第15話ユウシャちゃんマオウちゃんと大魔導士の杖の効果を確認する・魔王城にて

「おーい、ユウシャちゃんや。生きてるかーい。それで、補助魔法の効果はあったかい?」


「ううう、ひどいです、マオウちゃん。でも、はい、なんとか生きてます。マオウちゃん様の通常攻撃を受けるのはこれが初めてなのでなんとも言えませんが……補助魔法の効果があったとは思えません」


「そうか、生きていたか。それはよかった。わたしのブレスと魔法の連続攻撃で死ぬような耐久力の人間が、わたしの通常攻撃でそれくらいのダメージを受けているということは、わたしの攻撃力やユウシャちゃんの防御力にも変化はないと言うことだな。となると、この変な霧は一切の魔法の効果を発揮させないためのものみたいだね。音やエフェクトはそのままみたいだけど」


「そ、それってなんの意味があるんですか、マオウちゃん」


「意味って……肉弾戦オンリーのための舞台装置ってところじゃないのかな。ブレスには効果を発揮しないところが、大魔導士さんらしいと言えばらしいかな。さすがの大魔導士さんも魔法以外にはその神通力を通用させられないみたいだね」


「そ、そんなものを大魔導士さんの杖が発動させちゃうんですか。どちらかと言えば、大魔導士さんの適性とは真逆の効果だと思うんですが」


「それもそうだけどね、ユウシャちゃん。大魔導士さんみたいに何かをきわめた人間というのは、われわれ凡人には計り知れないところがあるからなあ」


「マオウちゃんはちっとも凡人なんかじゃあないと思いますが……」


「そうかい、ユウシャちゃん。それで、どうする。この大魔導士さんがあつらえたステージでやりあうかい。人間と魔王の戦いってのは、耐久力に劣る人間が回復魔法でちまちま回復しながら魔王をちくちく削っていくってのがセオリーだと思うんだけど……となるとこのステージでは回復魔法が使えなくなるユウシャちゃんが不利ってことになるのかなあ。大魔導士さんも何を考えてこんなもの作ったんだか」


「戦闘の継続は丁重にお断りいたします、マオウちゃん」


「そうかい、ユウシャちゃんがそう言うのならそれでいいけどね。それにしても、これだけの特殊効果を発動させちゃうんだから、その大魔導士の杖はすごい値打ちものであることは間違いないよ。大魔導士さんが形見として魔物使いさんに残したってのも納得だね。となると、逆にすごすぎるのが問題になっちゃうねえ」


「そうなんですよ、マオウちゃん。モンスターマスターちゃんったら、『伝説の武器クラスのものなんて、とてもじゃないけれどいただけません』なんて遠慮しちゃってるんですから」


「魔物使いさんの言いそうなことだねえ。で、ユウシャちゃんはどうするのがいいと思うかい」


「それは……モンスターマスターちゃんにお子さんとかはいらっしゃらないんですか。もしいたら、その方に相続していただくのが一番丸く収まると思うんですが」


「お子さんかあ、確かいたと思うけれど……形見分けをしようと言う魔物使いさんの心意気に水を差すような真似はできればしたくないんだけれど。肝心の魔物使いさんが受け取れないって言うんじゃあねえ」


「困ったことになりましたね、マオウちゃん」


「なに人ごとみたいに言ってるの、ユウシャちゃん。そもそもね、ユウシャちゃんがこの杖は価値があるかもしれないなんて大騒ぎしたのが原因なんだよ。魔物使いさんに『この杖値打ちものかしら』なんて聞かれた時にね、ユウシャちゃんが『ああ、こんなもの。ただの棒ですよ。こんなものが形見だなんて、大魔導士さんももうろくしましたね』とでも言っておけばこんな騒ぎにはならなかったのよ」


「えええ、マオウちゃん。そんなこと言われても」


「もしユウシャちゃんがそう答えたとしたらね、魔物使いさんも『そう、ただの棒なの。でも、大魔導士さんが形見として残してくれたんだから、大切にとっておくとしましょうかね』なんて言って大事に大事にしたことでしょうよ。なにせ聖母様なんだから。そうなってれば大魔導士さんの意もくめて、めでたしめでたしだったのに」


「それじゃああたしが大魔導士さんを色ボケ扱いするただの嫌な奴じゃあないですか」


「勇者と名乗るからには、自分があえて汚名をかぶるくらいのことはできないといけませんよ、ユウシャちゃん。自分が悪役になることでハッピーエンドになるなら、それでいいじゃない。ひょっとしたら、それが大魔導士さんの目的だったのかも。これは大魔導士さんなりのユウシャちゃんへの、ここレトロゲーム世界への入所試験だったのかもねえ。ユウシャちゃんの器量をはかるさ」


「そんなあ、それじゃああたしは大魔導士さんの試験には不合格ってことですか」


「落ち着きなさいってば。たしかにわたしみたいなものの浅知恵からすれば、今回のユウシャちゃんの行動は今ひとつだったかもしれないけれど、大魔導士さんみたいな賢人からすれば、別のものの見方をするかもしれないよ」


「どういうことですか、マオウちゃん」


「それはね、さっきわたしが言ったみたいな小賢しい知恵を回すような人間は、参謀としてはふさわしくても、リーダーとしてはどうかということさ。魔物使いさんに真剣に相談されて、冷静にそろばんを弾くような人間よりは、本心をあけっぴろげに話す人間の方がリーダーとしてはふさわしいと大魔導士さんは考えるかもしれないってことさ。器量をはかるってのは、そういうことなんだよ」


「なんだか難しいです、マオウちゃん」

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