第32話ユウシャちゃんモンクちゃんに相談される・ユウシャちゃんの部屋にて
「あの、勇者さん、ちょっとよろしいですか」
「は、はい、えっと、あなたは……」
「これは自己紹介が遅れました。わたくしはモンクです」
「モンク? 文句?」
「ああ、勇者さんには馴染みがないみたいですね。モンクというのは、寺院で肉体や精神鍛錬の修行をしているものです。勇者さんにしてみれば武闘家さんと同じようなものと考えていただいて差し支えないですよ。わたくしはモンクのモンクちゃんというわけですね。だれでもちゃん付けにして、自分も『マオウちゃん』と呼ばせるここの最高権力者さんにしてみれば」
「その……モンクちゃんと呼んでいいんですか
「はい、みなそのように呼びますから」
「じゃ、じゃああたしもユウシャちゃんと呼んでください」
「それではユウシャちゃん、相談があるのですが……」
「はい、なんでしょう、モンクちゃん。でも、なんであたしが相談相手なんですか。あたしここに来たばかりなのに」
「ここに来たばかりのユウシャちゃんだからこそ、相談に乗って欲しいのです」
「は、はあ、そういうことでしたら」
「それではですね、ここレトロゲームセカイは存在は極秘とされていますが、別に外部との連絡が禁止されているわけではないのです。わたくしも、何度か旧知のものに来ていただいて、お話をすることがよくあるのです」
「そうなんですか。ここって、けっこう規則とかは緩めな感じなんですね。マオウちゃんも言ってましたもん。『伝統的な冒険を支えてきた人間を大事にしたい』って。だから規則でがんじがらめにされるわけじゃないみたいですね」
「そうなんです、ユウシャちゃん。まったくありがたい話です。それなのに、わたくしったら、とんでもないことをしでかしてしまったんです。実に修行が足りません。わたくしはなんという未熟者なんでしょう」
「お、落ち着いてください、モンクちゃん。できれば事情をもっと詳しく」
「そ、そうでしたね。すみません。すっかり動揺してしまって。では……ここレトロゲームセカイの住人である人間はすばらしい経歴の持ち主なんです。そのかたがたのお話ときたら、それはもう面白くて面白くて……それで、旧知のものとの話でついつい話題にしてしまうのです。『こんなことをした人がいるんだよ、あんなことをした人がいるんだよ』といった具合に」
「は、はあ」
「そしたら、その旧知のものも外の世界でそのことを話してしまうのですね。今から考えればうかつでした。しっかり口止めしておくべきだったのに」
「そうだったんですか、モンクちゃん」
「それで、うわさがうわさを呼んでわたくしの話がおおいに広まっちゃったんですね。なんだか、わたくしの話がまとめられた本もたくさん出ているらしいんです」
「えええ、それってまずいんじゃあないんですか、モンクちゃん。ここレトロゲームセカイのことが表沙汰になっちゃったら大変なことになっちゃいますよ」
「ああ、それは大丈夫なんです、ユウシャちゃん。レトロゲームセカイのことはうわさにはなっていませんから。わたくしが話したのは、『こんな面白い人がこんな面白いことをしていていたんだよ』ってことだけですから。でも、ここレトロゲームセカイに住んでいる方って、みなさんその筋では有名な方々ばっかりでしょう。それで、本では『あの人は今!』みたいな調子でおもしろおかしく書き立てられているんです」
「そうかあ。ナイトちゃんもモンスターマスターちゃんも有名人だったもんね。そんな有名人が今どうしているか気になる人はそりゃあいっぱいいるでしょうねえ。そんなことが本になったとなれば、これは人気が出るのも当然ですねえ」
「そうなんです、ユウシャちゃん。わたくし、ナイトちゃんとパーティーを組んでいたんです。他にもシロマドウシちゃんとクロマドウシちゃんもいたんですけれど……とくにナイトちゃんのことをいっぱい話しちゃってたんですね。だって、ナイトちゃんったらほんとうに格好良かったんですもの」
「それはわかるなあ。あたしもここレトロゲームセカイで初めてナイトちゃんとお会いしましたけれど、それはもう素敵でしたもん」
「わかってくれますか、ユウシャちゃん。ナイトちゃんったら、それはそれは頼りがいあるリーダーだったんですから。そんなナイトちゃんについて、つい熱く語り過ぎちゃったものですから、ナイトちゃんについての本がそれはもういっぱい世にあふれちゃって。わたくし、もうどうしたらいいか……」
「お、落ち着いてください、モンクちゃん。でも、そんなことがあったんだったらナイトちゃんには相談できませんよねえ」
「その通りなんです、ユウシャちゃん。とてもじゃないですけれど、『ナイトちゃんのことをわたくしがぺちゃくちゃ喋ったら、その内容が本になって世の中に出回っちゃいました』なんて言えませんよ」
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