第12話ユウシャちゃんモンスターマスターちゃんに相談される・ユウシャちゃんの部屋にて

 コンコン


「はーい、こちら勇者です、どちらさんですか」


 ガチャ


「ドアを開けて失礼します。あの、勇者さんですか」


「はあ、そうですけれども……あああ、ひょっとして魔物使いさんですか。とりあえず中へどうぞ。それにしても、他のみんながモンスターを倒すべき敵としか思っていなかったのに、そんなモンスターを仲間にしちゃう聖母みたいな人がいるって聞いてました。それがもしかして」


「そんなたいしたことじゃあないんですよ。ただモンスターが向こうから寄ってきてくれるだけで。ああ、魔物使いさんさんなんて呼ばれるとはずかしくなっっちゃうわ。わたしのことはモンスターマスターちゃんって呼んでくださるかしら」


「じゃ、じゃあ、あたしのこともユウシャちゃんと呼んでください。みんなそう呼びますから」


「そう? ならユウシャちゃん。その、相談があるんですけれども」


「相談ですか。あたしに解決できるかなあ。とりあえず話してみてくれますか、モンスターマスターちゃん」


「それはですね、ユウシャちゃん。大魔導士さんってご存知ですか」


「もちろんですよ。ソウリョちゃんの使う魔法もマホウツカイちゃんの使う魔法も両方使えて、それ以外にもいろんな魔法が使える大天才さんじゃないですか。あたしも何度かお世話になりました。これからもいろいろ教えてもらおうと思ってたんですが」


「ご存知なら話は早いです、ユウシャちゃん。その大魔導士さんがですがね、よる年波には勝てずに、ここで面倒を見てもらっているんですね。ところが、その大魔導士さん、どうも最近判断力が衰えてきちゃっているみたいで。昔はあれだけ自由自在に使いこなせていた魔法も今はてんでダメなんですよ。前はちょっとくらい暑かったり寒かったりしたら、自分で環境を魔法でどうにかしちゃってたのに。ここのところスタッフさんに暑いからあおげとか、寒いからたき火しろとか文句ばっかりで」


「そうなんですか、それは大変ですねえ、なんとかならないんですか、モンスターマスターちゃん」


「マオウちゃんたちもいろいろ手は尽くしているんですが、どうもうまくいかないみたいで。それで、わたしも大魔導士さんにはお世話になりましたから、何度かお見舞いにいかせていただいたんですね。そしたら、わたしのことをなんだか酒場のバニーガールかなにかと勘違いしちゃっているみたいで、おしりやおっぱいを触ってくるんですね」


「そ、それは女同士とは言え問題ですねえ。でも、大魔導士さんは昔からそんなところありましたよ。あたしも頼みを聞いてもらう代わりにいろんなところ触られましたし」


「まあ、ユウシャちゃんもだったんですか。よかった、わたしだけじゃなかったのね。ユウシャちゃんに相談してよかったわ」


「少しくらいのお触りなら、偉大な大魔導士への敬意ってことで我慢できませんか、モンスターマスターちゃん。なんならあたしも少しくらいなら協力しますよ」


「いえ、相談の本質はそこではなくてですね、ユウシャちゃん。実は大魔導士さんがこんなことを言い出したんですね。『お前には世話になった。これは形見みたいなものだ』なんて。ニコニコ笑いながら。それで、こんな杖をいただいたんですね。わたしは戦いに関してはモンスターに任せっぱなしなものですから、武器に関してはよくわからないんですね。それで、ユウシャちゃんに見てもらおうと思いまして」


「杖ですか……あたしも装備するのは基本的に剣なんで、杖のことはよくわからないんですけれども……大魔導士さんが形見としてモンスターマスターちゃんに渡された杖ですかあ、むむう」


「その、どうですか、ユウシャちゃん」


「あたしが見るかぎり、この杖はただの魔導士の杖です。そこそこ高価ですが、あくまでそこそこですね。ですけど、大魔導士さんが長年使い込んだ杖となれば話は別です。ただの魔導士の杖でも大魔導士さんが長年使い込んだとなると、特別な力が宿るようになってもちっともおかしくないと思います。となると、とんでもない価値あるものになっていることも十分考えられると思います。はっきり言って、伝説の武器レベルの」


「そんな高価なもの、わたしいただけないわ、ユウシャちゃん。おボケになった大魔導士さんがたわむれにちょっとしたものをプレゼントしてくれたのかな、くらいに思っていたからわたし受け取りましたけれど、そんな伝説の武器だなんてことになったら、わたし、とてもじゃないけれど身の回りに置いておけません」


「落ち着いてください、モンスターマスターちゃん。まだそうだと決まったわけではありませんから。万が一にでもそうだったら大変だ。下手に扱ったら人類にとっての損失だ。と言うことですから。なんてったって、あの大魔導士さんが形見として残そうとするものですからね。そうだ、あたしに武器屋の知り合いがいますから、その子に見てもらいましょう。少しこの杖お借りしていいですか」


「それは平気ですけれども、ユウシャちゃんにもわからないことがあるんですね。ユウシャちゃんはわたしなんかよりもずっと以前から旅をしてらしている大先輩なんですから、てっきりあっという間に解決してくれるものとばかり思っていたんですけれど……」


「いやいやいや、そんなに買い被らないでくださいよ、モンスターマスターちゃん。あたしなんか全然まだまだなんだから」

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