第20話ダイマドウシちゃんショウマドウシちゃんと面会する・ダイマドウシちゃんの部屋にて

「そんな顔で会えばいいんじゃないのかな、母さん」


「ショウマドウシ……あんたはだれかのう。わしみたいなもうろく老いぼれには忘れることだけしか取り柄がなくてのう。お、新入りのバニーちゃんか。どれどれ、近くに来てごらんなさい」


「もういい加減にしてくださいよ、母さん。そんなに魔法が使えなくなったことが恥ずかしいのかい。ボケているふりをしていなければ平静でいられないくらいに。それとも恥ずかしいのは、大魔導士の娘のくせに魔法もろくに使えないあたしのことかな。不出来な娘ですいませんでした」


「何を言うんだい、ショウマドウシや。お前はわしの大事な娘だよ。お前のことを恥ずかしいだなんて思ったことは一度だってないんだよ」


「ふーん。やっぱりボケてなかったんだ。久しぶりだね、母さん」


「ほう、わしを騙したのか。そのくらいのことはできるようになったんだな、わが娘よ」


「これでも大魔道士の娘ですからね。魔法はできなくてもそれくらいの腹芸はできますとも。それにしても、ボケたふりをしてそうとうエッチなことをしていたみたいだね。あまつさえ娘にまで手を出そうとするなんて。この節操なし。大魔道士が聞いて呆れるよ」


「おまえこそ、登場のタイミングがよすぎるじゃあないか。母さんは盗み聞きなんて教えた覚えはありませんけどね」


「それはそうだよ。なにせ、教えられるのは魔法のことばかりで、しかもちっともものにならないできの悪い生徒でしたからね。魔法以外のことは自学自習ですませたんだよ」


「その……期待を押し付けちゃってごめんね。母さんががっかりした気持ちがお前に伝わっちゃってたんだね」


「その謝罪についてはこう答えましょう。『母さん、魔法が使えなくなったんだってね。ねえ、今どんな気持ち。なんせ、あたしはもともと魔法が使えませんでしたからねえ。ものすごい魔法が使えていたのに、魔法が使えなくなった大魔道士さんの気持ちなんてちっともわからないんだ。ねえ、母さん。教えてよ」


「あんたはそんなことを言う娘だったんだねえ。ちっとも知らなかったよ」


「それは……大魔道士の娘のくせに、ろくな魔法が使えないってことにあたしがコンプレックスを感じてたからじゃないのかなあ。その結果、遠慮がちに言いたいことも言えない娘になっちゃったんじゃない」


「そうかい。で、そのコンプレックスは解消されたのかい、わが娘よ」


「少なくとも、今は母さんもあたしも魔法が使えないもの同士だからね。変な劣等感は感じないでいられるよ」


「ほほう、ではその劣等感を感じなくなった娘は母親にどんな行動をするようになるんだい。やってみせてくれよ」


「そうだねえ。それじゃあ……母さん。母さんが昔してた冒険の話をしてよ。今の母さんは家に閉じこもってばかりいるけれど、昔は世界中を冒険で飛び回ってたんでしょう。その話をあたしは聞きたい」


「へえ、そんなことでいいのかい。そんなことなら言ってくれればいつでも話したのに。母どうして今までそのリクエストをしなかったんだい」


「だって、母さんの昔の冒険の話ってなると、『あんな魔法を使った。こんな魔法を使った』って話になるじゃない。そんな話を大魔道士である母さんに魔法が使えないあたしが聞かされても、みじめになるっていうか、なんというか」


「で、母さんが魔法が使えなくなった今なら、安心して思う存分話が聞けると」


「ダメかな、母さん。魔法が使えなくなった母さんに魔法が使えた時の話をさせるなんて、昔を思い出せちゃって嫌な気持ちにさせちゃうかな」


「ちっともそんなことないよ。白状しちゃうよ、ショウマドウシ。母さんはね、娘に昔の自慢話をしたくてしたくてしかたがなかったんだよ。だけど、ショウマドウシは魔法が使えないことに悩んでいるみたいだったし、そんなショウマドウシに『こんな魔法を使ったんだよ。あんな魔法を使ったんだよ』なんて話なんてとてもじゃないけどできやしないと思ってたんだ」


「じゃあ、これからは母さんがいっぱいいっぱい昔の話をしてくれるの」


「娘よ。言っておくけれど長くなるよ。なにせ大魔道士が大魔道士になる道のりはそりゃあもう長く険しいものだったんだから」


「うん、全然平気。なにせ大魔道士様のものってだけで、母さんがあたしとふざけてチャンバラ遊びをしていたただの木の棒がすんごい高値で売れちゃうんだから。あたしは食べるには困らないだけのドラ娘でいられるんだ。時間ならいくらでもあるんだよ。あ、ひょっとして、母さん。自分の使用済みグッズ周りにプレゼントしちゃったりしてる?」


「ぜーんぜん。母さんはそんな気前のいい女の子じゃありませんもの。あたしの使用済みグッズは、みんなショウマドウシ、お前のものになるんだよ」


「わーい。お母さん大好き」


「こらこら、甘えんぼさんなんだから、ショウマドウシは」


「それにしても、お母さんがちょっとチャンバラごっこでもてあそんだだけの木の棒が、伝説の武器になっちゃうんだから、大魔道士ってすごいんだね」


「伝説の武器? ああ、そうだね(モンスターマスターちゃんにあげようとした杖のことかな。あれはわたしが使いに使い込んだ特別品なんだけど。まあいいか)。そうだよ、お母さんはすごいんだから」


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