第18話ユウシャちゃん小魔導士に大魔導士の杖を譲ろうとする・ユウシャちゃんの部屋にて

「ううう、マオウちゃんったら。大魔導士さんの娘の小魔導士さんがレトロゲームセカイに来るから相手しろだなんて……なんでここに来たばっかりのあたしがこんなことを……『大魔導士の杖を小魔道士さんに押し付けちゃいなさい。それでみんなが幸せになるんだから。あの霧の特殊効果は面白いけれど、魔王であるあたしにしか有利にならなさそうだし、別に必要ないや』だなんて……」


「どうも、大魔導士の娘の小魔道士です。このたびは母が大変なご迷惑をおかけいたしまして」


「い、いえいえ、あたしは特に何も。あ! あたしは勇者やってます……やってました」


「ああ、あなたがあの。母からよく話は聞いていました。『体や能力がいろんな意味で未成熟だけれど、体や能力の成長がいろんな意味で楽しみだ。ぜひわしが体や能力をいろんな意味で育てたい』って。わ、これは失礼しました」


「べ、別に平気です。実際に大魔道士さんには魔法の面では厳しく指導されましたから。そ、それで実は小魔道士さんに渡したいものがありまして……これなんですけれど」


「これは……杖みたいなんですけれど、この杖がどうしたんですか」


「実は、大魔道士さんがこの杖は自分の形見だなんておっしゃってまして……となるとやはり娘である小魔道士さんに受け取ってもらうのがふさわしいかと」


「母の形見ですか……となると大魔導士の杖と言うことに……それじゃあ勇者さん、この杖は大魔道士である母の魔力がこめられているということになるんですか。伝説の武器ってことになるんですか」


「えっと……それはそのう……」


「あのですね、勇者さん。母は偉大な大魔道士でしたかもしれませんけれど、わたしは平凡な村人なんです。大魔導士の杖なんてとてもじゃないけれど装備できませんし、持っているだけにしても落ち着きません。盗まれやしないか、悪用されやしないかだなんて考えたら、夜も眠れません」


「そのですね、小魔道士さん。大魔道士さんの魔力なんてちっともこもってないただのなんの変哲も無い杖だとしても受け取ってもらえませんかねえ」


「勇者さん……」


「な、なんですか。一体。あたし、嘘なんてついてませんよ」


「嘘をつくのが下手ですね、勇者さん。『嘘なんてついてない』なんて言った時点でもう『嘘ついてます』と言ったも同然ですよ」


「うう、ごめんなさい」


「勇者さんがその杖をわたしに受け取ってもらおうとしてついた嘘だと言うことははっきり分かりますからまあいいですけどね。伝説の武器を進呈される。普通なら小躍りして喜ぶところですものね。母の武器を受け継ぐ娘ですか。いいシチュエーションじゃないですか」


「小魔道士さん、その……」


「わたしもですね、母みたいな大魔道士に憧れた時期があったんですよ。母はそれはもうすごかったんですから。母が少し念じるだけで、どんなことでも実際に起こったんです。わたしもそうなりたいなあって思ってました。でも、なれませんでした。母ができることをわたしはできない、その事実にも落ち込みましたが、母ががっかりした顔をするところを見るのも辛かったですね」


「はあ……」


「もう、母は『なんでできないかがわからない』と言った表情でしたね。自分が当たり前にできていたことが、他人ならいざ知らず、娘であるわたしができないなんて夢にも思ってもいなかったようですよ。思うに、母はずっと孤独だったんじゃあないですかねえ」


「孤独……ですか」


「そうです、勇者さん。あたしが子供の時に母は言っていましたよ。『ショウマドウシや。世間の人はね、母さんができることができないみたいなんだよ。それに気づいたのはもう何十年も前のことになるねえ。母さんにしてみれば、“なんでできないの”ということだし、世間の人にしてみれば“なんでできるの”ということなんだよ。母さんは他の誰とも違うみたいなんだよ。ショウマドウシはどうかな。母さんみたいになれるかな』なんてね」


「そうだったんですか」


「それで、子供のわたしも言っちゃったんですよ。『なれるもん。あたし、お母さんみたいになるもん』って。で、なれなかったんですけどね。あ、すいません。初めて会った勇者さんにこんな話しちゃって。母が勇者さんのことを楽しそうによく話していたものだから、どうも初対面のような気がしなくて」


「ああ、いえ、小魔道士さん。全然気にしないでください」


「思うに、母が人のおっぱいやお尻を触りまくるのも、さびしさの裏返しだったんじゃあないですかねえ。全く理解されないよりも、エロい大魔導士として変人と思われれていたほうが母としては良かったんじゃあないでしょうか。こんなこと、実際にお尻やおっぱいを触られた勇者さんに言うのもなんなんですけれど」


 ガチャ!


「あれ、どうしたの、モンスターマスターちゃん。いきなり入ってきて。あ、それ大魔導士の杖だよ。持って行っちゃうの。ねえ、モンスターマスターちゃんってば」

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