第29話ブトウカちゃんセンシちゃんと昔を思い出す・ブトウカちゃんの部屋にて

「そういえばそうだったね、センシちゃん。『ユウシャちゃんといっしょ』かあ。センシちゃんったら、ほかにソウリョちゃんやマホウツカイちゃんもいるのに、ユウシャちゃんしか目に入ってなかったみたいだったもんね」


「まるで見てきたようなことをうじゃない、ブトウカちゃん」


「宿屋で二人部屋が二つずつってことになったら、なんとしてもユウシャちゃんと相部屋になろうと画策してたじゃない。あれ、ソウリョちゃんもマホウツカイちゃんもセンシちゃんの下心に気づいてたんじゃないかな。ソウリョちゃんは、『センシちゃんがそこまでしてユウシャちゃんと二人部屋になりたいのならべつにいいんじゃない』って内心思ってただろうし、マホウツカイちゃんは、『あいかわらずセンシちゃんは下手な計画練っとるな。ほんまおもろいわ。とりあえず、今夜はこれくらいで勘弁したろか』ってことで、センシちゃんのしどろもどろな言い訳をひとしきり楽しんだら、ソウリョちゃんと相部屋になってたと思うよ」


「ねえ、ブトウカちゃん。ひょっとして……」


「それで、首尾よくユウシャちゃんと二人きりの相部屋になっても、なんだかんだ言って一線はこえなかったじゃない。ちらっとユウシャちゃんの着替えをのぞき見るとか、うっかりユウシャちゃんのベッドに潜り込むとか、いくらでもできそうなものなのに。どうしてなの、センシちゃん。ひょっとしてわたしに遠慮してたの? 『こうしてユウシャちゃんと二人きりの相部屋でいる間にも、ブトウカちゃんは一人寂しい思いをしているんだ。ブトウカちゃん、絶対に裏切ったりしないからね』みたいな感じで」


「ブトウカちゃん。わたしがユウシャちゃんと二人きりの相部屋でいた時、ブトウカちゃんはどうしてたの?」


「わたしかい? すぐそこでこっそりセンシちゃんがわたしへの遠慮とユウシャちゃんへの欲望とで揺れ動いている様子を面白おかしく観察させてもらっていたよ。いやあ、もんもんとしてちっとも眠れないセンシちゃんったら愉快でなかったなあ。翌朝、しっかり目にクマを作ってたもんね。そんなセンシちゃんを見て、ソウリョちゃんとマホウツカイちゃんはこれからは四人部屋に泊まるようそれとなく仕向けてたんだよ。知ってたかい」


「それは知らなかったよ、ブトウカちゃん……って、わたしたちを見てたの! いつから、ねえいつからなの?」


「ユウシャちゃんたちがわたしたちの故郷の村を旅立つところからかな」


「それって最初っからってことじゃない。それじゃあ、ほとんど五人パーティーみたいなものじゃない、ブトウカちゃん」


「もちろん、四六時中つかずはなれずってわけじゃないよ、センシちゃん。やむを得ない事情で、ユウシャちゃんパーティーから離れていたこともある。具体的に言うと、これから先、ユウシャちゃんたちが潜りそうなダンジョンを前もって探索しておいて、めぼしいアイテムを回収しておいたりしてたかな」


「ど、どうりで……ダンジョンに潜るたんびに、『なんかダンジョンのアイテムって、ほかのひとに見つけられてることがほとんどだね、センシちゃん』『しょうがないよ、たいていのダンジョンはもう探検しつくされてるさ、ユウシャちゃん』なんて話してたんだよ。わたしたちは」


「そうかい、センシちゃん。それは知らなかったなあ。ユウシャちゃんたちがダンジョンに潜ってる頃は、わたしは休んでいたからね。ひとり旅の疲れを癒すためと、このあとセンシちゃんがどうユウシャちゃんへの恋心を忍ばせていくのかを観察する英気を養うために」


「な、なにがひとり旅のつかれだよ、ブトウカちゃん。おいしいアイテムをブトウカちゃんが全部かっさらっていたんじゃあないか。それならひとり旅ができたのも納得だよ」


「だって、そうでもしなきゃあユウシャちゃんたちが充実したアイテムですぐに冒険を進めちゃうじゃないか。なんてったってユウシャちゃんは四人パーティーなんだから。じゃないと、ひとり旅のわたしとユウシャちゃんたちが同じスピードで冒険を進行させるなんてあり得ないよ」


「マ、マオウちゃんは? マオウちゃんはそのこと知ってるの。ブトウカちゃんがそんなずるいことしてるなんて知っちゃったら、『そんなずるい人間はレトロゲームセカイへの居住を許可しません』ってことになっちゃたりするんじゃない」


「ご心配どうも、センシちゃん。でも心配ご無用さ。マオウちゃんもマオウちゃんで、ユウシャちゃんたちがしなくてもいい苦労をしているのを楽しんでたみたいだからね。マオウちゃんはわたしみたいにそばでこっそりのぞき見というわけじゃなくて、魔王様特製の千里眼で魔王城かレトロゲームセカイかは知らないけれど、はるか遠くから観察してたみたいだけれどね。マオウちゃんもなかなかの趣味人だよ。きっと、いろいろ暇を持て余しているんだろうねえ」

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