第33話ユウシャちゃんモンクちゃんと著作権について話す・ユウシャちゃんの部屋にて

「そんなにモンクちゃんの話をまとめた本が売れたんだ。それで、モンクちゃん。いやらしい話なんだけれどモンクちゃんはどれくらいもうけちゃったの?」


「もうけたって、それお金の話ですか、ユウシャちゃん。別にわたくしは一ゴールドも手にいれてはいませんわ。だってそうでしょう、本を作ったのはわたくしとは縁もゆかりもない人なんだから、その本がいくら人気になろうと、わたくしのふところが豊かになるわけではありませんもの」


「そういえばそうだね、モンクちゃん。なんで本が売れたらモンクちゃんにお金が入るなんて発想になっちゃったんだろう。お店でお客さんが本の代金を払ったら、その一部がモンクちゃんのところに飛んでくるわけでもないのにね」


「そうよ、ユウシャちゃんったらおかしな人。でも、それならまだ良かったのかもね。『わたくしがみんなに聞いた話を他の人に喋ったらそれが本になりました。それが売れてわたくしにお金が入りました。そのお金でちょっとしたお祝いをやるから皆さんきてくださいね』ってことになったら、みんなも笑って許してくれたかもしれないけれど……別にわたくしには一ゴールドも還元されてないんですもの。いったいどうやってみなさんにおわびしたらいいのかしら」


「そういえば、あたしも冒険していたころに、よくナイトちゃんについて書かれた本読んだっけ。あれはモンクちゃんの話をまとめたものだったのかな。なんだかごめんね、モンクちゃん。モンクちゃんの話したことであたしは楽しんだっていうのに、あたしがナイトちゃんになにか対価を渡したってわけじゃあないんだから」


「そんな! ユウシャちゃんが謝らないでください。わたくしだって、ただ他の方々から聞いたお話をまた別の人に話しただけなんですもの。別にとりたてわたくしが何かしたわけじゃあありませんわ。それよりも、わたくしが大好きなナイトちゃんのお話をユウシャちゃんが楽しんでいたってだけで、もう大満足ですわ。ユウシャちゃん、なにかお気に入りなナイトちゃんのお話はあるのかしら」


「それはもう。あたし、ナイトちゃんのお話大好きですもん。初めて読んだお話は、ナイトちゃんが剣の両手持ちを編み出すお話でした。その時はお金がなくて立ち読みだったんですけれど、もうその両手持ちが頭から離れなくて離れなくて、どうにもたまらずにご飯を食べずにお金を貯めてそのお話の本買っちゃったんですね。おかげでおなかはペコペコだったけど、その本は何度も読み返してボロボロになっちゃいました」


「両手持ちの話ですか! あれはいい話ですよねえ。物理攻撃といえば、右手に武器を、左手に盾を持って戦うのが常識だったのに、武器を両手持ちすることで攻撃力を倍増させるなんて……すごい発想ですよ。しかも、盾を持たなくなったことで防御力が下がっちゃうかと思ったら、鎧を上半身だけ守る軽鎧から全身守るフルプレートに変えることで盾を装備しない分を補っちゃうんですもの。それにしても、両手持ちの話を気にいるだなんて。さすがユウシャちゃんです。同じ剣使いならではですね」


「実はね、あたしも剣の両手持ちやってみようとまねしてみたことあったんだよ。でもダメだったんだ。やっぱり盾がないと敵の攻撃に耐えられないし、かといって全身鎧のフルプレートなんてとてもじゃないけど装備して戦えそうになかったよ。お店で見せてもらっただけで、これはとてもじゃないけどあたしには装備できないなって思ったもん」


「そうですよねえ。いくらユウシャちゃんと言えども、そんな簡単に武器の両手持ちができるようになっちゃったら困っちゃいますよ。両手持ちを可能にするために、ナイトちゃんがどれだけ修練を積んだことか」


「あれ? ナイトちゃんってそんなたいへんな修行してたんですか。あたしが読んだ本では、ナイトちゃんが『剣を両手で持ったら攻撃力倍になっちゅあんじゃない。わたしったら天才ね』ってひらめいたら、あっさり両手持ちを実現させたってことになってましたけど」


「なんですか、それ。わたくし、そんな話をした覚えはないですよ。ナイトちゃんの血のにじむような特訓を、それはもう詳細きわまりなく説明したんですから」


「で、でも、モンクちゃん。あたしが読んだ本では特訓のことなんてぜんぜん書かれてなかったんだよ。ほんとだよ。それを読んだ子供達なんて、『僕もちょこっと頭を悩ますだけであっさりすごい潜在能力に目覚めたらいいのになあ』なんてその本のナイトちゃんを絶賛してたんだから」


「それほんとなんですか、ユウシャちゃん。そんな……本ではナイトちゃんの特訓をばっさりカットしちゃってるんですか。あまつさえ、それを読んだ子供が何の努力もなしに強くなれたらいいなあなんて思っちゃうんですか。これは一大事ですよ。そんな子供達が大人になったらどんな世の中になっちゃうことか」


「た、たいへんですね、モンクちゃん」


「待ってください、ユウシャちゃん。と言うことは、ユウシャちゃんもナイトちゃんの特訓内容を知らないってことですね。それじゃあ両手持ちができないのも無理ないですよ。いいでしょう、不肖、このモンクちゃんがナイトちゃんの修行を説明します。いいですか……」


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