第25話ユウシャちゃんマッドドクターちゃんに愚痴をこぼされる・マッドドクターちゃんの部屋にて
「しかもだよ、そんなチャラチャラした連中がどんな手段でわたしを殺しにくると思うかい、ユウシャちゃん。悪を倒す正義の味方の攻撃といったら、『たたかう』か『まほう』しかないよね。そうに決まってるよね」
「え、ええ、そうですね、マッドドクターちゃん。あたしもそう思います」
「ところがだよ、ユウシャちゃん。最近の若いもんは、戦闘に『とくぎ』だとか、『スフィア』だとかわけのわからないものを持ち出してくるんだよ。女の子なら、体ひとつでの物理攻撃か、頭だけでの魔法攻撃で勝負しろって言うんだよ。まったくもう」
「おっしゃる通りですね、マッドドクターちゃん」
「おっと、ついつい話が長くなっちゃったね、ユウシャちゃん。このことはナイトちゃんには秘密にしておいてね。ナイトちゃんには、ことあるたびに、『やーい、お前はエクスカリバー振ることしかできないのか。まるで扇風機だな』なんてからかったりしてるんだから」
「先ほどのマッドドクターちゃんの話からすると、エクスカリバーを振るだけのナイトちゃんのことはむしろ好ましく思ってるような気がするんですけれど……」
「いや、それは……仮にもナイトちゃんとわたしは宿敵同士なんだし……そんなナイトちゃんにはわたしを憎たらしく思っていて欲しいと言いますか。それが善玉と悪玉のお約束と言いますか……」
「ああ、初対面の時のマオウちゃんがあたしに『はらわたを食らいつくしてくれる』って言ったようなものですか。マオウちゃんにしてみれば、それは一種の歓迎のあいさつで、ふがいなくも全滅したあたしたちパーティーをごていねいに送り返してくれたみたいですが」
「そう、それそれ、ユウシャちゃんわかってるじゃないの。正義の味方と悪の親玉の複雑な関係」
「ここレトロゲームセカイに来てからマオウちゃんに教え込まれましたから」
「それで、ユウシャちゃん。ここレトロゲームセカイでの過ごし方なんだけれどね。わたしは『マッドドクターちゃん』、つまりお医者さんだからね。住人の健康管理が主な仕事なんだ。理事長といっても、実質的な権限はマオウちゃんがみんな握っていてね。わたしはかかりつけのお医者さんみたいなものなんだ」
「マッドドクターちゃんが健康管理ですか。なんだか心配です」
「心配ってなにがだい。命の心配ならいらないよ。死者を生き返らせる担当のスタッフは別にいるからね。命に別状はないけれど、なんとかしてもらいたい体の不調とかあるじゃない。女の子の日とか。そういうときにわたしの出番となるわけさ、ユウシャちゃん」
「いえ、あたしが心配しているのはそういうことじゃあなくてですね、マッドドクターちゃん。マッドドクターちゃんのマッドな部分を心配していてですね。多分マッドドクターちゃんが人類を滅ぼそうと思った経緯もそのマッドな部分に原因があるんじゃないかとあたしはにらんでいるんですけれどね」
「わたしが人類を滅ぼそうと思った経緯かい? それは、人間がこの世界を滅ぼす原因だと悟ったからだよ。ああ、心配ないよ。今はそんなに滅ぼす気はなくなっちゃったよ。なにせ、マオウちゃんにしっかり釘をさされているからね。『マッドドクターちゃん。人間を滅ぼしちゃだめよ。人間を滅ぼしちゃったら、魔王であるわたしを殺しにくる相手がいなくなっちゃいますからね』なんて。いまはわたしを殺しにくるナイトちゃんとの戦いを楽しんでいるくらいかな」
「マッドドクターちゃんとマオウちゃんの仲がよくて何よりです。じゃあ、人体実験と称して、怪しげな薬を投与したり、非人道的なこともしないんですね」
「少なくとも、ここレトロゲームセカイではそんなことはしないよ。これでも、闇落ちする前は腕のいい名医で通ってたんだからね。レトロゲームセカイでもけっこう評判いいんだよ。最近ではモンスターの治療にも興味が出てきちゃってね。モンスターマスターちゃんにいろいろ話を聞いてもらってるんだ」
「くれぐれも、人間とモンスターとの合成なんか始めないでくださいね、マッドドクターちゃん」
「お、それはいいアイデアだねえ、ユウシャちゃん。そのアイデアもらっちゃってもいいかな」
「マッドドクターちゃん!」
「冗談だよ、ユウシャちゃん。そんなことしたら、マオウちゃんどころか、モンスターマスターちゃんまで怒らしちゃう。モンスターマスターちゃんを怒らせて、わたしが殺されるだけならむしろ大歓迎なんだけれど……多分それじゃあすまないだろうからね」
「モンスターマスターちゃんが怒ったらですか……たしかに想像がつきませんね」
「ここレトロゲームセカイで怒らしちゃいけない存在のツートップだからね。マオウちゃんとモンスターマスターちゃんは。その二人を同時に怒らすとなると……考えただけでゾッとしちゃうよ」
「あたしとしましては、マッドドクターちゃんが妙なことをしないでくれるだけでありがたんですがね」
「それはもう、ユウシャちゃん。うけあいますよ」
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