第30話ブトウカちゃんセンシちゃんとマオウちゃんの性癖について語る・ブトウカちゃんの部屋にて
「しかしだねえ、センシちゃん。マオウちゃんって、わざわざ自分で自分を殺す勇者を育成してるところがあるじゃない。とんだドMちゃんだと思いきや、わたしがアイテムをあらかた回収しちゃったせいで、余計な苦労をしょいこんでいるユウシャちゃんを見てケラケラ笑っているんだから、なかなかのエスっけもあるみたいなんだよねえ。いやいや、魔王様となると、我々のようなただの人間には計り知れないような高尚な趣味を持ち合わせていらっしゃるんだねえ」
「ブトウカちゃんはどう考えてもドSだよね。あれだけわたしと感動的な別れを演出しておいて、そのあとこっそりわたしたちのあとをつけまわしていたんだから」
「つけまわすだなんて人聞きが悪いことを言うなあ、センシちゃん。先回りをして邪魔をしていたといってほしいよ」
「似たようなものじゃないか、センシちゃん。だいたい、センシちゃんはわたしにそんな口を聞ける立場なのかな。わたしは、センシちゃんの『宿屋でユウシャちゃんと二人きりの相部屋計画』以外にもいろいろセンシちゃんの秘密を握っているんだよ」
「いろいろと言いますと、ブトウカちゃん」
「例えば、『ドキドキユウシャちゃんをかばった結果、重傷をおったセンシちゃんがユウシャちゃんに看病される計画』なんてのがあったね。センシちゃんがユウシャちゃんをかばって大怪我をするまではうまくいったけど、すぐにソウリョちゃんの回復呪文で全快しちゃったね」
「よくご存知で……」
「ほかには、『海では水着になるのが常識? ふだんはむさい鎧で重装備のセンシちゃんがセクシー水着でユウシャちゃんにアピール? ポロリもあるかも?』なんてプランニングもしてたみたいだね。ずいぶんと水着売り場を熱心に見て回っていたじゃあないか。最初は『ユウシャちゃんにはどんな水着が似合うのかなあ』なんて考えているのかとも思ったけれど、水着のサイズからすると、選んでいたのはセンシちゃん用みたいだったしね。ほら、センシちゃんってユウシャちゃんに比べてグラマーじゃない」
「そ、そのあたりにしてもらえませんかね、ブトウカちゃん」
「結局、不思議な精霊のご加護か何かで、海でも通常装備でいけるってことが判明して水着はいらないってことになったみたいだけどね。いやあ、あの時の、自分の水着選びがパーになった徒労感と、ユウシャちゃんの水着が見れないがっかり感が絶妙にブレンドされたセンシちゃんの顔といったらなかったねえ」
「で、でも、ブトウカちゃん。ブトウカちゃんがこっそりユウシャちゃんを邪魔してたってこともばれるとまずいんじゃないかな。もし、わたしがユウシャちゃんにブトウカちゃんってこんなことをしてたんだよってばらしたらどうなるのかな」
「試してみるかい、センシちゃん」
「『試してみるかい』って、いいの、ブトウカちゃん。わたしが秘密をバラしても」
「いいか悪いかでいえば、悪いけどね、センシちゃん。仮に、わたしがユウシャちゃんの周りをうろちょろしていたことが明らかになったとしてもだね、そんなことでユウシャちゃんが怒るような人間だと思うかい? ユウシャちゃんはね、人のために怒ることはあっても、自分のことでは起こらないタイプの人間とわたしはにらんでるんだよ。だから、わたしが『だって、ユウシャちゃんと離ればなれになるの本当はいやだったんだもん。でも、パーティーメンバーは四人が上限なんだもん。だから、遠くもなく近くもないところにいるしかなかったんだもん』なんて言えば丸くおさまるんじゃないかな」
「わ、わたしもそう思います、ブトウカちゃん」
「そうかい、センシちゃん。同意してくれてうれしいよ。それで、仮にセンシちゃんの秘めた恋心をユウシャちゃんが知ったとしても、ユウシャちゃんが怒ることはないだろうね。『なによ、センシちゃん、いやらしい、このケダモノ』なんてことは言いはしないんじゃないかな。でも、それとセンシちゃんとユウシャちゃんが結ばれるかどうかは別問題だからね。ユウシャちゃんのセンシちゃんに対する気持ちはライクでは間違いなくあるだろうけど、ラブかどうかはわからないからなあ」
「つ、つまりどういうことなんでしょうか」
「早い話が、センシちゃんの恋心をユウシャちゃんが知ると、ユウシャちゃんは激しく悩むことになる。『えっ、センシちゃんあたしのことをそう思ってたの。でも、そんな、女の子同士なのに……』といった具合にね。センシちゃんはユウシャちゃんを困らせたいのかな」
「そ、そんなことないよ、ブトウカちゃん」
「ということは、センシちゃんとわたしはお互いの秘密を握り合っていることになるよね。でも、それがバレた時のダメージは全然違うよね。センシちゃんの方が大ダメージのはずさ。それでもセンシちゃんはわたしの秘密をバラすと言うのかい」
「ふ、二人だけの秘密は二人だけの秘密のままでいきましょう」
「よしきた」
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