃんを怒らせないためにも」
「やだ、ユウシャちゃん腹を立てるなんてことないわよ。ユウシャちゃんったらとってもいい子なんだもの。でも、知りたいっていうのなら教えてあげちゃおうかな」
「ぜ、ぜひお願いします」
「ここレトロゲームセカイに来る前にね、わたしある村でモンスター退治を依頼されたことがあるのよ。依頼内容は退治だったけれど、そのモンスターさんにお願いすればなんとかなると思って引き受けちゃったのよね。その依頼相手もモンスターさんにおびえちゃったりして大変だったみたいだから」
「そ、それでどうなったんですか」
「わたしは、そのモンスターさんに『人間をびっくりさせるようなことしちゃダメよ』なんて説得しておとなしくしてもらえればいいなって考えてたんだけどね。そのモンスターさんがね、わたしが子供の頃に生き別れた猫ちゃんだったのね。ちょっと成長してライオンみたいになっちゃってたけど、わたしにはすぐにわかったわ。それで、その猫ちゃんがわたしの仲間になったのね」
「それは……いい話じゃないんですか」
「それでね、ユウシャちゃん。わたしね、その猫ちゃんといっしょに村に謝りに行こうと思ったのね。だって、猫ちゃんが村人をおびえさせていたことは確かなんだから。そう決めて村に行ったらね、村人ったらわたしを極悪人扱いするのよ。『最初からおらたちをだましていたんだな。仲間のモンスターに村を襲わせて、じぶんで解決して依頼金をせしめるつもりだったんだな』って。ひどいと思わない。こっちの事情なんて聞こうともしてくれないのよ」
「村人にしてみれば、村に入り込んでたモンスターが退治を依頼した相手とやってきたら騙されてと思うのも無理ないんじゃあないかな」
「でも、猫ちゃんはちっとも悪くないのよ。猫ちゃんは小さい頃にわたしと仲良くしてたから、大人になっても人間と仲良くしたいと思って村にいくようになったのよ。別に村人を傷つけるつもりはなかったのよ。それなのに、村人ったら、いきなりくわや斧で襲いかかってくるんですもの。わたしが猫ちゃんに聞いたから間違いないわ」
「でも、ライオンみたいな猫ちゃんがいきなり村にやってきたら村人がびっくりするのも無理ないんじゃないかな」
「わたしもそう思おうとしたんだけどね、ユウシャちゃん。でも、わたしの仲間のモンスターさんはおさまりがつかないみたいだったのよ。『あんな村、ブレスで焼き尽くしてやる』なんて言う子供ドラゴンちゃんや、『あるじさまを侮辱されるとは……村人を切り刻んでやるでござる』なんて言うスライムナイトちゃんがもう怒っちゃって怒っちゃってしょうがなかったのよ」
「モ、モンスターマスターちゃんはそこでどうしたの?」
「そのね、わたしも怒ってたからね、村からちょっと離れた猫ちゃんがねぐらにしてた場所にね、呪いの武器防具一式をお供えしてきちゃったの。あの村にそれはひどいたたりが起きますようにってね。わたしがそうしたら、仲間のモンスターちゃんはすっかり気がおさまったみたいだったわ。逆にわたしが『ご主人、そのくらいにしておいたほうが……』なんてたしなめられちゃうくらいで……」
「そ、そのあとその村にはどんな天罰がくだされたんでしょうか」
「あら、天罰なんて起きやしないわよ、ユウシャちゃん。ちょっと呪いの儀式をしたくらいで、村に天罰が起きるなんてことあるわけないじゃない。女の子のおまじないを本気にするなんて、ユウシャちゃんって案外子供っぽいところがあるのね」
「そ、それはなによりですね……」
「でもね、悪いことは起きなかったけど良いことは起こったのよ。そのあとね、その猫ちゃんと子供の頃にいっしょにちょっとした冒険をした幼なじみの女の子と再会できたのよ。きっと、呪いの武器防具に一生懸命お祈りしたからマオウちゃんが気を利かせてくれたりしたのかもね。呪いの武器防具でも、信じるものにはご利益があるのね。だって、こわーいこわーい魔王様と思ってたマオウちゃんも話してみたら結構いい人だったんだから」
「魔王信仰にモンスターマスターちゃんは救われたってことですか」
「やだ、ユウシャちゃん。救われたなんて大げさなんだから」
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