第23話ユウシャちゃんマッドドクターちゃんと初対面する・マッドドクターちゃんの部屋にて

「やあ。きみがユウシャちゃんだね。マオウちゃんから話は聞いてるよ。わざわざ会いにきてくれてありがとうね。わたしはマッドドクターでね、ここレトロゲームセカイの理事長をやらせてもらっている」


「は、はい、マッドドクターさん。どうかよろしくお願いします(ううう、マオウちゃんに言われてマッドドクターさんに会いにきたけれど……理事長さんってことは、ここレトロゲームセカイで一番偉い人ってことだよねえ。緊張しちゃうなあ)」


「そんなにかたくなることはないよ、ユウシャちゃん。理事長って肩書きだけ見たら、ここレトロゲームセカイの最高責任者ってことになるけれどね、実はわたしはマオウちゃんには頭が上がらないからね」


「そうなんですか、マッドドクターさん」


「マッドドクターちゃんと呼んでもらって構わないよ、ユウシャちゃん。マオウちゃんをマオウちゃんって呼んでるのなら、わたしもちゃん付けしてもらってくれて全然平気だからね」


「で、ではマッドドクターちゃん。このたびはレトロゲームセカイに住まわせていただくことになりまして、大変ありがたく存じ上げま……」


「そんなかしこまる必要はないよ、ユウシャちゃん。きみとわたしは同じ人間なんだからね」


「え? そうだったんですか、マッドドクターちゃん。でも、人間がレトロゲームセカイの理事長してるんですか? マオウちゃんの話だと、レトロゲームセカイってモンスターサイドが運営してるってことだったような……」


「モンスターサイドってのは正確じゃないね、ユウシャちゃん。正しくは、人間サイドと敵対する勢力だよ。わたしは人間だけど、人間を滅ぼそうとしているんだよ。そういう意味では、ユウシャちゃんの敵ってことになるね。ま、わたしを殺そうとしていたのは、主にナイトちゃんパーティーだけど」


「そ、そうなんですか、マッドドクターちゃん。人間が人間を滅ぼす……」


「ちょっとユウシャちゃんにはピンとかないかな。マオウちゃんの話によると、ユウシャちゃんは『人間とモンスターは相容れない存在だ。だから人間の代表の勇者とモンスターの代表が殺し合うんだ』って感覚の持ち主らしいからね」


「はあ、そう思ってました、マッドドクターちゃん。でも、ここでマオウちゃんと話をして、その感覚に自信がなくなってきました」


「それは実にいいことだよ、ユウシャちゃん。きみももう子供じゃないんだから、誰かに『魔王を倒してこい』って言われたから魔王を倒すんじゃあなくて、自分で自分の目的について考えてもいいんじゃないかな。わたしもね、自分の目的について悩みに悩んだ末に『人間である自分が人間を滅ぼすべきだ』なんて結論に達したわけだしね」


「それはその……人間であるあたしとしてはそれを聞いてどう反応したらいいか困っちゃうんですが……マッドドクターちゃん」


「ああ、心配いらないよ、ユウシャちゃん。少なくともここレトロゲームセカイではわたしは人間に危害を加えないからね。そんなことしたら、家内……じゃなかったマオウちゃんにどんなお仕置きをされるか分かったものじゃないからね」


「へえ、家内……あのマッドドクターちゃん。家内ってどういうことなんですか」


「おっと、これはいけない。つい口が滑っちゃったよ。他の人の前ではお互いに『マオウちゃん』『マッドドクターちゃん』呼びでいこうねって決めていたのに……ユウシャちゃん。これ、マオウちゃんには内緒にしておいてね。わたしがユウシャちゃんの前でマオウちゃんを家内呼びしたってこと」


「内緒にします。内緒にしますから、マッドドクターちゃん。家内ってどういうことなんですか、教えてください」


「それは、わたしとマオウちゃんが結婚しているからだよ。ああ、わたしたち二人が結婚してるってことは、別に秘密でもなんでもないから安心していいよ。ちなみに、マオウちゃんは二人きりの時はわたしのことを『主人』と呼んでいる。いやあ、照れちゃうなあ。マオウちゃんったら、『わたしは魔王城でひきこもっているから家内って呼んで』なんて言っちゃうんだもんなあ。だったら、わたしは、『じゃあ、世界を支配するこのマッドドクターは主人と呼んでね』って言うしかないじゃないか。ねえ、ユウシャちゃん」


「その……モンスターであるマオウちゃんと人間であるマッドドクターちゃんが結婚なさっているんですか」


「そうだよ、ユウシャちゃん。おかしいかい?」


「い、いえ、マッドドクターちゃん。ここレトロゲームセカイに来て、モンスターマスターちゃんともお話ししましたし、人間とモンスターが仲良くするのもいいんじゃないかなあと思うようになりまして……ゴーレムさんともお話ししましたけれど、今まであたしが倒してきたモンスターさんにも事情があるんだなあって思いました」


「それはそれは……王様みたいな偉い人に言われてモンスターを倒すだけの操り人形だったユウシャちゃんとは偉い違いだね」

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