第13話ユウシャちゃんブキヤちゃんに鑑定させる・ブキヤちゃんの部屋にて

 コンコン


「おーい、ブキヤちゃん。もうここレトロゲームセカイに来てるんでしょ。この家にいるんでしょ、さっきマオウちゃんに聞いたよ。ねえ、ブキヤちゃんってば」


 ガチャ


「なんだい、さっきからうるさいねえ。そんなにノックしなくても今ドアを開けましたよ……ってユウシャちゃん、ユウシャちゃんじゃないか。ユウシャちゃんもレトロゲームセカイに住むことにしたの。うん、そのほうがいいよ。もうガチャやらカキンなんてものがまかり通っている現世なんておさらばだよ」


「うん、ブキヤちゃん。ここに住むことになったのはなったんだけどね。ちょっとブキヤちゃんに見てもらいたいものがあるんだけれどね」


「見てもらいたいもの? 何かな、見せてごらん」


「これなんだけどね、ブキヤちゃん」


「ふむ……魔導士の杖みたいだね。使用済みだから定価の半額で買い取り致しますがってところだけれど……あれれ、何か変だな。魔導士の杖だけどただの魔導士の杖じゃないみたいな……何か変だな。わたしみたいなしがない武器屋にたまにとんでもないものを持ち込んでくるお客さんもいてね、そんな場合は『これは! こんなものは買い取れません』なんて言ってるんだけれどね。この杖にはなんだかそれと似た感じがするなあ」


「わあ、やっぱりブキヤちゃんにもわかるんだ。この杖はね、あの大魔導士さんが使っていた杖なんだよ」


「ああ、道理で。ユウシャちゃんも人が悪いなあ。そんな大魔導士さんが使っていた杖と、そんじょそこらの魔導士の杖が同じ値段なわけないじゃないか。大魔導士愛用の杖ともなれば、それだけでプレミアがつくよ」


「でもさ、大魔導士さんが使った杖と言っても、ちょこちょこっと足の支えに使った杖と、魔法詠唱のために使いに使い込んだ杖とじゃあ、そのプレミアムの付き具合も違うんじゃない。そのあたりを、武器のプロフェッショナルであるブキヤちゃんに鑑定してもらいたいんだけれど」


「だったら、この杖を道具として使ってみたらわかるんじゃないかな、ユウシャちゃん。特別ば武器には、特別な効果がある場合もあるからね。『この武器は、道具としても使っても効果があるぜ』みたいな。確証はないけどね」


「それって、ソウリョちゃんやマホウツカイちゃんじゃなくてもできるの」


「できるよ。魔法が使えなくても、武器の特殊効果は発動させられるからね。ああ、でも、何か凄い攻撃呪文が発動しちゃっても困るなあ。どこか開けた場所があればいいんだけれど」


「何か凄い攻撃呪文かあ。たしかにそんなことが起こっちゃったら困るねえ……あ」


「うん? どうしたい、ユウシャちゃん。何か思いついたような顔しちゃって……ああ、なるほどね。それもそうか。凄い攻撃呪文を発動させるのにぴったりの相手がここレトロゲームセカイにはいるじゃないか」


「ブキヤちゃん。そりゃあマオウちゃんはちょっとやそっとの攻撃呪文じゃあびくともしなさそうだけれど、まだ攻撃呪文が発動すると決まったわけじゃないし……いちいちこんなことでマオウちゃんの手をわずらわすのも……」


「へえ、ユウシャちゃんは魔王さんを『マオウちゃん』なんて呼んでいるのかい。ずいぶんと二人は仲良くなったんだね。そんなに親密になったんだったら、ぜひお願いするといいよ。それに、魔王さんはここレトロゲームセカイの管理人でもあるからね。大魔導士の杖なんてものがここで見つかったら、それの鑑定だって魔王さんの立派な仕事さ。遠慮なく魔王さんにお願いするといい」


「それですよ、ブキヤちゃん。マオウちゃんったら、思っていたほど悪い人じゃあないんですよ。ブキヤちゃんもそれを知ってたみたいじゃあないですか。それなのに武器屋なんてやってちゃって。あたしがブキヤちゃんの店にある百万ゴールドの剣で、マオウちゃんを倒すことをどれだけ夢見てたんだと思ってたんですか」


「はは、ごめんごめん、ユウシャちゃん。でも、わたしもしがない一武器屋だからねえ。そんな世界のシステムに逆らうようなだいそれたまねなんてできやしないよ。それじゃあ、百万ゴールドの剣にユウシャちゃんが『予約済み』って落書きしたことを見逃していたことでちゃらってことにしてくれないかな」


「う、気付いてたんですか、ブキヤちゃん」


「当たり前じゃない、ユウシャちゃん。わたしが何年武器屋やってると思ってるの」


「ま、まあ、マオウちゃんも『武器屋さんを悪く言わないでね』って言ってたし……その話題はこのくらいにしようじゃありませんか」


「そうだね、それがいいよ、ユウシャちゃん。じゃあ、その大魔導士に杖を持って魔王さんのところにいっておいで」


「そうですね、そうします。それじゃあね、ブキヤちゃん」


 たったった


「ユウシャちゃんったら、‘せわしないねえ。それにしても、わたしが魔王さんと初めて会った時はその迫力にお漏らししそうになっちゃって、今でもそのトラウマが心に焼き付いているけれど……そんな魔王さんをユウシャちゃんは『マオウちゃん』呼びかあ。やっぱりユウシャちゃんにはなにか秘めたものがあったんだな」

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