第24話ユウシャちゃんマッドドクターちゃんに自己紹介される・マッドドクターちゃんの部屋にて
「ちなみに、マッドドクターちゃんはなんでここレトロゲームセカイの理事長をなさっているんですか」
「それは、わたしがマオウちゃんの尻に敷かれているからだよ。ほら、マオウちゃんってば、全世界に『余が魔王である』なんて宣言して自分の存在を表ざたにしちゃってるからさ……こう、裏で手を回している黒幕ってのに憧れているらしくってさ、それでわたしに『レトロゲームセカイではマッドドクターちゃんがトップになりなさい。でも、裏で手を回すのはあたしよ。わかってるわね』なんて言うんだよ。かかあ天下のわたしたち二人の仲でそんなことマオウちゃんに言われちゃあね、わたしは従うしかないじゃない」
「いえ、そうじゃなくてですね、マッドドクターちゃん。マオウちゃんは、今のこの世界に不満があるようで……『昔は良かったなあ。そうだ、昔のままでいるセカイを作っちゃお』みたいなことを言っていましたが……マッドドクターちゃんにもそんな不満があったりするのかなあって」
「ほう、人間でありながら人間を滅ぼす決意をしたこのマッドドクターちゃんにそんな質問をするのかね、ユウシャちゃん。解答が長くなることを当然覚悟しているんだろうね」
「はあ、まあ、マッドドクターちゃん。魔王退治っていう当面の目的がなくなってしまいましたから、時間だけはたっぷりあるもので」
「いいでしょう。ならばユウシャちゃんに聞かせてあげましょう。このマッドドクターちゃんがどれだけ現状に不満を抱いているかを」
「よろしくお願いします、マッドドクターちゃん」
「それじゃあ、いくよ、ユウシャちゃん。ちょっと前まではね、わたしを倒そうなんていう連中はね、『人間のくせにどうして人間を殺すんだよ? このひとでなし! 死ね!』と言った理由でわたしを殺しに来てたんだよ。いや、それが悪いということじゃあないんだよ。むしろ、仮にもわたしも人間なんだからね、そのわたしを殺す人間もそのくらい独善的じゃないと困るんだ」
「はあ、マッドドクターちゃんもマオウちゃんみたいにちょっと変わった精神構造の持ち主なんですね」
「そりゃあ、マオウちゃんとわたしは結婚しているからね。思考パターンも似てくるだろうさ。いや、わたしが話したいのはそういうことじゃなくてね、ユウシャちゃん。今のご時世のわたしを殺そうとする若者ときたらね、『えっ! 黒幕は人間だったんですか! 人間がなんで他の人間を滅ぼそうと思ったんですか。きっとそこには深い事情があったんでしょう。ダークサイドに落ちるだけの理由が。そうに決まってる。なんてかわいそうなんだ』なんてことを言ってくるんだよ」
「マッドドクターちゃんは同情されるのが嫌なんですか」
「そんなの当たり前じゃないか、ユウシャちゃん。わたしはね、わたしを殺した人間にはね、戦いの後、『これで悪は滅びた。さあ、ハッピーエンドだ』なんてすっきりした思いで結末を迎えてもらいたいんだよ。せっかく憎いカタキであるわたしを倒したのにね、『本当にこれで良かったんだろうか……マッドドクターちゃんを殺さずとも良かったんじゃあないだろうか』なんてすっきりしない思いを抱いて欲しくないんだよ」
「マッドドクターちゃんは、ただ殺されるだけじゃあ嫌なんですね。自分の殺され方にはそれなりの美学が欲しいと」
「そうなんだよ、ユウシャちゃん。やっぱり、『正義! 光!』なんてのと『悪! 闇』なんてのとのわかりやすい善悪二元論であって欲しいんだよ。それなのに、いまの若者ときたら、『世の中って、正義の反対はまた別の正義だよね』なんてわかった風なことを言っちゃうんだよ。しかも、そんなことを言うのは、決まってちゃらちゃら着飾った冒険者だか水商売やってるんだかわからないような見た目をした連中なんだ」
「殺される相手の見た目も重要ですか、マッドドクターちゃん」
「もちろんさ、ユウシャちゃん。いいかい、悪い人間を倒すにはね、強力な物理攻撃か魔法攻撃と相場は決まっているんだよ。強力な物理攻撃にはマッチョな筋肉が必要だし、強力な魔法攻撃には、インテリジェンスあふれる知性が必要だろう。そう言ったものを持ち合わせている人間に殺されるなら、それはもう光栄なことだけど……」
「最近な若者はそうでないと」
「ご名答、ユウシャちゃん。ここ近頃のわたしを殺しにくる連中ときたら、物理と魔法のどっちもできなさそうな、見た目だけは良さそうな、わたしにはとても理解できかねるファッションで着飾った連中なんだよ。お前ら、どこのファッションショーに出場する気なんだと。悪を倒しにきた正義の味方なんだろう、お前らは。ならそれなりの格好をしろと。そんなふざけた見た目の連中には、とてもじゃないけどやられてやる気になんてなりませんよ」
「はあ……」
「その点ユウシャちゃんはいいねえ。実にレトロなわたし好みの時代遅れなファッションをしている。むさい色気のかけらもない、はがねのよろいもはがねのかぶと、はがねのたてときた。実に良い。女の子なんだからそういう風に見た目にはこだわってほしいね」
「おほめいただいてどうもありがとうございます、マッドドクターちゃん」
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